赤字を繰越しできる青色申告のメリット「純損失の繰越控除」とは?
確定申告には青色申告と白色申告の2種類があります。青色申告は、事前に届出を行い複式簿記と呼ばれる方法で帳簿を作成するなどの条件を満たすことで、節税につながるさまざまなメリットを受けることができます。このページではその中から、赤字を3年間繰越して控除することができる「純損失の繰越控除」について解説します。
目次
青色申告ができる人と代表的な特典
まずは青色申告ができる人と、その人に与えられる代表的な特典について確認しておきます。
青色申告制度を利用できる条件
青色申告制度は不動産所得、事業所得、山林所得のいずれかを得ていて、日々の取引を複式簿記(正規の簿記の原則)で記帳し、その記帳に基づいて正しく申告している方が対象です。
あらかじめ「その年の3月15日まで」または「その年の1月16日以降、新たに事業を開始したり、不動産の貸付を行った場合には、事業開始日等から2か月以内」に「青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出しておくことで、確定申告時に青色申告の手続きを行えるようになります。
代表的な青色申告制度の特典
青色申告制度には白色申告にない特典が用意されており、代表的な特典には以下のようなものがあります。
- 青色申告特別控除:最高65万円の所得控除が受けられる
- 青色事業専従者給与:生計を一にする配偶者・親族に支払った給与を必要経費に算入できる
- 少額減価償却資産の特例:30万円未満の減価償却資産が即時償却できる(上限年間300万円)
このほかにも、貸倒引当金の繰入限度額を一括評価で計算できるなど各種特例があり、そしてこの特典のひとつに「純損失の繰越控除」があるのです。
純損失の繰越控除とは?
純損失の繰越控除については所得税法第70条にその内容が規定されています。
わかりやすく説明すると「純損失(赤字)が生じた場合に、その純損失が発生した翌年以降3年間の所得額(黒字)と相殺できる」という内容です。
つまり、赤字が生じた年以降も赤字を計上できるので、所得額を少なくできる(=納税額を少なくできる)メリットがあるわけです。
純損失の繰越控除を使う際の3つのポイント
実際に青色申告によって純損失の繰越控除を適用する際に、注意しておくべきポイントは以下のとおりです。
1.純損失額は「損益通算しても控除しきれない金額」
先ほどの説明では分かりやすく純損失を赤字部分としましたが、実際には純損失額とは「損益通算しても控除しきれない部分の金額」のことを言います。
損益通算とは事業所得や不動産所得など、異なる所得区分で損失が生じた場合にこれらを合計できる制度です。この損益通算をしても損失額が生じていれば「純損失の繰越控除」を行えます。
2.繰越控除は「古い年に発生した損失分から控除される」
複数年分の繰越控除が生じている場合は「最も古い年分の損失分」から順次控除していかなければなりません。
たとえば令和元年と令和2年に純損失が生じている場合、令和3年の申告時には令和元年の純損失額を繰越控除に使い、それでも黒字の場合に令和2年分の純損失額を繰越控除に使います。
3.控除順序は「山林所得かその他の所得で順番が変わる」
同じ年分に2種類以上の純損失が生じている場合も控除順序が決められています。それは山林所得かその他の所得かで順番が変わり、以下のとおりに決められています。
- 山林所得:山林所得→総合課税の所得→退職所得の順に控除される
- 山林所得以外:総合課税の所得→山林所得→退職所得の順に控除される
もし、事業所得や不動産所得などで繰越控除をするのであれば、「山林所得以外」の順序に則って手続きを行うようにします。
純損失の繰越控除を受ける際の申告手続き
純損失の繰越控除を受けるにあたって、純損失が生じた年度分の確定申告を申告期限までに行っている必要があります。また、純損失が生じた翌年以降も連続して確定申告書を提出しなければなりません。
「申告書第四表(損失申告用)」を提出する
純損失の繰越控除をする際は、確定申告書と一緒に「申告書第四表(損失申告用)」も提出します。
第四表には以下のような記入欄が設けられています。
- 損失額または所得金額:各所得の損失額を計算する箇所で、事業所得などは「経常所得」欄にその金額を記入する
- 損益の通算:それぞれの損益額を計算して、純損失(または所得金額)の合計額を算出する
- 翌年以降に繰り越す損失額:翌年以降に繰り越す純損失額を記入する箇所で、「青色申告者の損失の金額」に書き入れる
- 繰越損失を差し引く計算:実際に繰越純損失を計上する際に記入する箇所で、過去3年分の損失額を書くようにする
申告書第四表には、その他にも株式に係る譲渡所得から差し引く損失額や、上場株式等に係る配当所得から差し引く損失額などの記入欄も設けられています。青色申告では、以上の4つの箇所を押さえておきましょう。
おわりに
「純損失の繰越控除」のように青色申告にはさまざまな特典があります。
クラウド会計ソフトの発達により記帳の手間や難易度がかなり下がってきていることや、2014年1月から白色申告でも記帳が義務化されたことを踏まえると、青色申告のほうが大きなメリットがあることが分かります。
利益額が多ければ特に、メリットが大きい青色申告を検討してみるとよいでしょう。
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