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撮影/栗原朗

バッシングを受けた泉ピン子が「悪口をいいふらした相手にやり返したい」人に伝えたこと

泉ピン子トークイベントで見たもの 後編

「人は人に苦しめられることもある。でも助けられることも仰山あるのや。(中略)人の縁と言うものは大事にせなあかんで」

これは、泉ピン子さんが出演、2025年3月8日に放送された『花のれん』の中で、玉山鉄二さんが演じる落語の師匠が語る言葉です。山崎豊子さんが直木賞を受賞した本作は、吉本興業をつくった吉本せいさんをモデルにした物語。主人公の多可を、プライベートでもピン子さんと親しい北川景子さんが演じ、過去に大きな借金に苦しんだ泉ピン子さんが「金貸し」きんの役を演じました。

この「大きな借金に苦しんだ」のは、『おしん』『渡る世間は鬼ばかり』のあと、52歳のときのことでした。この頃スタートした『ぴったんこカン・カン』でコメディエンヌとしてバラエティでも最強な姿を見せています。まさかピン子さんがこのとき、数億円もの借金を背負っていたと感じた人はいなかったことでしょう。

2025年3月に刊行されたエッセイ『 終活やーめた。元祖バッシングの女王の「ピンチを福に転じる」思考法 』には、ピン子さんのそんな「ピンチをチャンスに変える活動=ピン活」がたくさん綴られています。刊行記念のトークイベントでもピン活についてたっぷり語っていました。

イベントレポート前編では。西田敏行さんとともに売れずに貧乏だった時代のことや、転機となったワイドショーのこと、参加者の相談にのった話までお伝えしました。

後編では、もう一つのピンチ、バッシングのことや数億の借金の詳細も含め、「人との縁」について本音で語ったことをお届けします。

杉村春子から技術を、森光子からはプロとしての姿勢を学ぶ

ピン子さんの高い演技力は、『おしん』や『渡る世間は鬼ばかり』などでタッグを組んだ脚本家・橋田壽賀子さんはじめ、多くのプロデュ―サーや俳優からも信頼されています。

「芝居とは何かを根本から叩き込んでくれたのは、杉村春子先生(1906- 1997年)。先生は多くを教えてくださいましたが、私の体に“芝居の音”ということを叩き込んでくださった恩師です」

杉村春子さんと泉ピン子さん 写真/『終活やーめた。』より
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日本の演劇史・文化史に残る俳優・杉村春子さんは、「声で状況と感情を表現し、そこに心を込める」ことをピン子さんに叩き込みます。イベントでは、杉村春子仕込みの“声使い”を披露。杉村さんのモノマネとともに、「ねえ、かあさん」をどう言い分けるかを実演してくれました。

「たとえば(シンプルに)『ねえ、かあさん』っていったらそこにいる人じゃない。(ささやくように)『ねえ、ねえ』っていったらすぐ近くのそこじゃない、(声を張り上げて)『母さーん?』っていえば向こうの人じゃない。2階にいるなら(さらに声を張り上げて)『かあさーん』でしょ……」

こうして実際演技をすると、笑いに包まれていた会場が、水を打ったように静まり返りました。誰もがその演技に圧倒されたのです。

「ねえ」だけでもその情景が浮かんでくる… 撮影/栗原朗

「セリフの音」についてピン子さんは説明を続けます。

「その音の違いを杉村先生に学びました。音病になりました。自分の声が正しいかどうか、常に音の分析をしていました。役者でもなんでもない友達と電話しているときに、受話器の向こうに“その音は違う”とダメ出ししたこともあって。相手はポカーンとしていましたけどね」

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