法人税の計算はどうなる?わかりやすいシミュレーションで解説
法人税は、法人区分ごとに税率が異なるほか、要件を満たすと軽減税率が適用されるなど、しくみが少し複雑です。
そこで、経営者なら知っておきたい法人税の基礎知識をはじめ、法人住民税・法人事業税についてまで、わかりやすく解説します。
目次
法人税の計算(1)「利益」ではなく「所得」を用いる
会社の業績を表す指標には「利益」という言葉が使われます。残高試算表や決算書などでおなじみのこの「利益」は、収益 ー 費用で計算されます。
会社の業績を表す「利益」= 収益 ー 費用
「収益」とは、企業の営業活動によって生じた資産の増加のことをいい、代表例として売上高が挙げられます。
「費用」とは、収益獲得のために現金を使うことをいい、代表例として仕入高や販売費および一般管理費などが挙げられます。
一方、法人税の計算においては「所得」という言葉が使われます。所得の算出は、利益とは異なる計算方法が用いられ、「益金(利益として得たお金)-損金(損をしたお金)」となります。
法人税の計算で用いる「所得」= 益金ー 損金
「利益」と「所得」、なぜ似たような2つの言葉があるかというと、収益には益金にならないもの、費用には損金にならないものがあるため、利益と所得の金額は必ずしも一致しないからです。
益金にならないものの代表例として「受取配当金」が挙げられます。配当金は、すでに税金が支払われたあとに配当されるものですから、二重課税を防ぐために原則益金には参入しません。
また、損金にならないものとして「交際費」が挙げられ、一定要件で損金から除外されます。
法人税の計算(2)税率は「法人の種類と規模」で決まる
法人税は、法人が事業活動によって得た所得に対して課せられるものです。
ただし、法人の種類によっては法人税が課されません。具体的には、国や地方公共団体が運営する公共法人、公益法人、人格のない社団等は、原則として法人税の課税対象外となります(※公益法人、人格のない社団等の「収益事業から生じた所得」は法人税の課税対象です)。
税率は、以下のような比例税率(固定税率)が適用されます。下表の税率を、「各事業年度で得た所得」に乗じて算出したものが「法人税の金額」となります。
中小法人などは税率15%の「軽減措置」が適用される
中小法人などの税金が優遇される制度として「法人税率の軽減措置」があります。
資本金等の額が1億円以下の中小法人をはじめ、協合組合等、公益法人等において、上表のとおり所得800万円以下の部分の税率が優遇されます。
優遇税率は、本則では19%のところ、軽減税率の特例によって2023年(令和5年)3月31日までは15%となっています。
法人税の計算(3)実際に算出してみましょう
それでは実際に法人税を計算してみましょう。計算は以下の3つのステップに沿って行います。
STEP1.課税所得の計算
「益金 ー 損金」で法人所得(課税所得)を求めます。
STEP2.当てはまる法人税率を確認
法人の種類、資本金の額、事業年度、所得金額等によって法人税率は決まります。前述の表で当てはまる法人税率を確認します。
STEP3.税額の計算
法人所得(課税所得)に前述の法人税率を乗じ、法人税額を求めます。計算式は以下のとおりです。
課税所得金額 × 法人税率 = 法人税額
法人税の計算シミュレーション
以下のケースを例に、実際に法人税額を計算してみましょう。
【前提条件】
- 事業者の区分 : 普通法人で適用除外事業者非該当
- 所在地 : 東京都千代田区(本店のみ)
- 資本金 : 5,000万円
- 従業員数 : 3人
- 事業年度 : 2021年(令和3年)4月1日~2022年(令和4年)3月31日
- 上記事業年度の益金・損金の額
└収益 : 8,000万円/受取配当金(益金に算入されないもの)1,000万円を含む
└費用 : 5,500万円/交際費(損金に算入されないもの)500万円を含む
STEP1.課税所得の計算
まず、収益から益金に算入されない額、費用から損金に算入されない額を差し引き、益金・損金を算出します。
- 収益8,000万円-益金不算入額1,000万円=益金7,000万円
- 費用5,500万円-損金不算入額500万円=損金5,000万円
次に課税所得を算出します。
- 益金7,000万円-損金5,000万円=課税所得2,000万円
STEP2. 当てはまる法人税率を確認
資本金や属する事業者の区分から、前述の表より以下の税率が適用されます。
- 課税所得800万円以下の部分…15%
- 課税所得800万円超の部分 …23.20%
STEP3. 法人税額の計算
課税所得に税率を乗じて税額を計算します。
- 800万円✕15%=120万円
- (2,000万円-800万円)✕23.20%=278.4万円
