世界遺産「異人館」で、吉野を舞台にした狂言の朗読を披露する小中学生=15日、鹿児島市吉野町
新駅を起爆剤に地域一体で盛り上げたい-。鹿児島市吉野町の磯地区に仙巌園駅が開業した15日、駅近くの世界遺産「異人館」では、ステージなどの記念イベントがあり終日にぎわった。磯地区とともに世界遺産の構成資産が残る吉野(寺山)や下田地域の住民は、地元の民話を題材にした舞台や飲食ブースの出店で客らをもてなし、一体感をアピールした。仙巌園では獅子舞や雅楽の披露で開業を祝った。
■子供狂言の「兵六」朗読=異人館
異人館(旧鹿児島紡績所技師館)では、吉野台地が舞台となった江戸時代の「大石兵六夢物語」を題材にした子供狂言の朗読があった。小中学生13人が、古くから親しまれてきた物語をユーモラスに紹介し、来場者の笑いを誘った。兵六役を演じた吉野東中学校1年、高橋龍牙さん(13)は「兵六や吉野のことをもっと多くの人に知ってほしい」と話した。
イベントは、かごしま近代化産業遺産パートナーシップ会議が主催した。異人館などの旧集成館、寺山炭窯跡(吉野町)、関吉の疎水溝(下田町)が構成資産となっている世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」は7月で登録10年となる。同会議の春山亮会長(53)は「磯の新駅開業を起爆剤に、吉野や下田など地域全体で節目を盛り上げたい」と語った。
下田地域の住民らは、地元産の米を使った弁当などで客をもてなした。
■もてなしの獅子舞披露=仙巌園若手職員
新駅の名称にもなっている仙巌園では、観光客に日本の伝統文化を楽しんでもらおうと、獅子舞や雅楽が披露された。
獅子舞は、園の若手社員が県外で稽古するなど2年前から取り組んでおり、昨年デビューした。普段は経理を担当している山下佳己さん(22)は「獅子舞を鹿児島の伝統として根付かせていきたい」。16日は薩摩琵琶の演奏などがある。
大阪市から45年ぶりに同園を訪れた寺本節子さん(68)は、降雨のためにレンタカーをやめて鉄道を利用。「駅が園の間近にあり、高齢者にも便利。鹿児島中央駅からあっという間だった」と話した。
■新駅設置協 藤安会長に聞く
経済団体や鹿児島県、鹿児島市が参画する磯新駅設置協議会長として関係機関と協議や交渉に尽力してきた藤安秀一さん(71)=藤安醸造会長。仙巌園駅開業に寄せる思いや期待を聞いた。
-開業にあたって率直な思いは。
「県内には近代化遺産の旧集成館をはじめ三つの世界遺産がある。錦江湾や桜島の素晴らしい景観を知ってもらえれば、世界から観光客が集まる。ただせっかく来てもらっても、交通アクセスが悪かった」
「新駅設置には、鹿児島が豊かになってもらいたい、交流人口を増やしたいという信念を持って取り組んできた。目標通りに2024年度内に開業できて、ほっとしている」
-期待する効果は。
「磯には、両棒(じゃんぼ)餅など昔からある鹿児島の味覚文化も残る。旅行は食の楽しみ、観光、効率的に回れることの三つの要素が大切。そういう意味では、たくさんの観光客が来て消費をしてくれれば、活動してきた意味がある。観光地に人が集まり、宿泊施設に泊まるなど、県全域への経済波及効果に期待している」
-6年前にできた「設置推進協議会」の時代から会長を務めてきた。今後の取り組みは。
「観光客には新駅から見える桜島にも足を運んでほしい。世界自然遺産の屋久島、奄美、国宝や国立公園のある霧島など各地への交通アクセスを伝える活動は今後やらなければいけない。これからがスタートだ」
「行政、地域、関係する事業者などそれぞれ利害がある中で、納得、協力してもらえたことに感謝している。今後もオール鹿児島で盛り上げていきたい」