NECは、2024年5月30日、新たな価値創造モデル「BluStellar(ブルーステラ)」を発表した。
価値創造企業の具現化、BluStellarはNECの「創業3.1」
NEC森田隆之社長兼CEOは、NECにとって、BluStellarは「創業3.1」になると位置づける。
NECは、2013年に、自らの存在価値を、「社会価値創造型企業」に再定義した。これが、125年の歴史を持つNECにとって、第3の創業といえる出来事となった。そして、この取り組みを、「BluStellar」によってさらに進化させ、価値創造モデルとして、具体的なソリューション提案を加速することになる。そこに「創業3.1」という意味がある。
森田社長兼CEOは、「BluStellarは、NECのビジネスモデルをテクノロジーセントリックから、価値創造セントリックへと変革する象徴的な取り組みになる」と語り、「NECが持つ技術、人材、知見のすべてをBluStellarに結集し、お客様のビジネス変革を加速させ、新たな価値創造へと導くことになる。経営アジェンダを起点とし、価値創出へと向けた構想から実装までを担い、お客様と社会のDXを成功に導くことができる」と語る。
BluStellarの名称は、イタリア語で「青い星」を意味している。
「夜空で最も明るく輝く星のように、また人々と社会が進むべき目印となる星として、お客様や社会をリードしていく存在になりたいという想いを込めた」と同社では説明。さらに語末に「r」をつけることで、主役となる意味合いを付け足したという。
「価値創造モデルにより、お客様を未来に導く、光となる」という、これからのNECの役割を表現した名称だといえる。
デジタル基盤? DXブランド? BluStellarとは何なのか
BluStellarの取り組みの発端は、2019年にまで遡る。
このとき、NECが取り組んだのが、製品およびサービス体系の整備だ。
NECでは、ネットワーク技術やソリューションの知見や実績などを統合した新たなサービス体系「NEC Smart Connectivity」を2019年4月に発表。さらに、2019年6月には、生体認証や映像事業をモデル化したデジタルフレームワークHubを整備。これをもとに、プラットフォームビジネスを推進する姿勢を打ち出した。また、同年7月~9月にかけては、この取り組みをAIやクラウド、ネットワークセキュリティにも展開。2019年11月には、DXを実現するためのICT共通基盤技術として、「NEC Digital Platform」を発表してみせた。
NEC Digital Platformでは、アプリケーション、プラットフォーム、インフラ、ネットワーク、エッジの5つの階層をワンプラットフォームとして提供する仕組みとし、DXという観点から、NECが持つIT技術とネットワーク技術の強みを融合した提案を行える地盤づくりを行った。
また、こうした動きにあわせて、2019年10月1日付けで、DX専任組織「Digital Business Office」を100人規模の体制で設置。全社横断でデジタルビジネスを推進する仕組みを確立するとともに、デジタルフレームワークの統合によるオファリングの整備を推進していった。このとき、NECでは、「Digital Business Office」を、DX事業を加速する上で原動力になる組織と位置づけていた。
Digital Business Officeが示したオファリングとは、顧客の課題解決に必要な製品やサービスで構成するとともに、全体の価格、契約、デリバリーや運用保守等の役務、提案方法などを定型化したものであり、ハードウェアやソフトウェア、サービス、技術などの組み合わせによるパッケージングを通じてソリューションを提供する仕組みだ。業種や業務ごとにオファリングを開発。NECは、短期間に100件以上のオファリングを用意してみせた。
オファリングによってNECが目指したのは、従来のように、顧客への個別対応を中心に、ハードウェアやソフトウェア、サービスを、個別見積もりで提供してきた「個別最適」の提案から、ICT共通基盤技術とオファリングの組み合わせによって、「全体最適」での提案にシフトし、リピータブルに活用することで原価低減を実現。価値提供型のプライシングにより、収益性を向上させるというものだ。
つまり、SI(システムインテグレーション)の手法を大きく転換し、将来のNECの主軸を担う新たなビジネスモデルにオファリングを位置づけたのだ。
さらに、NECは、DX事業における体制強化をさらに促進。2020年7月には、DX施策をより具体化するとともに、DX推進に重要な要素として、「ビジネスモデル」、「テクノロジー」、「組織/人材」をあげ、これらを強化していく方針を強調。加えて、戦略コンサルティングアプローチを開始し、子会社であるアビームコンサルティングの約5000人(現在は約8300人)のコンサルタントの活用とともに、NEC社内のDX人材の育成を本格化。NECのAI人材育成メソドロジーを生かした「NECアカデミー for AI」などを活用したAI人材やDX人材の強化にも取り組んだ。