- 120万円+278.4万円= 法人税額398.4万円
法人税の計算(4)「法人住民税」と「法人事業税」
法人には原則として、法人税のほか「法人住民税」「法人事業税」も課せられます。この3つは総称して「法人税等」と呼ばれます。
「法人住民税」「法人事業税」の金額は、法人税の計算とは別の方法で算出しなくてはなりません。
「法人住民税」について
法人住民税とは、個人の住民税に相当する地方税の一種で、行政サービスの財源に使用する目的があります。
都道府県民税(都民税)と市町村民税があり、会社を登記している都道府県と市町村に対して納めます。さらに法人住民税は「均等割」と「法人税割」で構成されています。
- 均等割
均等割は、法人の規模に応じて決定され、所得に関係なく赤字であっても支払う必要があります。
都道府県民税では法人の資本金等の額で、市町村民税では法人の資本金等の額と従業者数で払う税額が決まります。 - 法人税割
法人税割は、法人税額をもとに計算します。
企業の規模に応じて決定される均等割と異なり、法人税が増えるほど法人税割額も大きくなります。
いずれも所在する都道府県、市町村によって金額やその内容は異なります。東京都では超過課税を実施しており、資本金(または出資金)の額が1億円以下で、かつ法人税額が年1,000万円以下の法人には標準税率が、それ以外の法人には超過税率が適用されます。
法人住民税の計算方法
法人税の計算シミュレーションで用いたケースで、法人住民税を計算してみましょう。
- 均等割の計算
主たる事務所等が千代田区に所在し、資本金5,000万円、従業員3名の普通法人のため、均等割の税率表により、均等割額は180,000円となります。
※税率表における「特別区」とは東京23区のこと - 法人税割の計算
法人税割額は、法人税額(税額控除前の税額)× 税率で計算することができます。
このケースでは標準税率が該当し、都民税法人税割の税率表により税率は7.0%になります。よって法人税割額は、法人税額398.4万円✕7.0%=278,800円となります。
税金の計算は、課税標準千円未満切り捨て、税額は100円未満切り捨てで算出
「法人事業税」について
法人事業税とは、法人が行う事業そのものに課せられる税金で、地方税の一種です。
給与・利息・賃料等の額に応じた「付加価値割」、資本金等の額に応じた「資本割」、所得に応じた「所得割」があります。ただし、資本金1億円以下の法人では「所得割」のみが課されます。
法人事業税の税率は、資本金額や年間所得などに応じて標準税率、超過税率のいずれかが適用されます。加えて一定の条件に当てはまる場合には、軽減税率が適用されることになります。
判定基準は都道府県で異なりますが、東京都では以下の図のとおりです。
法人事業税の計算方法
法人住民税と同様のケースで、法人事業税を計算してみましょう。
普通法人で資本金5,000万円、年間所得2,000万円ですので「標準税率」が適用されます。また、事務所の所在地は千代田区だけのため、軽減税率が適用されます。
上表の税率を元に、税額を計算します。
- 課税所得400万円以下の部分 : 400万円✕3.5%=14万円
- 課税所得400万円超800万円以下の部分 : 400万円✕5.3%=21.2万円
- 課税所得800万円超の部分 : (2,000万円−400万円−400万円)✕7.0%=84万円
- 14万円+21.2万円+84万円=法人事業税119.2万円
特別法人事業税とは
「特別法人事業税」は、地方と都市との税収格差を少なくすることを目的に、地方税の一部を国税として徴収するために創設された税金です。地方法人特別税の廃止とともに導入されました。
法人事業税のうち所得割額または収入割額に対して、該当する税率を乗じて計算します。東京都における特別法人事業税の税率は以下の通りとなっています。
課税標準 | 法人の種類 | 税率 |
---|---|---|
基準法人所得割額 | 資本金1億円以下の普通法人 | 37% |
外形標準課税対象法人 ※1 | 260% | |
特別法人 ※2 | 34.5% | |
基準法人収入割額 | 小売電気事業等・発電事業等・特定卸供給事業を行う法人以外の法人 | 30% |
小売電気事業等・発電事業等・特定卸供給事業を行う法人 | 40% | |
※1 事業年度終了日に資本金額が1億円を超えている法人(公共法人等、特別法人、人格のない社団等、みなし課税法人、投資法人、特定目的会社、一般社団・一般財団法人は除く) ※2 協同組合、医療法人、信用金庫、労働金庫など |
前述のケースでは、資本金1億円以下の普通法人なので、法人事業税(所得割額)119.2万円✕37%=441,000円と算出できます。
法人税の計算(5)よく聞く「実効税率」とは?
