「結婚・子育て資金贈与の非課税措置」で最大1000万円が非課税!デメリットは?
消費を促すことを目的に、シニア世代の資金を現役世代に動かす際に贈与税が非課税となる特例が設けられています。そのひとつが「結婚・子育て資金贈与の非課税措置」です。この制度を理解して上手に活用すれば、生前対策の効果を発揮することもできます。そこで制度の概要をはじめ、手続き方法やデメリットまでしっかり確認しておきましょう。
目次
「結婚・子育て資金贈与の非課税措置」とは
両親や祖父母から結婚や出産、子育てなどの場面において、資金を援助してもらうことは少なくありません。
「結婚・子育て資金贈与の非課税措置」は、子どもや孫に対して、両親や祖父母から結婚や子育てに関する資金を贈与した場合、最大1000万円まで贈与税が非課税になるという制度です。
正式名称を「父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」といいます。
また生前贈与をした分、遺産総額を減らすことができ、結果的に相続税対策にも繋がるため生前対策のひとつとしても注目されています。
受贈者1人あたり1000万円まで
最大1000万円までの非課税枠は、贈与する人(贈与者)ごとではなく、贈与を受ける人(受贈者)ごとになります。
つまり、この制度を使って母親から600万円の贈与を受けたとすると、残りは400万円なので、祖母などからの贈与が非課税になるのは400万円までとなります。
なお、このうち結婚費用については300万円までとなっています。
祖父母や父母など直系尊属から20歳以上の子や孫への暦年贈与で1000万円の贈与を受けた場合は、単純計算で約177万円の贈与税が発生しますので、この分が節税できるということです。
暦年贈与とは
税法では、1年間(毎年1月1日から12月31日まで)に贈与された金額が110万円を超えると、贈与税が発生します。この仕組みを「暦年課税制度(暦年贈与)」といい、いわゆる通常の贈与のことです。
対象期間は2025年3月31日まで
この制度は2015年から開始され、これまで適用期限の延長が繰り返し行われていましたが、令和5年度(2023年)税制改正によって2年延長され、2025年3月31日までとなりました。
制度の対象となる人
制度を利用できるのは、以下の要件を満たす人です。
- 受贈者:20歳以上50歳未満(※)の人で、信託等を受ける日が属する年の前年の受贈者の合計所得金額が1000万円以下
※2022年4月1日以降の贈与は18歳以上50歳未満 - 贈与者:直系の関係にある尊属(曽祖父母・祖父母・父母)
取扱金融機関
制度を利用するためには、取り扱い金融機関で結婚・子育て資金用の専用口座を開設する必要があります。
取り扱い金融機関は内閣府のホームページ上で公表されており、主に信託銀行が多く扱っています。
- 三菱UFJ信託銀行…「結婚・子育て支援信託」
- 三井住友信託銀行…「結婚・子育て支援信託〈つなぐ想い〉」
- みずほ信託銀行…「結婚・子育て支援信託〈希望の贈りもの〉」
- りそな銀行…「結婚・子育て支援信託」
結婚・子育て資金の範囲
結婚・子育て資金贈与の非課税措置では、受贈者に直接資金を渡すことができません。
専用口座に一度預け入れをする必要があり、引き出す際は対象となる結婚・子育て資金かどうかを領収書等で確認されるという流れになっています。
対象のものではなく引き出せなかった、ということにならないように、あらかじめ対象となる費目について確認しておきましょう。
結婚資金に含まれるもの・含まれないもの
結婚資金に含まれるものは、「結婚式の会場費用や衣装代」「引き出物代」、さらには「写真撮影」や「ビデオ撮影」にかかる費用などが対象となります。
また、結婚後の「新居を借りるための敷金・礼金・仲介手数料」、「引越し費用」などについても、結婚式の費用と合わせて300万円までは対象です。
一方で、結婚に関連する費用でも、“必ずしも必要のないもの”については含まれません。
たとえば、「結納にかかる費用」や「婚約指輪・結婚指輪の購入費用」、「新婚旅行費」「婚活にかかる費用」、「新居の家具等の購入費用」などです。
結婚関連費用…300万円まで
- 挙式、披露宴費用/挙式費用・衣装代、披露宴費用(飲食・引き出物・写真等)など
- 新居関連費用/家賃、敷金・礼金、仲介手数料・契約更新料、引越し費用など
子育て費用に含まれるもの・含まれないもの
子育て費用に含まれるものは、「出産費用」から子供の「育児に関する費用」まで、幅広い範囲が含まれるのが特徴です。
ただし、遠隔地や海外での「不妊治療」や「出産」などをした場合に支出した、「交通費」や「宿泊費」、「処方箋に基づかない薬代」などは含まれません。
また、子育ての対象となる子が未就学児(小学校入学前)の間に限定されていますので、注意が必要です。なお2021年4月1日以降は、1日あたり5人以下の乳幼児を保育する認可外保育施設のうち、都道府県知事等から一定の基準を満たす旨の証明書を交付された施設に対する「保育料」が追加されました。
子育て費用…1000万円まで(結婚関連費用との合計)
- 出産費用/不妊治療費用、妊婦検診費用、分娩費用、産後ケア費用など
- 育児費用/子の医療費(保険適用内・外)、保育園・幼稚園費用、ベビーシッター費用 など
特例を利用するメリット
