2025-01-29

1994年、あの時、壁画法の解釈が拡大してグラフィティ肥大化していった。スプレー缶は飛ぶように売れて、すべてが無地の壁に吹き付けられた。ラクガキを消すには上書きをするしかなく、上書きできるのはより優れたグラフィティのみ、これを犯せば裁判場合によっては私刑で、その最高刑は極刑だった。

2024年、今、もはやまっさらな壁など見当たらない。コンクリート重力に逆らって立てば、生乾きのうちに壁画になる。いかなるミキサー車スケートボードに乗った悪童を2,3人は引き連れているといった次第だ。30年前と違うのは遊び心。壁画殆ど広告であり、すべてに自然に、あるいは義務感を帯びて唐突3次元コードが埋め込まれている。半VRグラスを介して3営業セカンド以内に購買の意思決定が行われる。本人が決めるのではない。18年以上グラスを着用している責任能力のある成人本人から学習したモデル機械的に500ms以内に決定、本人の拒否が2.5秒以内に行われなければ購買が成立する。広告は、機械システムが行う作用になった。

義務教育の遠心力で飛び出したガキが壁画制作過程を出稿主か代理店かに見せて報酬を受け取る。多くの場合公共配信サービス上に動画が上がるので、それをもとにウマそうな場所特定して上書きする。

動画に紐付けられたマウントは、その手早さによっては追加報酬が得られる。元動画を上げたガキは数時間分の報酬しか得られなかったりなんてことはザラで、腕が悪いなら夕方にこっそり上げるのがスジだったりする。昼は不良が、深夜はバイト帰りの専門学生が、朝はプロ徘徊しているのだ。

しかしこうも過熱すると壁画を消してしまうということにも利益が発生する。法律上それは許されないはずだが、色彩過敏科のある10床以上の規模の医療機関構成する壁、清掃会社の本棟東側の壁、にはあらゆる清掃が可能等々の例外がある。そこにライバル会社広告を出稿させ、消してしまう。清掃の場合動画に上書きの証拠を紐付ける必要はなく、ストリートビュー更新されるまで発覚しない。消えている間は無駄広告費が発生する。それはライバル会社利益といえる。

そして2025年近未来下井草というとらえどころの無い土地では「童z(ワッズ)」「株式会社アトカブ」「キエルヒャーCorp 北日本支部」による、傾斜60度以上の平面の塗り合い、毛試合が始まろうとしていた…長い長い戦史はライフ西側の壁から始まる。


[増田原稿]

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