磯釣り中の事故多発から全国初「ライフジャケット着用条例」施行半年 イシダイの聖地と呼ばれる肝付町は釣り人の安全願い注意促す 「引き返す勇気を持って!」

2025/03/21 07:00
釣り客の姿が多く見られる道路沿い。消防関係者が見回る=肝付町岸良
釣り客の姿が多く見られる道路沿い。消防関係者が見回る=肝付町岸良
 鹿児島県肝付町の内之浦・岸良地区で2024年、釣り客の海難事故が相次いだ。県全体15件のうち、市町村別で最多の5件が発生し、うち3件は救命胴衣を着ていない死亡事故だった。事態を重くみた町議会は着用を義務付ける「ライフジャケット着用条例」制定に動き、同年9月に施行。町も釣り客の注意喚起に力を入れる。

 志布志海上保安署によると、両地区では昨年1月に鹿屋市の男性(64)、3月に東串良町の男性(67)、8月に鹿屋市の男性(87)が亡くなった。いずれも単独で、救命胴衣を着けずに磯釣りをしていたとみられる。

 一方、昨年2月に岩場で波にさらわれた鹿児島市の男性(26)は自力で泳いで助かった。5月には宮崎県から来た男性(49)が岩場で足を滑らせ海に落ちたが、同行者が通報し救助された。どちらも救命胴衣を着けていた。同署は「同じ海難事故でも、救命胴衣着用や複数人行動で生存率は大幅に上がる」と説明する。

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 事故現場は内之浦地区の宮原ロケット見学場から岸良地区の辺塚海岸までの海岸線約15キロに集中する。

 「ここはイシダイの聖地と呼ばれている」と語るのは、町内之浦総合支所の吉崎浩司支所長。太平洋に面する一帯は大物が狙えるといわれ、雑誌やネットでよく取り上げられるという。

 ただ、周辺の地質は地元住民から「御影石」と呼ばれる花こう岩で、磯場はつるつるしている。「よくあるスパイク機能が付いた磯靴は、ここの岩肌には引っかからず危ない。慣れた人でも一瞬の油断で足を滑らせることがある」と語る。

 それでも人気は不動だ。岸良地区に住む、同地区消防分団部長の門口有一さん(71)は「磯場まで道路沿いから降りるポイントが一帯に数カ所ある。毎朝、暗い時間から車がずらりと並ぶ。県外ナンバーも多い」と打ち明ける。

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 町議会は昨年9月、定例会最終本会議で総務文教委員会が発議した「ライフジャケット着用条例」を可決した。即日施行した条例は全国初の試みで、町内で釣りをする全ての人に対し、安全基準を満たした救命胴衣の着用を義務付けた。

 同委員会の前原和幸委員長は「現状を周知させるため、同僚議員や住民と話し合って決めた。『条例があれば、救命胴衣を着ていない釣り仲間に注意しやすい』といった反響もあった」と語る。

 町は3月13日、「ライフジャケットは必ず着用して」などと記し条例の周知を図る看板を、事故現場近くの国道沿い2カ所に設置した。作業には消防や警察、海保関係者など約20人が参加し、今でもジュースや菓子が供えられている現場付近を見て回った。

 吉崎支所長は「釣り客は帰りを待っている家族がいることを忘れないでほしい。安全を意識して、波が高いときは引き返す勇気を持って」と訴えた。

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