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トレセン壁崩落、接着剤で固定していた…施工業者フジタの使命感とプレッシャー

2025.03.18 2025.03.18 22:59 企業
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味の素ナショナルトレーニングセンターの壁崩落現場(JSCのリリースより)

 トップアスリートなどの活動拠点施設として2019 年に竣工した東京・北区の「味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)・イースト」で昨年(24年)11月に発生した壁の崩落事故。保有・管理する独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)と文部科学省は1月16日に調査報告書を公表したが、崩落した下がり壁(石膏ボード)を内側から支える壁下地(軽量鉄骨)をビスでプラスティック製のプラレンガに固定し、そのプラレンガを部材下面に接着剤で固定していたことがわかった。プラレンガは荷重を支える部位には使用すべきではない部材であり、そのプラレンガは下がり壁の荷重を接着剤のみで負担していた。建設業界関係者は「通常ではあり得ない工法」だと指摘するが、施工を担当した建設会社フジタはBusiness Journalの取材に対し、

「弊社が東京オリンピック・パラリンピックの1年前に完成させるという使命感とプレッシャーを抱えていたこと、それを組織としてフォローできていなかったことも要因であると考えます。今後、このようなことがないよう再発防止に努めてまいります」

と説明する。このような事態が生じる背景には何があるのか。

 不適切な工事が行われた理由について、報告書では次のように記述されている。

「施工を進める段階で、壁下地を設置することができるスペースが限られており、壁下地の施工方法について詳細な検討が必要であることが判明したが、建物の完成期限が迫る中で工期を遅らせることも難しい状況であったこと等から施工図等が作成されないまま、工事を担当した少数の関係者により施工が進められた」

「施工時においても施工者の責任者もこのような施工方法で施工されていることに気づくことができず、事故発生の要因となった部位の壁仕上げ材(石膏ボード)が設置された。その後の各種検査等においても、設置後では外から確認ができない場所であったことから工事監理者もこのような施工方法で施工されていることに気づくことができず発見できなかった」

設計図書に書かれた方法ではできないことが判明するケースも

 建設現場において、設計図書の仕様と異なる方法で施工を行うということは、よくあるのか。建設業界関係者はいう。

「基本的には、ないと思います。設計図書に細かい施工方法などが記載されていない場合もありますが、その場合は工事担当者と内装業者が相談しながら対応を考えることになります。設計監理者への確認も必要です。今回のような問題が起こると、世間体としては施工会社が責任を問われることになりますが、内部では工事担当や実際にその作業を担当した内装業者が責任を問われることもあります。もし仮に内装業者が工事担当者から手抜き工事を指示されても、自身の責任を問われる可能性もあるため『そんな危険なことはできない』と拒否するでしょう。

 工事を進めていくと、設計図書に書かれた方法では納まらないことが判明したり、問題点が出てくるということもありますが、基本的には過去に経験してきた事例などを参考にして、安全なかたちで施工するというのが一般的です。接着剤とプラレンガでこれだけ重い壁を固定するというのは、経験のある業界の人間であれば誰でも『危なくてできない』『溶接やボルトで強固に固定しないといけない』と考えますし、具体的に計算するまでもなく『崩落するだろう』と感じるレベルなので、なぜこのような事態が生じたのか、ちょっと理解に苦しみます」

短い工期が組まれていた可能性

 不適切な工事が起きてしまう背景として、昨年(24年)に始まった時間外労働の上限規制(時間外労働時間が原則「月45時間・年360時間」)や人手不足による工期の逼迫など、建設業界全体が抱える背景があるとも指摘されている。

「これまで建設業界は現場の人たちは土曜日も働くというのが一般的でしたが、時間外労働の上限規制で土曜日は休まなければならなくなりました。しかし、建設会社はその前提でスケジュールと見積もりを算出して入札しているので、工期の逼迫とはあまり関係がないと思います。

 今回の件についていえば、単純に短い工期が組まれていた可能性があると思います。現場で『この施工はできない』とわかると、施工方法を改めて検討しなければならないのですが、そんな時間も余裕もなく、現場の人たちの判断で『これでいいや』という感じで、その場しのぎでやってしまったのではないでしょうか。

 時間外労働の上限規制が始まる前から、工期が逼迫している現場というのは一定数ありました。施主との打ち合わせが進まずになかなか図面が決まらず、そうこうしているうちに制作期間が足りなくなってしまったり、製作物の納期が遅れて後工程の工事が全部後ろにずれてしまったり、発注した部材の寸法が間違っていたりと、さまざまなアクシデントが重なることでスケジュールが遅れてしまうということはあります。それでも終盤のほうで巻き返して“なんとか工期内に終わらせる”というケースが大半です」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=山本悠太/加藤装飾株式会社)

山本悠太/加藤装飾株式会社

山本悠太/加藤装飾株式会社

2013年竹中工務店に技術職で入社し、施工管理・内勤として9年間従事。在職中に一級施工管理技士を取得。
2022年に退職後、大阪府吹田市のリフォーム会社である加藤装飾株式会社へ転職。リフォーム工事の施工管理として従事しながらWebライターとしても活動中。
加藤装飾株式会社の公式サイト