「決算賞与」は節税になる?当期の損金とする条件や注意点、会計処理について

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「決算賞与」は節税になる?当期の損金とする条件や注意点、会計処理について

監修: 内山 瑛 公認会計士・税理士・行政書士

「決算賞与」とは、決算時期に支払う特別な賞与のことで、業績好調時に利益還元する意味合いだけでなく、節税対策としても活用できます。原則として、賞与は実際に支給した事業年度の損金となりますが「条件を満たした場合」には、支払いが翌期であっても当期中の損金として処理することが可能です。

そこで本記事では、決算賞与を支給する際のポイントや注意点、当期中に損金にするための要件などを解説します。

目次

決算賞与とは

通常の賞与(ボーナス)は、労働協約または就業規則に定めていれば、経営状況が悪化した場合などを除いて毎年決まった時期に支給することになります。

一方で「決算賞与」は、企業の業績に応じて金額を決定します。臨時ボーナスのため、決算期に必ず支給するものではありません。

決算賞与は決算が確定する直前に支給を決めるため、実際に支給するのは決算後になるということが多くあります。

決算後に支給する決算賞与は、通常であれば当期の損金に算入できませんが、一定の要件を満たすことで未払いの決算賞与を当期の損金として計上することができ、節税効果が見込めます

どれだけ違う?決算賞与を支給したときの節税効果

期末に1,000万円の利益が見込まれ、実効税率を21.4%と仮定し、決算賞与を支給しない場合と決算賞与を合計100万円支給した場合とで節税額を簡易的にシミュレーションしてみます。

  • 決算賞与を支給しない場合の法人税等の金額
    └利益1,000万円 × 実効税率21.4% = 214万円
  • 決算賞与を合計100万円支給した場合の法人税等の金額
    └利益900万円 × 実効税率21.4% = 192.6万円

決算賞与を合計100万円支給した場合、利益が100万円圧縮され900万円となり、結果として21.4万円法人税等の額が減少します。

未払いの決算賞与を当期中に損金にするには

先述のとおり、本来であれば、賞与は「支給日の属する事業年度の損金」として扱います。そのため、決算後に支給するのであれば翌事業年度の損金として処理することになります。

ただし、次の3つの要件を満たすことで、支払いが翌期になっても当期の損金として未払計上することが可能になります。

要件1:事業年度終了日までに支給する全員に通知を行う

1つめの要件は、賞与の支給を受ける全ての従業員に、その支給額を各人別に通知をすることです。通知内容は支給額のほか、通知日、受給者名、支給日などが必要になります。

要件2:事業年度終了の翌日からできるだけ早期に支給する

2つめの要件は、事業年度終了の翌日からできるだけ早期(遅くとも1か月以内)に、通知をした全ての従業員に賞与を支払うことです。たとえば、事業年度が4月1日~翌年3月31日の場合、翌年4月30日までに賞与を支給します。

要件3:通知日の属する事業年度に損金処理する

3つめの要件は、当期中に決算賞与を未払賞与(未払金)として損金処理することです。通知をした時点で未払賞与の仕訳をして、決算書にも計上しておきましょう。

なお、仕訳方法については、後述の「決算賞与の仕訳」にて詳しく解説します。

役員への決算賞与は損金不算入が原則

役員への決算賞与の支給は「役員賞与」となり、原則損金不算入となります。なぜなら臨時的に支給する役員賞与の損金算入を認めてしまうと、役員賞与によって簡単に利益操作ができてしまうためです。

ただし、「事前確定届出給与に関する届け出」を決められた期間までに提出する、などの要件を満たすことで損金算入が認められるケースもあります。

決算賞与の未払計上が否認されないためのポイント

決算賞与の支給を決めた時点では上記3つの要件を満たしていても、実際に支給する際に誤った方法をとってしまうと当期の損金として認められない可能性もあります。

もし税務調査が行われ損金算入が否認されると、実際に支給した日が属する年度の損金となり、当該年度では「追徴課税」が発生することになります。

そうならないためにも、以下のポイントを抑えておきましょう。

通知した額と支給額は同じにする

決算賞与を未払計上するには、通知した賞与額と実際に支給した賞与額が一致しなければなりません。1円のズレも認められないので、きちんと通知したとおりに賞与を支給してください。

なお、決算賞与の通知は、書面またはメールで行うようにしましょう。税務調査の際には「決算賞与を通知した事実」の証明が大切になるため、必ず書面やメールで残しておいてください。

支給日は決算日からできるだけ早期にする

決算賞与を未払計上する場合、必ず決算日翌日からできるだけ早期(遅くとも1か月以内)に支給する必要があります。

また、税務調査では「支給した事実」についても確認されるため、支給日や支給金額などを客観的に証明できる銀行振込で行うのがよいでしょう。現金での支給は避けた方が無難ですが、支給する場合には、領収書をもらうようにしてください。

通知後の退職者にも支給する

決算賞与を未払計上するには、支給の旨を通知した全従業員へ支払う必要があります。

そのため、決算賞与の支給日までの間に従業員が退職してしまい、その人に決算賞与を支払わなかった場合には損金算入が否認されます。

この場合、退職者分の賞与額だけではなく、全従業員の賞与額が翌期の損金として計上されることになります。

もし就業規則や給与規則などで、「賞与支給日まで在籍していない者には賞与を支給しない」といった項目を設けていると、退職者へ決算賞与の支給は行われないため、未払計上の要件を満たさなくなるので注意してください。

