乳がんは世界中の女性の健康を脅かす重大な病気であり、近年、若年層での発症が増える傾向にあります。新唐人テレビの健康番組「健康1+1」では、北岸長島ユダヤ医療センターの腫瘍専門医・魏麗紅医師と、イェール大学医学部がんセンターのエリック・P・ウィナー医師が、それぞれの視点から乳がんの予防、診断、治療方法について議論しました。
また、台湾の中国医薬大学附属病院で乳房外科を担当する鄭伃書医師は、自身の経験をもとに、乳がん患者が治療の過程で自分を見つめ直し、人生を新たに捉え直す心の軌跡について語りました。
医師 vs 患者——生命の意味を見つめ直して
鄭伃書医師は、2019年6月のある日曜日、スマートフォンを手に取った際に、腕が偶然乳房のしこりに触れたことに気づきました。それは、今までに感じたことのない違和感でした。
すぐに自分自身で検査を受けることにしましたが、結果は受け入れがたいものでした——彼女は乳がん、それも「トリプルネガティブ乳がん」と診断されたのです。これは乳がんの中でも特に悪性度が高く、再発や転移のリスクが高いタイプであり、治療も非常に困難を伴います。
診断を受けた直後、彼女の最初の反応は「病気を隠したい」というものでした。無意識のうちに「乳房外科医である自分が乳がんになるなんて、自分の敗北を意味するのではないか」と考えてしまったのです。
しかし、治療は予想以上に過酷でした。4回目か5回目の化学療法の際に感染症を起こし、ショック状態に陥り、緊急処置を受けて集中治療室に入院することになりました。
彼女は病気を隠そうとしましたが、同僚たちにはすぐに知られてしまいました。心理カウンセラーの助けを借りて、閉鎖的なグループカウンセリングで自身の体験を語り始めたところ、多くの共感や励ましを受けるようになりました。
その後、彼女は積極的に化学療法を受け、免疫力の低下、粘膜の損傷、皮膚の発疹、爪の変形、脱毛、極度の疲労、吐き気や下痢など、乳がん患者が経験するあらゆる副作用を体験しました。そして、それによって患者の苦しみをより深く理解するようになったのです。
中でも、最も心に響いたのは「脱毛」でした。彼女は医師として、多くの患者に抗がん剤を処方してきましたが、「髪が抜けるから治療を受けたくない」という患者の気持ちを理解できずにいました。「脱毛は命に関わるわけではないし、最も気にする必要のない副作用なのに」と思っていたのです。
しかし、自分自身が化学療法を受けて髪が抜け始めたとき、その考えは一変しました。目の前で自分の身体の一部が失われていくのをただ見つめるしかない——取り戻すことも、止めることもできない——その無力感に、恐怖を感じたのです。
そんな中、彼女は父親と深い対話を交わしました。彼女は父に「本当に『役に立つ人間』とはどんな人?」と問いかけました。父は最初、「医者として働き、臨床や研究に携わり、社会に貢献することだ」と答えました。しかし、彼女はその答えに納得できませんでした。そこで、父はこう続けました。「大切なのは、平和で幸せに生きることだ。もし一人の患者しか診られないなら、その一人を大切にしなさい。もし自分が弱りすぎて患者の世話ができないなら、まずは自分自身を大切にしなさい。心穏やかに、健康で幸せに生きることこそが、最も大切なことなんだよ」父の言葉は、彼女の心に深く響きました。
治療を続ける中で、彼女は「なぜ私がこんな経験をしなければならないのか?」と自問し続けました。そして、ひとつの答えにたどり着きます——それは「完璧であろうとし続ける自分を手放すため」ではないか、と。今、彼女は新しい人生を歩み始めています。ありのままの自分を受け入れ、自分の体をもっと大切にすること。そして、もう二度とがんに負けないように生きることを誓っています。
乳がんの発症率は高い
乳がんは、皮膚がんを除けばアメリカの女性に最も多いがんであり、死亡率は肺がんに次いで2番目に高い病気です。アメリカでは女性の約13%が生涯のうちに乳がんを発症するとしており、これは8人に1人が乳がんを経験する計算になります。
魏麗紅医師によると、近年、乳がんの発症が若年層にも広がっている傾向があり、その要因として肥満や初経年齢の早期化などが挙げられます。
しかし、彼女は「乳がんは決して恐れるべき病気ではない」と強調します。たしかに発症率は高いものの、治癒率も非常に高いのです。特に早期に発見すれば、治癒率は95%、さらには99%にまで達することもあります。重要なのは、医師の指導をしっかりと守り、定期的に乳房検診を受けることです。早期に診断できれば、早期に治療し、克服することができます。
乳がんの分類はとても重要
魏麗紅医師によると、最も一般的な乳がんは「乳管がん」で、全体の約90%を占めています。次に多いのは「小葉がん」で、全体の5~10%ほどです。その他にも、非常に稀なタイプの乳がんが存在します。
乳がんは通常、0期~4期に分類されますが、この診断には高度で複雑な検査が必要です。
