もう10年以上前の話だけど、当時の広告業界から見たテレビ局について書いてみる。
あくまで自分が見た範囲の話なので、限られた部分だろうとは思うけど。
大前提として、テレビや広告っていう業界は時代の先端みたいな顔をしながら、ものすごく「コネ」が重要な泥臭い世界だ。
テレビ局は番組やCM枠を売る商売なわけだが、スポンサーは全国にいるので、代理店に売ってもらっている。
テレビ局にも営業担当はいるが、直接スポンサーと取引するのは限られている。なぜ代理店が必要かというと、物理的に
全国のスポンサーを回りきれないというだけではなく、代理店のビジネスモデルと関係がある。
代理店はスポンサーの「広告予算の使いかた」を考え、提案するところから入っていることが多い。
当然、使う媒体はテレビだけではない。ネットやイベント、各種キャンペーンなど複合的にスポンサーの戦略を考えて、様々な媒体を提案する。
スポンサーの事情に精通し、深い関係を持っているというところが代理店の強みになる。
テレビ局からすると、提案の中にテレビを入れて欲しいので(そしてテレビを使うとなっても他局との競争になるので)、選んでもらうべく代理店と密な関係が欲しい。
テレビ局がテレビの枠だけをスポンサーに売って回る、というのは構造的に限界があるので、代理店を頼る必要があるわけだ。
代理店側から見ても、スポンサーにいい提案をするためには各メディアから「いい枠」を出してもらう必要がある。
通常はなかなか買えない番組枠とか、ちょっと有利な時間帯のCM枠の取り方とか、そういうものを出してもらうことで、他の代理店より有利な提案ができる。
テレビ局も取引の薄い代理店にはこういう枠を出さない。たくさん売ってくれるとか、売れ残りをうまく抱き合わせて売ってくれるとか、そういう代理店と仲良くする。
ちなみに代理店は売った枠の代金からマージンを取るビジネスモデルだが、テレビ局はたくさん売ってくれる代理店ほどこのマージン率を高く設定していて、大手代理店が君臨し続ける仕組みになっている。
そうやってコネ、人間関係をベースにビジネスができている。どこのメディア、どこの代理店やスポンサーの人をどれくらい知っているか、はビジネスに直結する構造になっている。
この前世話になったからとか、飲み会で仲良くなったからとかそういう理由で発注が決まったり、枠が動いたりなんていうのは日常茶飯事だ。
当然、飲み会は多い。異動で担当が変わってご挨拶とか、新しい案件の打ち合わせとか称して飲み会が日々設定される。
そしてその延長線上に、飲み会の場に女性をセッティングするみたいなカルチャーがある。いわゆる合コン的なもので人数を合わせるのに何人用意して、なんていうのは増田もよく頼まれた。
ネタを用意していないと使えない扱いになってしまうので、ことあるごとに「今度飲みに行きましょうね」みたいなコミュニケーションをしてゆくことになる。
他業界からすると異様かもしれないが、業界慣習としてCMなどの発注にあたって基本的には契約書を作るということをしない。スピードが重要だったり、流動的な要素が大きかったりするのが理由だが、ほとんど口約束、口頭でものごとが決まってゆく(さすがに見積書は通すし求めに応じて契約書を作るケースもある)。そうすると、人的なつながりで相手のことをある程度握っておかないと、たびたびトラブルが起こる。実際に在職中、何件も大きなトラブルを近くで見た。
言い換えれば口約束で進められるほどの人間関係を作っておくのはリスクマネジメントでもあるので、「仲間うちで仕事を回しあう」みたいな構造になりやすい。
メディア、代理店、スポンサー企業などの受付とか派遣の女性と飲み会で仲良くなって、そこから繋がって仕事になるみたいなこともよくある。
そのへんから結婚したりする人もいて、業界内の人的つながりがさらに形成されていくことも。業界内のどこの人とどのように繋がっているか、がいざというときに効いてくる業界なので、
「この飲み屋はあの会社の人がよく出入りしている」なんていう情報が営業手法のひとつとして受け継がれていたりする。そういうカルチャーの中に、女性はまま存在しているということになる。
飲み会が多くその場に女性もいるとなれば、「その先」があることも珍しくない。女性の側も業界に近いところには仕事がほしいとかパートナーを探したいとかそういうモチベーションの人も少なくないので、ある意味利害が合致している部分もあるにはある。
「上納」みたいなことがあるかどうか。自分は下っ端~中堅くらいまでしか経験していないので、大物タレントとか局幹部みたいな人たちとの接点はほぼ無くて直接見聞きしたことはない。が、「あるだろうなあ」と思える程度にはあの業界の空気を浴びている。
飲み会と濃い人間関係で形成されている業界カルチャーの中で、道具のように使われたり、意図しない形で巻き込まれる女性はひとりもいませんでした、と考えるほうが不自然だ。渦中の局だけが特別に異質、という感じもない。多少の企業文化の違いはあれど、どこも同じ業界で生きているのでどこかが悪でそれ以外は潔白、なんてことはあり得ないだろうなあと思う。
自分は飲み会が嫌いでもなく、こういう業界であることも多少は理解して入ったのだが、(スポンサーや消費者にとって)良い企画、優れた提案よりも人的つながりやコネによる貸し借りが優先されてしまうのがどうしても健全とは思えずに辞めた。
余談だがこういう仕事かプライベートかわからん飲み会は、自腹のこともあるが経費を使うことも多かった。相手方にメディアの人とか、スポンサー関係者がいると経費にしやすい。
いまは大手ほどコンプラ意識が高いので減っているかもしれないが、経費で飲むということは結果的にこれはスポンサーの金だ。もっと言えばその先にいるスポンサー企業の商品を買う消費者の金で業界関係者は飲み食いしている。
バブルの時代はもっとかなりめちゃくちゃだったらしい、という武勇伝も山程聞いた。自分はバブルの恩恵は1ミリも受けていない世代だが、あの業界はバブルの残り香がいまだに漂っている。
自分が経験したのはどっちかというと営業側から見た話なので、番組制作の現場とかになるともう少し違う力学も働いているかもしれないが、業界カルチャーそのものは大きくは違わないのでは、と思う。
いまは転職して違う業界にいるが、どの業界もまあまあクソだなって思うことはある。これはどのタイプのクソなら許容できるか、っていう比較なので、とりわけメディアや広告業界だけが腐っているとも思えないのだが、自分の知らない清廉な業界も世の中にはあるんだろうか。