就業規則などの作成は専門家に相談する

就業規則や給与規則を作成する場合には、法律に沿ったものを作成する必要があります。そのため、社労士や弁護士といった専門家に相談することをおすすめします。その際、税務について不安があれば、税理士事務所に勤務する社労士や、社労士資格も持つ税理士に相談するとよいでしょう。

決算賞与を支給するときの注意点

賞与のイメージ

決算賞与の未払計上が認められると、節税効果が期待できる一方で社会保険料の負担が増えるなど、注意点もいくつかあります。

そのため、決算賞与を支給する際は節税効果以外にも目を向けて検討しましょう。

源泉徴収が必要

決算賞与の支給額に対して源泉徴収の義務が発生します。決算賞与から控除を行う源泉所得税額は、以下のように算出します。

(1)前月の給与額から社会保険料等を差し引く

(2)上記(1)と扶養親族等の数を基準に、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で税率を求める

※「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している場合は「甲欄」、提出していない場合は「乙欄」を使用

(3)決算賞与額から社会保険料等を差し引き、それに上記(2)の税率を乗じる

このようにして求められた金額が、源泉徴収税額となります。なお、「前月の給与の金額の10倍以上を支給する場合」や「前月に給与の支給がない場合」は、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」を使って税額を計算する必要があります。

社会保険料の負担が増える

源泉徴収に加え、社会保険料の負担も発生します。負担額は、賞与額に対して毎月の保険料率と同じものを乗じて算出します。

なお決算賞与の支給後は、通常の賞与を支給した場合と同様、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」「賞与支払届総括表」などの書類を日本年金機構または各健康保険組合に提出する必要があります。

社会保険料は未払計上できない

社会保険料は未払計上することができません。なぜなら、従業員が月の途中で退職した場合、その従業員に係る保険料を納付する必要がないからです。つまり、「決算賞与を支給する」旨を決定をした時点では社会保険料額が確定していないため、未払計上にできないのです。

実際、法人税基本通達9-3-2には、「法人が負担すべき社会保険料額は、当該保険料等を計算する月の属する事業年度の損金とする」という旨の記載があります。そのため、決算賞与を支給する場合は、あくまでも決算賞与額のみを未払計上できると覚えておきましょう。

キャッシュフロー管理が重要

従業員に賞与を支給すれば、当然、手元に残るお金は少なくなります。そのため法人税を納付した場合に比べ、よりキャッシュフローが悪化する可能性があります。

わかりやすいように「利益額1,000万円、実効税率21.4%」として、賞与を支給する場合としない場合とで簡単に比較してみましょう。

まず、「決算賞与を支給しない場合」は、法人税額は214万円となります。一方、「100万円を決算賞与として支給した場合」は、法人税額は192.6万円となり、21.4万円分の節税効果が見られます。

しかし、決算賞与との合計で見ると「手元のお金が292.6万円減っている」ことが分かります。このように節税効果がある一方で、キャッシュフローを悪化させる可能性があるので注意が必要です。

決算賞与の仕訳

決算賞与の通知をしたあとは、以下のように仕訳を行いましょう。

決算賞与を未払計上する場合、まずは「未払賞与(負債)」という勘定科目を使って仕訳します。

【合計1000万円の決算賞与を支給する場合】
借方金額貸方金額
賞与10,000,000円未払賞与10,000,000円

実際に決算賞与を支給した際には、先ほどの未払賞与を使って仕訳を行います。従業員から徴収する社会保険料と源泉徴収税は、「預り金(負債)」という勘定科目を使用します。

【決算日以降に社会保険料と源泉徴収税を差し引いた賞与を支給した場合】
借方金額貸方金額
未払賞与10,000,000円普通預金8,400,000円
預り金(社会保険料)1,100,000円
預り金(源泉徴収税)500,000円

次に、会社が負担をする分の社会保険料の仕訳を行います。会社が負担する社会保険料は発生主義に基づいて記帳するため、決算賞与を支給した月に計上します。

借方の勘定科目は「法定福利費(費用)」を使用し、社会保険料は翌月に納付するため、貸方に「未払費用(費用)」を用いて仕訳をします。そして納付期限までに、従業員から預かった保険料と会社負担分をまとめて納付します。

【決算賞与を支給した月に計上】
借方金額貸方金額
法定福利費1,100,000円未払費用1,100,000円
【社会保険料を納付したとき】
借方金額貸方金額
未払費用1,100,000円普通預金2,200,000円
預り金(社会保険料)1,100,000円  

預かった源泉徴収税は納付したときに以下のように仕訳します。

【源泉徴収税を納付したとき】
借方金額貸方金額
預り金(源泉徴収税)500,000円普通預金500,000円

おわりに

決算賞与を支給することで、節税効果が期待できますが、節税ありきで決算賞与を支給した結果、事業運営や拡大のための資金がなくなり、キャッシュフローが悪化してしまうこともあります。

このように決算賞与の支給など、出費をともなう節税は将来の事業活動にも影響を与える可能性があります。自社にとってトータルで有利になるように、税理士に相談をしながら節税対策を行いましょう。

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