ふと依頼されたラジオに関するエピソードが思いのほか好評でしたが、残念ながらお蔵入りとなったので記念に残します。
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夕方にラジオを聞くと中学校の図書室をうっすらと思い出します。
中学2年の私は、部活動をサボりたい一心で図書委員になりました。理由はクラス選出の委員2名が週に1回、放課後に図書室の受付当番を行うためです。
私が通う中学校には放課後にわざわざ図書室に来る勤勉な生徒などおらず、図書室は毎日が開店休業でした。
そんな「やることがない」図書室の受付において、いつの日からかFMラジオが流れるようになりました。
きっかけは全く覚えていませんが、とても古いラジカセが東京FMを届けていたことだけは確かです。
ラジオから流れる曲やニュース、時折挟まれる交通情報。パッシブに提供される情報が2人の会話のきっかけになったのでしょう。
私のサボり兼居眠りの時間は、2人で過ごす時間に変わっていきました。
スマホもインターネットも無い図書室に流れるラジオの音声が2人の想像力を掻き立てたのかもしれません。
好きな曲の話題、番組テーマに関する雑談、いつも渋滞している箱崎ジャンクションに何があるのか。
たわいのない会話をする時間の心地よさ。その感覚だけ強く記憶に刻まれています。
3年生への進級後も同じクラスになった2人は、明確に申し合わせることもなく、自然に図書委員に収まりました。
日中のクラスでは会話した記憶が全く無いですが、いつの日からか当番終わりに一緒に帰り、たまにお互いの家に寄ったり、休日に遊んだりもしました。
今時の価値観で思い返すと、お付き合いに発展する可能性もあるようにも感じますが、当時ぼけーっと生きていた私は、卒業とともに連絡を取ることもしなかったはずです。
正直に申し上げると、相手の顔や声もおぼろげにしか覚えていません。
それほどに時が経っても、夕方に聴くラジオは30年前の感覚を思い出させ、きっとこれからも心の深い所を撫で続けるのです。
おしまい。