「実効税率」とは、実質的な法人税等の負担を表す税率です。この言葉は、よくニュースで見聞きするのではないでしょうか。
実効税率の計算式は以下のようになります。
実効税率 ={法人税率 ✕(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率}/(1+事業税率)
なぜこのような計算式になるかというと、「法人事業税」は損金算入が認められているため、実質負担する税額が違ってくるからです。
つまり、本来「法人事業税」は翌事業年度に損金に計上されるので、当期の所得に対する税負担額を見るためには、翌期の損金算入効果を考慮する必要があるということです。
実効税率を用いることで、当期の課税所得に対し「法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税を実質的にいくら負担しているのか」を把握することができるため、会計処理ではこの実効税率が使われます。
一方、実効税率に対し、税金の納付や申告で使われるのが「表面税率」となります。法人税等を法定税利率だけで計算したもので、以下の計算式で求めることができます。
表面税率 = 法人税率 × (1 + 地方法人税率 + 住民税率) + 事業税率
法人税の計算(6)申告と納税は期限内に!
法人税の計算ができたら、決められた期限内に申告・納税手続きをしましょう。
法人税の申告期限は、原則として決算日の翌月2か月以内です。
要件を満たしていれば、特例によって申告期限を延長することができますが、納付期限は延長できません。そのため、延長した申告期限に合わせて納付も行いたいという場合には、「利子税」が発生するということに注意しましょう。
なお、災害などやむを得ない事情がある場合は、延長期間にかかる利子税は免除されます。
どこに申告・納税する?
法人税および地方法人税は所轄の税務署に、法人事業税は所轄の都道府県民税事務所に申告・納税します。
法人住民税は、所轄の都道府県民税事務所および市区町村役場に申告・納税を行います。
納税は現金以外でもOK
法人税等の納税方法は、以下の3つの方法があります。
1 現金で納付する
所定の納付書を持参し、金融機関等で現金を添えて納付します。
法人住民税および法人事業税の場合、金融機関が限定される場合があります。
法人税および地方法人税は、納付金額が30万円以下であればコンビニでの納付も可能です。
2 e-TaxやeLTAXによる電子納税
e-TaxやeLTAXを利用したダイレクト納付、インターネットバンキングによる納付ができます。利用には開始届の提出が必要で、e-TaxやeLTAXの利用時間内またはインターネットバンキングが利用可能な時間での手続きとなります。
銀行等に出向く必要がないので便利な反面、残高不足で振替できない場合には即滞納となるため注意が必要です。
3 クレジットカードによる納付
法人がクレジットカードで納付できるのは、法人税、消費税、所得税等と広く認められています。なお、各地方税の場合は地方公共団体が認めた税目に限られるので、詳しくは各自治体でご確認ください。
いずれも納付税額に応じた決済手数料がかかります。
※令和4年(2022年)12月1日から、一度の納付につき30万円までであれば、PayPayなどスマホアプリからの納付も可能になりました。詳しくはこちら
おわりに
この記事で紹介した税率のしくみや計算方法を理解しておけば、自ら法人税の納税額を算出することが可能です。
ただし、法人税は法改正が頻繁に行われることから、最新情報をチェックしておくことが欠かせません。
また、決算申告までの間に法人税がどのくらいになるのか、あらかじめ予測を立てておくことで、節税対策も可能になります。
法改正に迅速に対応したい、節税を検討したいという際には、税理士などの専門家に依頼することも含めて、早めに準備を行いましょう。
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