森田社長兼CEOは、「上流からのコンサルティングと、コンピューティングやネットワークといったテクノロジーを理解した人材が合体して提供しないと、顧客のDXが絵に描いた餅になったり、これまでの延長線上にとどまったり、DXの目的が達成できなかったりする」と述べ、NECが推進するDXにおいては、戦略コンサルティングアプローチが重要であることを示した。
2021年4月に森田隆之社長兼CEO体制がスタートしたのにあわせて、同年5月には、「2025中期経営計画」を発表。森田社長兼CEOは、「国内IT事業のトランスフォーメーションでは、コンサルティング領域から実装力までを一体化した強みや、優位性がある共通技術と共通基盤などをコアDXとし、これを、成長を実現するためのキードライバーに位置づける」と宣言した。
ここで打ち出した「コアDX」が、その後の「BluStellar」事業のベースとなっている。
社内DX人材は1万2000人規模へ、BluStellarのために組織も刷新
2021年9月には、2025年度を目標に、NEC社内のDX人材を1万人規模に拡大する計画を打ち出し、コンサルタント、アーキテクト、アジャイルエンジニア、データサイエンティスト、クラウド系人材、生体認証・映像分析人材、サイバーセキュリティ人材を強化。2023年度にはこの目標を達成し、1万2000人を新たに目標に掲げた。その一方で、「Truly Open, Truly Trusted」の方針に基づき、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Oracle、、SAPなどとのグローバルアライアンスを推進。「グローバルアライアンスCoE(センターオブエクセレンス)」を設立して、共同エンジニアリング活動を強化することで、世界最先端のソリューションを迅速に提供していく体制も整えた。
また、2022年4月には、コアDX事業を推進するために必要な機能をNEC Digital Platformに集約するとともに、マーケティング部門やアビームコンサルティングなど関連会社との連携機能を強化した「デジタルビジネスプラットフォームユニット(DBPU)」を設置。これによってNECが目指す姿を「New SIer」と表現することもあった。
DBPUの新設を含む、このときの組織改革は、「組織の大括り化」「レイヤー(階層)のフラット化」「組織デザインの柔軟性」「権限委譲と責任の明確化・強化」を軸としたものであり、事業部レベルの組織を、市場や製品、サービス、機能といった単位で大括りにし、組織数を約150から約50へと3分の1にまで大幅に減少。CEO(最高経営責任者)から担当者までの職位を8階層から6階層に集約。部門長をはじめとするリーダー層の権限と責任を大幅に強化することで、市場環境の変化に応じた柔軟で、迅速なリソース配分や、現場起点での意思決定と実行スピードの向上を狙った。
森田社長兼CEOは、この組織変更について、1960年代の事業部制導入以降、基本的な組織構造を大きく変えず事業運営を行ってきたことを指摘。「ひとつずつの事業部が小粒化しており、事業部単位で、競合に打ち勝つだけのリソースを投資することができなかったり、意思決定の際にも部門をまたがなくてはならなかったりということが起きていた」と述べる一方で、「DXが進展するなか、市場の要求は業務効率化や業務革新から、新たな価値やビジネスの創出に移りつつある。競争環境もグローバル化、複雑化している。こうした環境下において、NECが有するあらゆるリソースを、柔軟に、スピード感を持って配分することが、いままで以上に重要になる。ピラミッド型ではない、プロジェクト型の組織を導入することで、意思決定も速くできる。『2025中期経営計画』の事業戦略の実行を、より加速することを目的にした組織の抜本的な改革であり、グループ内でばらばらに提案していたDX製品やサービスを一元化し、マーケットの特性に応じた価値提供をできるビジネスユニット体制に移行した」と説明。2025中期経営計画の成長エンジンであるコアDXの事業拡大に向けた組織変更であることを強調した。
さらに、2023年4月には、DX機能を一元化した「デジタルプラットフォームビジネスユニット(DPBU)」を新設。グループ横断でDX事業の展開に必要な製品、サービスを一元的に企画、開発、提供し、共通的な機能やアセットの標準化をグローバル視点で推進。戦略コンサルティングから共通基盤、デリバリーまでのエンドトゥエンドでのDXオファリングを拡充、強化する体制とした。
これにより、DXに関するすべてのエンジニアリングリソースと、テクノロジーリソースを集結。現在では、約3万6000人の体制となり、NECとして過去最大規模の組織となっている。