結婚・子育て資金贈与の非課税措置には、最大1000万円までの贈与が非課税になるという以外にも、次のようなメリットがあります。
目的外の使用を制限できる
贈与された資金の使用目的は、「結婚・子育て費用」に限定されています。
取扱金融機関の口座を通して払い出しを行うため、使ったお金が先述の「結婚費用」や「子育て費用」に含まれるかどうかが、領収書等でチェックされます。
これにより、「孫の子育て費用のために贈与したお金が、実際は別のことに使用されてしまった」といったような、贈与者の意思に反した別の用途で使われるリスクを回避することができるのです。
一括で贈与したいときに有効
暦年贈与の基礎控除は年間で110万円が上限となっています。そして、この金額を超える贈与については贈与税が課税されます。
結婚費用や子育て費用などに関しては、年間110万円の贈与では足りない可能性もあり、必要な時に必要なお金を非課税で贈与することが難しいケースもあります。
そんなときにこの制度を利用すれば、一括で1000万円までの資金を非課税で贈与することができるのです。あとは必要な時にその都度払い出しをすればいいということになります。
また、この非課税措置は暦年贈与と併用することも可能です。そのため暦年贈与と併用すると、受贈者1人あたり最大1110万円まで非課税で一括贈与を受けることができます。
特例を利用するデメリット
結婚・子育て資金贈与の非課税措置には、メリットだけでなく、デメリットもあります。
口座開設の手間がかかる
制度を利用するには、取扱金融機関で贈与資金を入金するための専用口座を開設しなければなりません。
通常の普通預金口座を開設するのとは違い、複数の必要書類を準備しなければならないなど、開設までに手間と労力がかかります。
結婚・子育て資金以外に使用できない
贈与をする側としては、目的外の使用を制限できるというメリットがありますが、贈与を受けた側は、目的外のことに使用できないということがデメリットになります。
また、この制度の子育て費用は、子どもが小学校入学前の間の利用に限定されています。そのため、子どもの教育資金のための贈与の場合には、30歳になるまでの教育費として使える「教育資金の非課税の特例」を選択したほうが良い場合もあります。
結婚・子育て資金はそもそも非課税
両親や祖父母は、子どもや孫に対して「扶養義務」があります。
そのため、扶養義務者が必要なときに必要な分の結婚費用や子育て費用を贈与したとしても、そもそも税金はかからないのです。
この制度を利用するには、専用口座を事前に開設したり使ったお金の領収書を金融機関に提出したりするなど、さまざまな手間がかかります。
わざわざこの制度を活用するメリットは、まとまった金額を生前贈与により「一括」で贈与し、相続財産を減らしたい場合といえます。
つまり、このような状況でなければ、そもそも制度を使うメリットは低いということです。
暦年贈与の方が有利になることも
制度利用中に贈与者が亡くなった場合は、その時点の残額が相続税の課税財産に加算されます。そのため、使い切らなければ非課税措置のメリットを100%受けることができません。
一方で暦年贈与は、年間110万円までの贈与について非課税とする制度です。結婚・子育て資金贈与の非課税措置は、贈与を受けられるのは1人1回のみという決まりがありますが、暦年贈与は回数制限はありません。
よって、この非課税枠を毎年使って長期的に贈与したほうが、結果的に節税の面で有利になる可能性もあるのです。
ただし、暦年贈与により相続開始前の一定期間に贈与された財産は、相続税の課税財産として扱われます。これまでは、相続開始前3年以内に贈与された財産が対象でしたが、令和5年度(2023年)税制改正により、2024年1月以降は3年から7年に段階的に延長されます。
このように、制度を利用することによりデメリットが生じるケースもあります。利用する際には、事前に子供や孫のライフプランとも照らし合わせながら、慎重に判断することをおすすめします。
特例制度を利用するときの注意点
結婚・子育て資金贈与の非課税措置を実際に利用する際には、以下のような点に注意してください。
50歳までに使い切る必要がある
受贈者の年齢は20歳(2022年4月以降は18歳)以上50歳未満という条件があるため、50歳を超えて残っている金額については、贈与税の課税対象となります。
たとえば、50歳になった時点で口座残高が200万円だった場合、「(200万円 - 基礎控除110万) × 10% = 9万円」の贈与税を納める必要があるということです。
また、残高に課税される贈与税について、これまでは「特例税率」が適用されていましたが、2023年4月1日以降に贈与を受けた部分に関しては、「一般税率」が適用されます。
2021年4月1日以降の贈与は相続税額の2割加算の対象に
この制度では、信託期間中に贈与者が亡くなり、使い切れずに残った残額は、相続税の課税財産に加算されます。ただし、受贈者が孫などで贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課せられる際に、通常納める相続税額に対して2割に相当する金額が加算される「相続税額の2割加算」の対象外でした。
ところが令和3年度(2021年度)税制改正により、2021年4月1日以降に結婚・子育て資金の贈与を受けた際には、相続税額の2割加算が適用されることになりました。
