2025-01-29

旧姓公的登録・利用・証明制度が創設された場合に起こること

 長年法整備議論されてきた選択夫婦別姓だが、2024年衆院選の結果、ようやく実現に向けて動き出すことが期待されている。

 しかし、旧姓利用の拡大を主張する政治家存在するため、着地点は見通しにくい。

 「旧姓利用の拡大」という言葉あいまいで、次の三つの解釈ができる。

1. 民間人が(勝手に)旧姓利用を拡大し、民間企業民間団体各自判断して対応する。

2. 名前制度は現行のまま維持する。民間人が(勝手に)旧姓利用を拡大し、役所民間企業民間団体には対応義務づける。

3. 旧姓公的登録・利用・証明制度を新たに創設する。

 1は何もしないのと同義であって、現状の問題を一切改善しない。2も効果国内限定され、また対応義務づけられた用途以外では利用できない可能性が高い。

 そのため、3の旧姓公的登録・利用・証明制度のみが選択夫婦別姓の対案となる。

 実際には旧姓公的登録・利用・証明制度選択夫婦別姓と並立可能なため二者択一ではない。

 しかし、選択夫婦別姓を導入しない前提で主張していると思われるケースが見受けられるため、ここでは両者を比較しつつ考察することとする。

目次

i. 現時点での筆者の考え

ii. 旧姓公的利用制度の波及範囲

iii. 名前制度の変更

iv. 必要になる規制

v. 制度利用者以外への影響

vi. まとめ

i. 現時点での筆者の考え

 まず選択夫婦別姓を優先的に実現させたほうがよい。

 選択夫婦別姓代替策として不十分な議論で導入するようなものではない。

 選択夫婦別姓の実現後も旧姓公的利用制度を求める声が大きければ、(過去選択夫婦別姓についてそうしたように)法制審議会諮問すべき。

 理由は以下で論じていく。

ii. 旧姓公的利用制度の波及範囲

 旧姓公的登録・利用・証明制度(以下、旧姓公的利用制度)が実現した場合制度利用者旧姓名は公的ものとなる。

 旧姓公認することで不便が改善され、旧姓利用の拡大を後押しできるというのが建前ということになる。

 ここから本題だが、旧姓公的利用制度の波及範囲を一部の政治家過小評価しているように見える。

 旧姓名を公的ものとした場合潜在的には名前に関するあらゆる法律に波及する。

 たとえば、個人情報保護法では個人情報定義に氏名、生年月日などが挙げられているが、条文か解釈を変える必要があると思われる。

 「氏名」というワードが登場する法令は十や百ではきかないので、その波及範囲はかなり大きくなるだろう。

 一方、選択夫婦別姓で別姓結婚した場合では両者の戸籍名が変わらず、名前に関するあらゆる法律に波及することはない。

 現状の強制的夫婦同姓においても片方は戸籍名が変わらない。別姓の場合には同姓の場合戸籍名が変わらない側と同じように対応することができる。

 一部の政治家旧姓公的利用制度選択夫婦別姓よりマイルド方策宣伝している。

 それはおそらくただの思い込みに過ぎない。

 実際は旧姓公的利用制度の方がより急進的で、大掛かりな制度変更となる。

iii. 名前制度の変更

 日本近代以降の名前制度において、「氏名とは戸籍名であり、戸籍名は一つ」である

 選択夫婦別姓はこの原則を保つが、旧姓公的利用制度はこれを覆す。

 登録可能旧姓過去の姓のうちの一つ(出生時/直前のもの)に限るとしても、公的名前を二つ持つ人が出現することになる。

 そういう制度になったらなったで対応すればいいとはいえ、どのような対応になるだろうか。

 いうまでもなく、戸籍名を扱うとした業務が多く残るなら制度効果が(選択夫婦別姓と比べて)不完全となってしまう。

iv. 必要になる規制

 この節では、旧姓公的利用への対応義務づける規制について検討する。

 すぐに思いついたものだけなので、網羅はできていない。

 また、旧姓公的利用制度利用者による「戸籍名利用」を制限するかどうかも議論必要かもしれない。

 個人的には戸籍名利用を制限するのには違和感があるが、制限なしの場合は「戸籍名/登録した旧姓名のみ/旧姓併記」の三種類のパスポートが発行できることになる。

v. 制度利用者以外への影響

 選択夫婦別姓が実現したとして、基本的には別姓結婚する人以外に影響しない。

 夫婦同姓を希望するカップル結婚は従来通りで、また結婚時以外も生活上の変化はない。

 一方で、あまり触れられていないが、旧姓公的利用制度が実現した際は利用者以外にも影響や負担が及ぶ可能性がある。(制度設計次第だが。)

 たとえば、パスポート免許単独では氏名確認が行えなくなることが想定される。

 登録した旧姓名のみが書かれた身分証が発行されるので、身分証に書かれた名前が氏名(戸籍名)かどうか分からなくなるからである

 名前を扱う業務の整理の結果、「戸籍名または登録した旧姓名」ではなく戸籍名を扱うとした業務では確認方法を変えないといけない。

 これは旧姓公的利用する人に限らない。具体的な方法としては身分証戸籍抄本などの書類を併用する形になるだろう。

 「戸籍名または登録した旧姓名」ではなく戸籍名を扱う領域例外的になるまでは負担継続する。

 (強力かつ広範な規制エイヤでやればいいのかもしれないが、選択夫婦別姓なら規制自体がいらない。)

vi. まとめ

 旧姓公的利用制度が創設された場合、次のようなことが起こると考えられる。

 誤解がないよう書き添えると、筆者は旧姓公的利用制度否定的なわけではない。

 これをもって選択夫婦別姓を導入しないための代替策とするのは望ましくないと考えている。

 選択夫婦別姓という専門家による議論が熟した優れた案があるのだから、優先的に実現させたほうがよい。

 冒頭でも触れたように、旧姓公的利用制度選択夫婦別姓と並立可能である

 この制度メリットについて筆者は分からないが、選択夫婦別姓の実現後も求める声が大きければ、導入を検討するのが望ましいだろう。

 選択夫婦別姓妨害するためではなく、旧姓公的利用したいと望んでいる人から聞き取りする必要があると思う。

 ここで挙げたような点も、専門家議論すれば緩和策や回避策を用意できるかもしれない。

 そのためにも、(過去選択夫婦別姓についてそうしたように)法制審議会諮問するのがよいと思う。

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