欠損金の繰越控除とは?計算方法や繰戻し還付についてわかりやすく解説

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欠損金の繰越控除とは?計算方法や繰戻し還付についてわかりやすく解説

著者: 安島 秀樹 代表税理士

景気の変動や業界動向の影響などにより、赤字(欠損金)が発生することもあります。そんなときに利用したいのが「欠損金の繰越控除と繰戻し還付」です。

この制度を利用することで、すでに納めた法人税の繰越し還付と、翌年度以降の法人住民税を減額することができます。この記事では、これらの制度の仕組みや計算方法などを解説します。

目次

欠損金の繰越控除とは

個人でも会社でも、起業したばかりの頃は経費がかさみ、どうしても赤字経営になりがちです。うまく成長軌道に乗っても、景気の変動や業界の動向によって、ある年は黒字、ある年は赤字(法人ではこの赤字を欠損金と呼びます)と波が出ることもあります。

所得税や法人税は、基本的にその年の黒字額に対してかかるものです。5年なり10年なり通算して赤字でも、黒字になったときには税金を払わなければいけないので、トータルで相当の税金を負担することにもなりえます。

欠損金の繰越控除は、先にでた赤字を後に出た黒字から控除することで、こうした不都合から企業を救ってくれる制度です。

赤字の繰越控除の制度は、法人にも個人の事業所得にもありますが、最初に法人について説明していきます。

控除額の計算方法

ある年度(1年目)の赤字が100万円(課税所得がゼロ、欠損金が100万円)、2年目の赤字が300万円、3年目に黒字が200万円出たとします。

欠損金の繰越控除は古い年度の欠損金から控除していきますので、3年目の黒字200万円から赤字分を控除するときには、1年目の赤字100万円と、2年目の赤字300万円のうち100万円を合わせて、200万円が控除されます。

そして、3年目の課税所得はゼロになり、2年目の赤字のうち控除できなかった200万円が次の年度に欠損金として繰り越されます。

4年目にも黒字がでて、金額が300万円だったとします。この場合、4年目の黒字300万円から200万円が控除されて、課税所得が100万円、繰り越される欠損金はゼロと計算されます。

控除限度額

控除限度額は、大企業(資本金1億円超)と中小企業(資本金1億円以下の法人、公益法人や人格のない社団など)で差があります。

中小企業は繰越控除前の所得の100%が限度額になります。一方、大企業は年度によって異なり、50%から80%が限度額になっています。平成27年3月31日までは80%控除されていましたが、だんだんと引き下げられて、平成30年4月1日以降から始まる年度の控除率は50%となっています。

欠損金の繰越控除の繰越期間

繰越期間ですが、現在、平成20年4月1日から後に生じた欠損金の繰越期間は9年間でしたが、平成30年4月1日以降に生じた欠損金の繰越期間は10年間になり、1年間延長されました。

平成31年4月1日以降から始まる年度で控除できる欠損金は、平成22年4月1日以降から始まる年度の欠損金だけです。

欠損金の繰越控除の適用要件

法人が欠損金の繰越控除を適用するためには、次の要件をすべて満たす必要があります。

  • 欠損金が生じた年度に青色申告書の確定申告書を出している
  • そのあとの各年度において連続して確定申告書を出している
  • 帳簿書類を保管している

欠損金が生じた年度に青色申告書の確定申告書を出していれば、そのあとの事業年度で出した確定申告書が白色申告書であっても、この欠損金の繰越控除を使うことができます。

ただし、2つ目の要件の書き方に注意ください。「連続して」とあります。もし確定申告書を出していない年度があると、そのあとの年度において再び確定申告書を出しても、いままでの欠損金が控除できなくなることがあります。

また、「特定支配関係」といって、他の会社や個人が、法人の発行済株式や出資の50%を超える株式や出資を保有する事態が生じたときは、注意する必要があります。この関係が生じた日から5年以内に、旧事業(特定支配関係が生じた日の直前に営んでいた事業)をすべて廃止して、旧事業の事業規模の5倍以上の資金を借り入れるなどした場合は、その日の属する年度以降の年度では、それ以前の年度において生じた欠損金は繰越控除することはできなくなります。

個人事業主にも同様の制度がある

個人の事業所得では「損失申告」とよばれる制度があります。法人の欠損金の繰越控除と同じ効果がありますが、繰り越せるのは最長3年間です。

黒字から赤字になったときの繰戻し還付

欠損金の繰越控除は、赤字が先行して、後の年度で黒字が出た場合に、その黒字から先行する赤字を控除する制度でした。

これとは別に、黒字から一転して赤字になった場合に、前の年度に納めた法人税を還付してもらう「法人税の繰り戻し還付の請求」という制度もあります。黒字から一転、赤字になると、資金繰りに窮する法人も出てくるため、そうした企業を助ける制度です。

法人税の繰り戻し還付は、中小企業だけに適用されます。ただし、資本金5億円以上の親会社の100%子会社である中小企業には適用はありません

計算の仕組みは簡単です。次の金額が、赤字の出た年度に還付されます。

還付額 = 前年度の納めた法人税額 × (今年度の欠損金額(赤字) ÷ 前年度の所得金額(黒字))

前年度の黒字が100万円で、法人税額が15万円だとします。今年度に一転して50万円の赤字になったとすると、還付される法人税額は、「15万円 × (50万円 ÷ 100万円)= 7万5000円」です。もし100万円以上の赤字が出た場合には、前年度の法人税15万円がまるまる還付されます。そして、100万円を超える金額は、欠損金として次の年度以降に繰越すことができます。

還付の申請をするには次のような要件を満たしていないといけません。

  • 前年度も今年度も青色申告書の確定申告書を出していること
  • 今年度の確定申告書を申告期限までに出していること
  • 「欠損金の繰り戻しによる還付請求書」を出していること

地方税の還付はできない

還付は法人税だけに適用されるので、地方税である法人住民税や事業税には適用できません。

中小企業では、法人税の繰越欠損金の金額と、事業税の繰越欠損金の金額は同じ金額になるのが普通ですが、法人税の還付があると、還付請求した年度の赤字が、法人税の欠損金に加わることがない一方、事業税の繰越欠損金にはそのまま加わることになるので、両者で差異がでてきます。

還付請求した年度以降の年度で黒字になれば、法人税の還付請求をした年度の赤字もいずれ控除することができます。

ですから、長い目で見れば、還付請求できなかった事業税も、いずれは回収することができるともいえます。

還付時の法人住民税の繰越控除

実は、法人住民税には「控除対象法人税額」という取り扱いがあって、法人税の還付を受けた場合は、その還付法人税額を限度として計算した金額を、その後9年間における法人住民税の法人税割の課税標準となる法人税額から控除することができるのです。

住民税率を20%とすると、法人住民税は「法人税額 × 20%」ですから、先述の還付例では、「7万5000円 × 20% = 1万5000円」が、翌年度以降に控除されていきます。こまかい点ですが、還付翌年の地方税の申告書を作成するときには忘れないでください。

おわりに

欠損金の繰越控除が適用できれば大幅な節税に、繰戻し還付が適用できればキャッシュフローの改善に繋がります。こういった制度の適用の見落としや申告ミスを無くすには、税理士に決算申告を依頼するのがいちばんです。顧問契約がなくても、決算申告のみを依頼することもできるので、ぜひ検討するとよいでしょう。

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