医師はまず、腫瘍の大きさ(T:Tumor)を確認します。次に、がんがリンパ節に転移しているかどうかを調べます(N:Node)。さらに、特に若い患者で骨の痛みがある場合は、CTスキャンやPET(陽電子放射断層撮影)などの検査を行い、がんが他の部位に転移していないかを確認します(M:Metastasis)。こうした臨床評価を総合して、「TNM分類」という数値を決定し、がんの進行度(ステージ)を確定します。
魏麗紅医師は、乳がん治療は非常に複雑であり、適切な治療方針を決めるためには「正確なステージ分類が不可欠だ」と強調します。例えば、0期の患者であれば手術と少しの薬物療法で十分な場合がありますが、4期の患者になると、治療の選択肢が非常に複雑になります。
さらに、ステージ分類に加えて、「がんの特性分析」も重要です。たとえば、同じ1期の乳がんと診断されたとしても、そのがんが「治療しやすいタイプ」なのか「進行しやすいタイプ」なのかによって、治療法は大きく変わります。医師は、がん組織の一部を採取して詳しく分析し、その特性を見極めます。
乳がん患者の約3分の2は、がん細胞がエストロゲン受容体やプロゲステロン受容体を持っていることが確認できます。これらの受容体があると判断された場合、ホルモン療法が非常に効果的な治療法となります。また、がん細胞に「HER2」と呼ばれる特定のタンパク質が多く含まれている場合には、「分子標的治療」という非常に有効な治療を受けることができます。
魏麗紅医師は、「基本的に、乳がんが4期でなければ、高い確率で治すことができる」と述べています。
乳がんはすぐに手術しなくてもよい場合がある
多くの人は、「がんが見つかったらすぐにすべて切除しなければならない」と考えがちです。しかし魏麗紅医師は、早期の乳がんであれば、まず手術で腫瘍を切除し、その後に必要な追加治療を行うのが一般的だと説明します。
ただし、すべてのケースでこの方法が最適とは限りません。例えば、トリプルネガティブ乳がんや腫瘍が2センチ以上のケースでは、先に化学療法を行うことで生存率の向上が、臨床研究によって明らかになっています。
また、局所的に腫瘍が大きい場合、最初に手術をすると乳房を温存できない、または手術の仕上がりが不自然になってしまう可能性があります。このような場合は、まず分子標的治療を行って腫瘍を小さくし、その後に手術を行うことで、乳房の見た目をより自然に保ちつつ、生存率も向上させることができます。
魏麗紅医師は、「手術を先にすべきか、それとも他の治療を先に行うべきかは、非常に複雑な臨床判断が必要です」と強調します。そのため、「とにかくすぐに手術を」と焦るのではなく、専門医の指導を受け、自分にとって最適な治療方法を慎重に選ぶことが大切だと呼びかけています。
乳がんの危険因子と予防
魏麗紅医師によると、乳がんを予防するためには、まず発症の原因となる要因を理解することが重要です。
コントロールできない要因
乳がん患者のうち、5~10%は遺伝的に乳がんを発症しやすい体質を持っています。特に、BRCA1やBRCA2の遺伝子に変異がある場合、乳がんの発症リスクは60%以上に上昇するとしています。
現在、多くの乳がん患者や乳がんの家族歴を持つ人々が、自分の遺伝子を調べるための検査を受けるようになっています。もし乳がん関連の遺伝子変異が見つかった場合、通常の人とは異なるスケジュールで乳がん検診を受ける必要があります。
また、特定の遺伝子を持つ高リスクの人は、予防的乳房切除という選択肢もあります。この手術では、乳がんを発症する前に乳房を切除し、その後、乳房再建手術を行うことができます。
コントロールできる要因
乳がんのリスクは、生活習慣によってある程度コントロールできます。魏麗紅医師は、以下のポイントを意識することが重要だと述べています。
ポイント1、ストレスを溜めず、良い気分を保つ
ポイント2、有害なものを避ける(飲酒・喫煙を控える)
ポイント3、医師の指示に従い、定期的に検診を受ける
ポイント4、特定の薬による予防
アジア女性の臨床試験参加を呼びかけ
ウィナー医師によると、乳がんは40~70代の女性に多く見られます。特に45歳頃から発症率が顕著に上昇し、乳がん患者の約20~25%は閉経前の女性です。その中には40歳未満の患者も含まれており、乳がんは若年層の女性にとって最も一般的ながんの一つとなっています。
新しい治療薬の効果を検証するために臨床試験が欠かせませんが、現在アメリカで臨床試験に参加するがん患者の割合は非常に低く、特にアジア系女性の参加率が極めて低いのが現状です。
ウィナー医師は、「臨床試験では、薬の効果や副作用が人種や民族によって異なることが明らかになることがある」と指摘し、より多くのアジア系女性が臨床試験に参加することで、彼女たちに最適な治療法を見つける手がかりになると強調しています。
(翻訳編集 華山律)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。