「おしどり贈与」は生前対策として有効か?「贈与税の配偶者控除」の適用要件と手続き
贈与税には「おしどり贈与」と呼ばれる、最高2,000万円分の配偶者控除が設けられています。このおしどり贈与は一般的に「生前対策(相続税対策)にも使える」と言われることがありますが、実際のところはどうなのでしょうか?
本制度の適用方法や注意点などについて解説しつつ、本当に生前対策として有効なのかを確認します。おしどり贈与を利用するかを迷っている方にとって、その判断の役に立つことができれば幸いです。
目次
「贈与税の配偶者控除」とは
贈与税の配偶者控除とは「おしどり贈与」とも呼ばれている制度で、一定条件を満たせば不動産の贈与で「最高2,000万円まで控除を受けられる」というものです。贈与税には、110万円の基礎控除が設けられているため、それと配偶者控除を合わせると最大2,110万円まで非課税で贈与することができます。
それでは、この贈与税の配偶者控除を受けるためにはどうすれば良いのでしょうか?その条件や手続き、対象となる不動産について確認してみます。
特例適用のための条件
贈与税の配偶者控除を受けるには、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 夫婦の婚姻期間が20年以上であること
- 贈与された財産が居住用不動産またはその取得資金であること
- 贈与された翌年3月15日までに居住しており、その後も住み続けると見込めること
- 同じ配偶者の贈与について、初めてこの特例の適用を受けること
対象となる居住用不動産
さらに、対象となる不動産にも条件が定められており、以下の条件を満たす必要があります。
- 住宅またはその住宅の土地が日本国内にあること
- 贈与された配偶者の居住用の住宅または土地であること
なお、本制度では必ずしも居住用住宅とその土地を一括して贈与される必要はなく、たとえば住宅だけ、土地だけといったこともできます。ただし、土地だけの贈与を受ける場合は、「夫婦のいずれかが居住用住宅を所有している」または「贈与された配偶者と同居する親族が、居住用家屋を所有している」のどちらかを満たす必要があります。
上記の条件を満たし、贈与税申告をすることで「贈与税の配偶者控除」の適用を受けることができます 。条件を満たしても贈与税申告で手続きを行わないと、配偶者控除は受けられないので注意が必要です。
特例適用のための手続き
贈与税の配偶者控除の適用には、贈与税申告の際に以下の書類を添付・提出する必要があります。
- 贈与を受けた日から11日目以降に作成された戸籍謄本または妙本
- 贈与を受けた日から11日目以降に作成された戸籍の附票の写し
- 贈与を受けた人が居住用不動産を取得したことを証明する書類(登記事項証明書など)
- 居住用不動産を評価する書類(固定資産評価証明書など)※不動産を贈与した場合
贈与税申告は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日が期限 です。
なお、万が一贈与税の配偶者控除を知らずに申告・納税してしまった場合であっても、税務署にて更正の請求を行えます。ただし、期限は6年と定められているので注意しましょう。
配偶者控除適用の注意点
贈与税の配偶者控除を受ける上で注意すべきことを紹介します。注意点を守らないと配偶者控除が適用できなくなるかもしれないので、気をつけましょう。
同一配偶者に対しては、一生に一度のみ
この特例は「同一配偶者に対しては、一度きりしか使えない」と決まっています。言い換えると、仮に一度特例を使ったことがあったとしても、再婚後に条件を満たせばその夫婦間で特例を使うことができるいうことです。
なお、本制度は婚姻届を出していることが必要で、届出があった日から贈与を受ける日までの期間が20年以上必要です。また、離婚する前日までの贈与で利用できます。
対象となる不動産は「居住用」に限られる
本制度で対象となる不動産は、「居住用」のものに限られています。したがって、賃貸用物件や投資用物件などは対象になりません。また、日本国外にある居住用住宅を贈与された場合も対象とはならないので注意してください。
なお、中には店舗兼住宅を贈与する場合もあるかと思います。この場合は「居住の用に供している部分」であれば、贈与税の配偶者控除の対象になります。なお、店舗兼住宅であってもこのうち90%以上が居住用に使われている場合は、全て居住用不動産として扱います。
取得資金を他の目的に使うことはできない
たとえ居住用住宅の取得資金として贈与された金銭であっても、そのお金を他の目的で使った場合は特例を適用できません。居住用不動産を取得したことは、登記事項証明書などで証明する必要があります。
亡くなる直前の贈与であっても適用される
贈与してから3年以内に贈与した人が亡くなった場合、本来であれば「その贈与は無効になる」というルールがあります。しかし、本制度を適用した場合は「そのまま贈与として扱って良い」と決まっています。ただし、配偶者控除の対象でない財産は無効となり、相続税の課税対象になるので注意しましょう。
「おしどり贈与」は生前対策として有効?
