その遺言書は無効!?「相続させる」という表記が間違っているケースとは?
遺言書の中でも最も利用する人が多いと言われている「自筆証書遺言(本人の直筆で書く遺言書)」は、作成にあたって弁護士や裁判所が関与する必要がありません。直筆で書いて、署名捺印と作成日の日付があれば有効に成立します。手軽さがメリットである一方で、専門家の監修がないために、内容の一部が無効になってしまうケースが散見されるという問題点があります。
遺言書に良くあるミスとしてあげられるのが「相続させる」という表現です。一見正しいように聞こえますが、実は「相続させる」と書いた方が良い場合と、書いてもその部分が無効として扱われてしまう場合があります。
そこで今回は、遺言書に「相続させる」と記入することの法的な意味と、ケースに応じた正しい表記の仕方について詳しく解説します。これから遺言書を書こうかとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
どんな遺言書が有効になる?
遺言書を作成する際の記載方法には、直筆、署名捺印、日付の記入といった最低限の規定こそあるものの、それ以外の具体的な文章の書き方については特に何の取り決めもありません。
ですから「〇〇に相続させる」と書くこともできれば、「〇〇に与える」「〇〇に譲る」「〇〇にあげる」などの表現で書くことも可能です。どの表記でも基本的には遺言は有効です。
ただし、実際に相続が発生して遺言書を執行する段階になると「相続させる」とそれ以外の表記では効力が変わってくるため注意が必要です。
「相続させる」と「与える」との違いは?
例えば「不動産Xを太郎に相続させる」との遺言書があるとします。
太郎以外にも相続人がいた場合、仲が悪いと不動産の所有権移転登記(不動産の名義変更手続きのこと)について、他の相続人の協力が得られない可能性があります。
その際に遺言書の書き方が先ほどのように「太郎に相続させる」と書いてあれば、太郎が「単独」で所有権移転登記申請をすることができます。
対して「〇〇に与える」「〇〇に譲る」「〇〇にあげる」などの表記で遺言書を記載した場合は、相続人単独での手続きができなくなる可能性があります。というのも、そもそも「相続」という表現は、法律上非常に重要で、与える、譲る、あげるという表現とは違う意味で認識されます。
具体的に言うと、「相続」というのは民法の規定に基づいて相続人が遺産を受け継ぐことです。これに対し、与える、譲る、あげるといった表現は、原則として「相続」ではなく、「遺贈」という扱いを受けることになります。
「相続」と「遺贈」の違いは?
遺贈とは、遺言書によって特定の人物に遺産をあげることで、相続人の地位に基づいて遺産を引き継ぐ「相続」とは明確に区別されています。
遺贈は相続人以外の他人に対してもすることができます。
そして、遺贈を受ける人(受遺者という)が不動産の所有権移転登記をするには、「相続」の時のように、相続人が「単独」で申請することはできず、すべての法定相続人と「共同」で行わなければなりません。(遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者と共同で申請します)
そのため、他の相続人と遺産分割でもめてしまうと登記申請の協力が得られず、いつまで経っても名義変更ができなくなる恐れがあります。
相続人に対して遺産を残したい場合は、「〇〇に与える」「〇〇に譲る」「〇〇にあげる」「〇〇に遺贈する」といった表記ではなく「〇〇に相続させる」と書くようにしましょう。
「相続させる」と書くと無効になる可能性がある場合
「〇〇に相続させる」と書いた方が良いとお伝えしましたが、その反対に「〇〇に相続させる」と書くと無効になってしまうケースもあります。
それは「法定相続人以外」の人に遺産を渡したい時です。
先ほども言いましたが「相続」という表現は、法定相続人に対してのみ使える言葉です。そのため、法定相続人ではない内縁関係の相手方や元配偶者、その他遠い親戚や友人などに遺産を残したいときに「〇〇に相続させる」と表記してしまうと、法的にはその人たちは法定相続人ではないため「相続」をすることができず、その部分に関しては無効という扱いを受けてしまう恐れがあります。
法定相続人以外の人に遺産を渡したい場合は、「〇〇に相続させる」ではなく「〇〇に遺贈する」が正しい書き方です。
なお実際は、法定相続人以外の人に対して「〇〇に相続させる」という表記をしたとしても、遺言書の内容からそれが「遺贈する」という意思で書かれていることがわかれば、無効と扱われず有効ということもあります。
過去の判例でも、「遺言書の記載からその趣旨が「遺贈」であることが明らかであるか、または遺贈と解すべき特段の事情がない限り、単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである」という内容の判断が示されています。
ただし、例えば「妻〇〇に相続させる」という遺言書を書いた後にその妻と離婚し、その後相続が発生したような事例では、相続時点では妻は元妻になっていて相続人ではないため、遺言が取り消されたものとみなし、「相続させる」という表記では「遺贈する」と読み替えることはできないと否定した判例もあります。
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おわりに
最後にもう一度話を整理してまとめたいと思います。
- 遺産を譲りたい人が法定相続人の場合は「〇〇に相続させる」と書く
- 遺産を譲りたい人が法定相続人以外の場合は「〇〇に遺贈する」と書く
法定相続人の場合は、たとえ「〇〇に与える」「〇〇に譲る」「〇〇にあげる」「〇〇に遺贈する」と書いても遺贈として扱われますが、法定相続人以外に対して「〇〇に相続させる」と書いてしまうと、事情によってはその部分が無効になってしまう恐れがあります。遺言書を書く際にはこれらの表記について、意味を理解して正しく記載するようにしましょう。
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