DPBUを率いる執行役 Corporate SEVP兼CDOの吉崎敏文氏は、「2025年度には、4万人近い体制になる。世界中で見ても、4万人でSIを行える企業は類を見ない。これを必ず成功させる。GAFAに代わる、日本型の新たな付加価値創造企業が生まれることになる」と力強く語る。
2024年5月に発表した「BluStellar」は、このように、2019年からの約5年間の積み重ねを経て、「ビジネスモデル」、「テクノロジー」、「組織/人材」を整備した上で、新たに統一ブランドとして掲げたものとなる。
2024年5月30日に、東京・三田のNEC本社で行われた記者会見で、森田社長兼CEOは、「BluStellarのベースとなったNEC Digital Platformは共通基盤であるため、どうしてもテクノロジーの集積というイメージが強い。進化をさせても、お客様も、社内も、そのイメージから抜け切らない。NECが目指しているのは価値創造モデルの構築である。上流コンサルティングから開発、デリバリー、運用、保守までがつながったプロセスでの価値提供が必要になる。提供価値がテクノロジーで終わることなくエンドトゥエンドでつながることが重要であり、その徹底のためにも、新たなブランドを付ける必要があった」と、BluStellarを打ち出した理由を語った。
現在はオファリング提案から、シナリオを軸とした提案への移行期
「BluStellar」では、3つのプリンシパルで構成している。
顧客が持つ経営アジェンダに従って解決するエンドトゥエンドのアプローチであり、価値創造の成功ストーリーと事例を提供する「BluStellar Agenda(ビジネスモデル)」、創業からの知見を結集したテクノロジーと、スピーディーに研究所のノウハウを取り入れたサービスを提供する「BluStellar Technologies(テクノロジー)」、1万人以上のDX人材とナレッジによる課題解決と、顧客との共創プログラムの推進する「BluStellar Programs(組織/人材)」である。
そして、NECでは現在、オファリングによる提案から、シナリオを軸とした提案への移行を図ろうとしている。
シナリオとは、顧客のアジェンダをとらえ、課題の優先順位をもとにオファーの内容を顧客ごとに変更。同時に、オファリングを構造化したものとも位置づけている。ここでは、徹底的な標準化を進めることも重要な要素のひとつにあげている。
NECの吉崎執行役 Corporate SEVP兼CDOは、「100件を超えるオファリングを用意したものの、結果として、まったく評価されないオファリングが生まれ、数を減らしたり、また増やしたりといったことを繰り返した。オファリングは、NECがオファーするものであり、NECが価値を決めていた。価値を決めるのはお客様であり、それを認めてもらうための提案がシナリオである。課題に対してシナリオを作り、戦略コンサルティング、サービスデリバリー、運用・保守までを用意し、価値を提供することになる。この1年でシナリオベースの提案は、日本の市場に最適なものであるという手応えを感じている」とする。
シナリオには、経営課題解決に向けたコンサルティング起点アプローチを行うとともに、実績ベースのアセットを集約。ここに、標準化されたオファリングと高いSI力の知見を、SIモデル化して組み合わせていくことになるという。また、シナリオによるベストプラクティスのフレームワーク化を進めており、コンサルティングからデリバリー、運用へと連鎖する「シナリオ連鎖型」、モデル化したシナリオを横展開する「シナリオ水平展開型」、働き方改革のような切り口から入り、それを別のシナリオ提案にも広げていく「シナリオ発展型」によるアプローチも開始しているところだ。
現在、シナリオは、共通領域で14件、業種領域で11件を用意しているという。
NECでは、BluStellar事業全体の売上収益計画として、2024年度に4265億円を目指し、調整後営業利益率では7.9%を掲げている。また、2025年度には売上収益で4935億円、調整後営業利益率で11.4%を目指している。だが、2024年度実績は、これらの計画を大幅に上回ることになりそうだ。また、NEC全体の収益改善においても、BluStellar事業はすでに効果を発揮している。そして、2025年度以降、海外においてBluStellarを推進する姿勢も明らかにする。
BluStellarは、NECのビジネスモデルを変え、企業体質そのものも大きく転換させることになる。そして、第3の創業で掲げた「社会価値創造型企業」の実現に向けて、いよいよBluStellarによる実行フェーズが始まったといえるだろう。目指しているのは社会価値創造をリードする会社である「System Value Driver」だ。
創立125周年以降のNECの成長は、BluStellarが牽引していくことになる。