そのため、この制度で贈与を受けた場合は、贈与者が亡くなるまでに使い切ることを前提とする必要があります。
利子などの運用益は課税対象
結婚・子育て資金贈与の非課税措置で開設した口座に、一括贈与されたお金を預けていると、利子がつく可能性があります。
この時ついた利子については、贈与税ではなく、所得税や住民税の課税対象となります。
もっとも現在は低金利であり利子自体は少額となるので、あまり気にする必要はないでしょう。
他の贈与制度と併用について
結婚・子育て資金の贈与以外にも、贈与税にはさまざまな特例制度があります。
たとえば、前述した「教育資金の非課税の特例」や、住宅を取得するための資金の贈与なら最大1000万円まで贈与税が非課税になる「住宅取得等資金贈与の特例」などです。
これらの贈与制度はそれぞれの条件を満たしているならば、併用することが可能になっています。また、暦年贈与や「相続時精算課税制度」とも併用も可能です。
遺産総額が減らせれば相続税の大幅な節税にもつながるため、相続税がかかる可能性があるなら、制度の併用も検討すると良いでしょう。
「結婚・子育て資金贈与の非課税措置」の申請手順
それでは、結婚・子育て資金贈与の非課税措置の申請手順をご説明します。
まずは、金融機関を選びます。契約できるのは受贈者1人につき1つの金融機関に限られますので、選ぶ際は以下のような点を考慮して決めると良いでしょう。
- 受贈者が利用しやすい場所にある
- 口座管理手数料や引き出し手数料などが少なくて済む
- 贈与資金口座から直接支払先に振り込むことができる
- 手続きに手間がかかりづらい仕組みになっている
利用する金融機関を決めたら、贈与者の普通預金口座を開設します(すでに所有している場合は不要です)。次に、結婚・子育て資金を託す受贈者の専用口座を開設します。
この口座開設には、贈与する父母や祖父母だけでなく、贈与を受ける子や孫など全員が同席します。受贈者が未成年の場合は、法定代理人(原則として受贈者の親)の同席も必要になります。
申込時には以下のような書類を用意してください。
- 戸籍謄本の原本
- 贈与契約書の原本
- 贈与者および受贈者の本人確認書類
- 受贈者の個人番号確認書類
- 受贈者の所得証明書類
- 受贈者の印鑑
- 結婚・子育て資金非課税申告書(金融機関が用意)
そして、「結婚・子育て資金非課税申告書」に記載された金額について、専用口座に入金をします。なお、贈与資金を専用口座に一括入金するのではなく、複数回に分けることが可能な金融機関もあります。
入金後は、金融機関から受贈者の住んでいる地域を管轄する税務署に「結婚・子育て資金非課税申告書」が提出されます。この申告書が提出されると、申請完了となります。
資金の引き出し方
受贈者が資金を引き出すには、「領収書払い方式」または「請求書払い方式」のいずれかを選択するのが一般的です(名称は金融機関により異なります)。
領収書払い方式
領収書払い方式では、支払いの事実を証明する書類(領収書)を贈与資金口座がある金融機関に提出することで、資金を引き出せます。つまり、結婚などにかかる費用を先に支払い、後日清算することになるので、支払い時は費用を立て替えておく必要があります。
請求書払い方式
請求書払い方式は、結婚式場や病院等からの請求書を金融機関に提出することで、金融機関が直接支払いを行うというものです。
この場合は、支払いを立て替える必要がなくなります。ただし、請求書払い方式の扱いのある金融機関は限られています。
「支払いの事実を証明する書類」とは
「支払いの事実を証明する書類」とは、主に「領収書」のことです。
領収書がないような場合は、「支払年月日、金額、摘要(支払内容)、支払者(宛名)、支払先の氏名(名称)及び支払先の住所(所在地)」が記されている書類であれば、代わりとして認められます。別途各費用ごとに定められた確認書類が必要になる場合があります。
領収書の代わりとして認められる書類の例
- インターネットバンキングの振込完了画面を印刷した書面
- クレジットカード利用明細書
- 引落口座の通帳コピー
- 口座振替依頼書
- 賃貸借契約書(家賃等に係る費用の場合)
- 月謝袋(子育て費用の場合)
内閣府のホームページで、領収書に関連する注意事項などが公表されていますので、事前にチェックしておくと良いでしょう。
おわりに
結婚・子育て資金贈与の非課税措置は、最大1000万円まで非課税で贈与できる制度です。
そのため、この制度を活用して生前贈与を行うと、将来かかる相続税を節税することが可能になります。贈与者からすれば、元気なうちにお金が必要な人に贈与することで、生きたお金の使い方ができるというのも、魅力のひとつでしょう。
ただし、受贈者が50歳になった時点で残っている金額分に贈与税がかかるので、忘れずに贈与税の申告をしましょう。また、資金使途が限定されているため、どの費用がこの特例の対象になるかなど、事前に確認しておくことも重要になります。
財産内容や家族構成、ライフプランなどによって、生前贈与の方法は変わってきますので、より効果的な生前対策を実施していくためには、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。
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