最大2,000万円もの控除を受けられるため、一見すれば生前対策としては有効な手段のようにも思えます。そこで相続と比べて、どのような違いがあるのかについて確認しましょう。
相続には「配偶者の税額軽減」がある
贈与と同様に、相続にも配偶者に対して軽減措置が設けられています。その控除額は「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のうちの大きい金額となっているため、この範囲内で相続できる場合は不動産を贈与されるメリットは少ないと言えるでしょう。
また、贈与税の配偶者控除は基礎控除と合わせても最高2,110万円までです。そのため、仮にこの控除額を超える贈与をしてしまったら、その部分に対して贈与税が課されてしまいます。その結果、かえって税金の負担が大きくなってしまう可能性もあるので注意が必要です。
「小規模宅地等の評価減」が使えない
土地を贈与する場合は、その評価額を使って贈与税額を計算することになります。相続の場合は、一定条件を満たせば「小規模宅地等の特例」を利用できます。この特例は「土地の評価額を最大80%減額する」制度で、評価額を小さくして相続税を計算できるという制度です。
このことを考えると、そのままの評価額で計算する贈与の方が「損をしている」とも言えるでしょう。なお、相続であれば最高1億6,000万円まで控除できるので、そもそもとしてこの特例の恩恵を受ける必要がないかもしれません。
「不動産取得税」と「登録免許税」がかかる
不動産を贈与された場合、「不動産取得税」と「登録免許税」という税金がかかります。
不動産取得税とは建物などを取得した際に課される税金で、固定資産税評価額に対して3%の税率が課されます(宅地は評価額が2分の1になる特例があります)。また、登録免許税とは不動産の登記の際に課される税金で、固定資産税評価額に対して2%の税率が課されます。
しかし、相続で不動産を取得した場合は不動産取得税が課されません。また、登録免許税も0.4%しか課されないため、贈与に比べるとこれらの負担が小さくて済む のです。
取得資金を贈与する場合は有利に
もし居住用住宅を贈与するか、その取得資金を贈与するかで迷っていたら、「取得資金を贈与した」方が良いといえます。
なぜなら、両方の「登録免許税」を確認してみると、住宅を贈与される場合は固定資産税評価額に2%の税率が課されるのに対し、新築物件を取得する場合は0.4%(軽減措置後は0.15%)で済むからです。また、中古物件を取得する場合が軽減措置後に0.3%(通常は2%)となるので、新築物件の購入費として取得資金を贈与した方が税負担は小さいと言えます。
配偶者が先に亡くなる可能性もある
たとえば、生前対策として本制度を使って夫から妻に不動産を贈与したとしても、必ずしも、夫が先に亡くなるとは限りません。仮に妻の方が先に亡くなってしまうと、夫が贈与した不動産が妻の相続財産として扱われてしまいます。
つまり、相続税が課される可能性が生じるのです。そのため、婚姻期間が20年を過ぎたからといってすぐに「おしどり贈与」を利用するのは控えた方が良いかもしれません。
配偶者控除適用後の具体的な計算例
贈与税の配偶者控除を使う場合と使わない場合で、どれくらい納税額に違いが出てくるのでしょうか。ここでは適用条件を満たしている夫婦で、評価額が3,000万円の居住用不動産を贈与するケースで考えてみます。
配偶者控除を使わない場合は?
まず、配偶者控除を使わない場合の贈与税額を計算してみましょう。
(1)3,000万円(評価額) - 110万円(基礎控除) = 2,890万円(課税価格)
(2)2,890万円(課税価格) × 50%(税率) - 250万円(控除額) = 1,195万円(贈与税額)
この計算から3,000万円の不動産を贈与された場合、配偶者控除を使わないと、贈与税額が「1,195万円」となることが分かります。
配偶者控除を使う場合は?
続いて、配偶者控除を使う場合の贈与税額を計算してみましょう。
(1)3,000万円(評価額) - 2,110万円(基礎控除 + 配偶者控除) = 890万円(課税価格)
(2)890万円(課税価格) × 40%(税率) - 125万円(控除額) = 231万円(贈与税額)
こちらの計算から配偶者控除を使うと、贈与税額が「231万円」となると分かります。このように同じ不動産評価額でも、配偶者控除を使わない場合と比べると「964万円」も差が出ることがわかりました。
おわりに
最大2,000万円まで控除を受けられる「おしどり贈与」は、贈与税では有効な節税策だと言えるでしょう。しかし、相続の税額軽減を考えると必ずしも有利な生前対策ではないので、よりご自身に合った方法を見つけることが大切です。
ただし、こういった生前対策を目的とせず、今まで付き添ってくれたパートナーに対して「感謝の気持ちを表す方法」として贈与をするのであれば、ぜひ本制度を利用していただきたいです。なお、その際は、贈与税の配偶者控除の申請手続きを忘れないようにしてください。
生前対策や贈与税、相続税については税理士が専門として扱っているため、何か困ったことがあれば相談してみると良いでしょう。
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