「売上計上基準」の変更が節税につながるケースとは?

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「売上計上基準」の変更が節税につながるケースとは?

著者: 山田 大悟 税理士

売上をいつのタイミングで計上するのか、というのは事業を行っていると身近な問題ですが、あまり深く考えたことがないという方も多いのではないでしょうか。売上の計上基準は税務調査においても注目される事項でありながら、比較的専門的な内容となるため、そこまで気にされないというパターンが多いようです。この記事では、売上計上基準の変更について紹介します。

目次

売上計上基準の基本的な考え方

売上の計上基準、つまり会社としてどのタイミングで売上を計上するべきか、というのは税務調査などにおいて確認される基本的な事項です。税務調査の際は、調査官は当期に売上を計上するべきものが翌期にずれていないか、すなわち売上が過少計上されていないかという観点で確認を進めていきます。

しかし税法においては、売上計上の基準について具体的に細かく規定しているかというと、そういうわけではありません。法人税法第二十二条の二第一項では、次のように定められています。

内国法人の資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供(以下この条において「資産の販売等」という。)に係る収益の額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

つまり原則として、モノの販売であれば「引き渡しがあった日」、役務の提供であれば「役務の提供が完了した日」に、売上が実現したものとして売上計上を行うということです。そして、その具体的な内容については、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によって計算することとなっています。

実務上で使用される基準の一例

一般的に実務に使用されている基準の例としては「出荷基準、納品基準、検収基準、使用収益基準、検針基準、役務完了基準」などが挙げられます。それぞれの簡単な説明は次のとおりです。

  • 出荷基準
    商品等を出荷した時点で売上計上を行う方法です。自社が出荷をした段階で売上とするため、仮に取引先に商品が到着していなくても売上として認識します。
  • 検収基準
    取引先に商品が到着し、取引の相手方が検収を行った時点で売上計上を行う方法です。「検収」とは、先方からの納品物に対して、発注時の内容(数量や品質)と齟齬がないか、不良品はないかといったことを現物と発注書や納品書などを照らし合わせて確認することをいいます。
  • 使用収益基準
    取引先が目的物を実際に使用できるようになった日に売上計上を行う方法で、主に不動産業などで使用される基準です。
  • 検針日基準
    ガスや電気など日々使用するものについて、検針等により販売数量を確認した日に売上計上を行う方法です。
  • 役務完了基準
    役務、すなわちサービス提供の際に使用されるもので、役務がすべて完了した時点で、売上計上を行う方法です。

売上計上基準の変更が節税につながる例

たとえば、製造業において出荷基準を使用しているケースを考えてみます。

製造業であればざっくりした業務の流れとしては、

  1. 原材料の仕入
  2. 製造
  3. 検査・検品
  4. 出荷
  5. 取引相手の検収

というプロセスをたどります。

このとき、従来は出荷段階での売上計上で大きな問題はなかった場合でも、新たに安価な大量生産品の取引が始まるなどで取引先の品質管理の基準が上がり、検収段階にて不良品を判定する取引形態に変更になったとします。

それにより検収時に取引先からの返品が多くなってしまうと、出荷基準で売上計上しているため、期末付近の出荷については返品による売上戻りが翌期に繰り延べられることになります。返品が発生するということは事業上の課題ではありますが、税金計算という面でも重荷が発生します。

つまり、当期には返品が計上されないため、その分税金を多く払うことになってしまうのです。

もちろん、返品による売上戻りは翌期に反映され、払いすぎた分の税金も調整されますが、今期・翌期を通じた税金の額がトータルで同じであったとしても、資金繰りとしてはキャッシュが先に多く出ていくため、好ましい状態ではありません。

これを踏まえ、より適切に取引状況を反映するためにも出荷基準ではなく検収基準に変更するとします。

すると、取引先が検収を行い、確認を終えた段階で売上計上することとなるため、返品による売上戻りの反映タイミングの期ずれという問題は解消され、結果的に節税にもつながることになるのです。

ほかにも、たとえば機械設備販売を行っている業種で、従来は設備の販売のみであったものが現場における据え付け工事まで合わせて請け負うようになった場合など、従来の取引形態から大きな変更があった際には、売上計上基準を再考する余地があります。

売上計上のタイミングがより適切に取引内容を反映すれば、結果的に資金繰りの適正化にも寄与することになるのです。

売上計上基準は継続性が重要

前述のとおり売上計上基準は複数の方法がありますが、一度選択するとおいそれと変更して良いものではありません。

会社の恣意的な利益調整を防ぐため、売上の計上基準は継続適用が前提になります。

仮に売上計上基準を自由に変更できるとなれば、たとえば普段は出荷基準を使用し、年度末の出荷分だけ検収基準を採用すれば、それだけで売上を翌期に繰り延べることが可能になってしまうからです。

こういった理由から、売上計上基準を決めるときには自社の取引形態や相手先との契約条件などをしっかりと考慮して、合理的な方法を選ぶ必要があります。

変更する際にも、販売方法や契約内容・取引条件等に変更があったなどで事業環境の変化に対応し、より合理的な方法を選択するという正当なストーリーが必要になります。

売上計上基準を変更する際の注意点

売上計上基準の変更をする場合は、合理的かつ正当な理由を説明できる状態にしておく必要があります。大事なのは、証拠となる資料の整備です。

上記のケースであれば、新たな品物の取引に関する契約書や取引先の検収内容が分かる書類等を保管しておくとよいでしょう。会社の恣意的な利益調整のためではなく、より適切に取引状況を反映するための変更であるということを、税務署等に対して説明できるように整えておくことが重要です。

もし、税務調査で利益調整だけのために売上計上基準の変更が行われたと認定されてしまうと、変更が認められず追徴課税が発生する恐れがあります。

おわりに

売上計上基準については、まず当初に選択する際に自社の取引状況に見合ったものを選択すること、そして変更する際には正当な理由であることを明示できるよう検討を行い、資料等の証跡を準備しておきましょう。

税務調査でも確認される点であるため、どの基準を採用するか決めかねるときや、一度適用した基準を変更するときには、早めに税理士に相談し、検討を重ねておくことが重要です。

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