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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第97回

AI法案、柔軟規制で国会審議へ 罰則なし“ソフトロー”の狙いは

2025年03月03日 07時00分更新

文● 新清士

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 2月28日に石破内閣が、現在開催中の通常国会にいわゆる「AI法案」を提出しました。正式名称を「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」と言い、2024年4月にまとまった自民党案では「責任あるAI推進基本法案」と呼ばれていた法案です。AIについての法制化の必要性と基本理念がまとめられ、国が「人工知能基本計画」を策定し、内閣府に「人工知能戦略本部」の設置することが明記され、司令塔機能の強化が進められます。一方で、法律による新しい罰則規定などは設けず、既存法を活用していく「ソフトロー」で対応する姿勢も明確化しています。2年越しで準備が進められてきたAI法は、4月以降になると思われる後半国会で、成立に向けての本格的な議論が進むことになります。

AI法案は罰則なしの基本法

 AI法案の中身そのものは、基本法としての側面が強いシンプルな内容です。

 AIの研究開発・活用の推進についての基本理念が設定され、適正・効果的利用、透明性確保、国際協調を定めています。そして、AI技術推進における関係者間の連携強化、必要な法律・財政措置の整備を規定しています。その上で、政府が「人工知能基本計画」を策定・公表することを規定し、「人工知能戦略本部」の設置を盛り込んでいます。

 時事通信が「悪質事業者、国が調査・公表 政府、AI法案を国会提出」という見出しで報じていますが、法案そのものには、直接的な罰則規定はありません。第16条では、国は、「国民の権利利益の侵害が生じた事案を分析・検討し」、その結果に基づいて、研究開発機関や活用事業者に対し「指導・助言・情報の提供その他の必要な措置を講ずる」としています。この文言のうち「情報の提供」が、事業者名の公表に該当すると考えられるようです。さらに詳細は、法案成立後に運用規定等で定められてくるものと思われます。

 法律の必要性は、日本でのAI開発・活用が遅れており、また、AIに対して国民が不安を感じていることを解消するために、「AI活用によるイノベーションを促進しつつ、リスクに対応する」ことを目指しているとしています。

 一方で、基本的にはEUが「EU AI法」として進めている包括的な法律で規制を決めて運用する「ハードロー」ではなく、既存法を活用し、柔軟に状況に合わせて対応させる「ソフトロー」による運用を前提とし、急激な技術的な変化に国も対応しながら、推進を図っていくというあり方です。

 2月4日に開催された「第13回AI戦略会議・第7回AI制度研究会」で、今回のAI法案に反映させることを前提とした意見集約が行われた「中間とりまとめ」が承認されました。その中では、法律による規制を現敵的なものとし、ソフトローの主体で進めていくことについて、以下のように論じられています。

 “法令に基づく罰則がある場合には、公的機関が何かしらの強制力を発動することが可能であり、規律の実効性の確保が得られやすいという利点がある一方で、規制を行った分野の発展を阻害する可能性があるほか、国民の権利利益に影響を及ぼす規制が明確である必要があることに鑑み、その範囲を検討するには一定の時間を要するため、柔軟性に欠けるといった欠点がある。その他、罰則を伴わない法令であっても、法令に事業者の義務や責務が明記されること自体によって国内外の事業者に対し規律を働かせ、一定の実効性を確保することが可能である” (「AI戦略会議 AI制度研究会 中間とりまとめ(案)」P.8-9)

 “イノベーション促進とリスクへの対応の両立を確保するため、法令とガイドライン等のソフトローを適切に組み合わせ、基本的には、事業者の自主性を尊重し、法令による規制は事業者の自主的な努力による対応が期待できないものに限定して対応していくべきである”(「AI戦略会議 AI制度研究会 中間とりまとめ(案)」P.10)

 また、AIのもたらすリスクについて、どのような現行法が対応しているのかも検討がなされており、ほとんどのリスクは現行法で対応が可能であることが示されています。

「AI戦略会議 AI制度研究会 中間とりまとめ(案)」P.9より

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