「中国版新幹線」とも呼ばれる中国の高速鉄道は、世界最大規模の鉄道システムとして知られています。同時に、その負債総額も桁外れに大きいものです。最近では、建設後一度も使われなかった高速鉄道の駅が数十カ所あることが判明しました。
海外メディアの報道によると、高速鉄道を運営する中国の国策企業「中国国家鉄路集団」の負債総額は6.13兆元(約126兆円)に達しています。中国の高速鉄道はこれまで、路線を拡張することで売り上げを伸ばしてきましたが、少なくとも26の駅舎が放置状態となっています。中には建設後、一度も使用されていない駅もあります。
海南省に位置する海頭(かいとう)駅は、投資総額が4,159万元(約8.6億円)に上ります。しかし、日々の乗客数が少なすぎるため、開業後は毎年500万元(約1億円)の赤字が見込まれました。2015年に完成してから8年間使用されず、2023年12月15日にようやく運用がスタートしました。
他の駅も同じような問題に直面しています。中国の高速鉄道が規模を拡大する中で、駅の数も増加しました。しかし、無計画な建設と不合理な計画の結果、多くの高速鉄道の駅が財政上のお荷物となり、しまいには放棄されてしまいました。中国の8つの省では、高速鉄道が省全域をカバーし、約7割の都市で高速鉄道が開通しています。しかし、統計データによると、利益を上げているのはわずか6路線であり、その他の路線はすべて赤字だそうです。
湖南省衡陽(こうよう)市には、建設以来人影が見えない高速鉄道の駅があります。ホールはがらんとしており、周囲にもほとんど住民がいません。その名は衡南高鉄(こうなんこうてつ)駅です。駅の名前に「衡南」とありますが、実際には衡南県の龍海村(りゅうかい)に位置しており、衡南県の中心部から遠く離れています。
衡南駅を通るのは、南北交通の大動脈に接続する吉衡(きっこう)鉄道です。2008年12月28日に建設が始まり、2014年7月1日に開通しました。衡南駅は建設からすでに10年経過していますが、乗客数が非常に少ないため、今日に至っても正式には稼働していません。客流の観点から見ても、衡南駅はまったく必要ないかのように見えます。付近には多くのバス路線があり、衡陽市街地へのアクセスは良好です。そのため、衡南駅が将来的に稼働するかどうかは不明です。
南京の紫金山東(しきんざん・ひがし)駅は、南京市の交通網における駅の一つです。2010年当時の報道によれば、紫金山東駅は2010年末に建設が完了し、2011年1月に正式開通する予定でした。しかし、12年たった今でも、この駅はまだ未使用のままです。
紫金山東駅の付近には、大規模商業施設やマンションが多く見られ、これらの建物が駅を取り囲んでいます。駅の近くまで来ても、駅の周囲はすべてフェンスで囲まれているため、近づくことさえ困難です。
夕暮れ時、廃(すた)れた駅は薄暗く、人気もありません。待合室はがらんとしており、長い間人が立ち入っていないことがわかります。駅が開業する見通しは未だ立っていません。
南京の江浦(こうほ)駅は2011年に完成しました。現地メディアの報道によれば、その年の7月には開通する予定でした。しかし、11年が経過しても、駅は一度も使用されることはなく、その閑散とした様子から、地元では「幽霊駅」のあだ名がつけられています。
駅の立地は非常に辺鄙であり、近くにあるのはリゾート地だけです。また、最寄りの地下鉄からも遠く離れています。地下鉄駅を降りた後、江浦駅に向かうためにはタクシーを利用しなければなりません。駅の周辺には荒涼とした大地が広がっているだけで、規模拡大のためにあらかじめ建設されたプラットフォームが 2つあるだけです。
シンガポールメディアの記者が河南省南曹(なんそう)駅を現地取材したところ、駅内には誰もいませんでした。駅の外には停まっている車両が数台あるだけで、経済活動はほとんど見られなかったといいます。南曹駅にほど近い孟荘駅も新しく建設された「幽霊駅」で、同じく未使用のまま放置されています。
中国各地の地方政府は、高速鉄道を建設することを政府の業績として捉えています。山東省済南(さいなん)市では、市内に18もの高速鉄道の駅が建設される予定です。また、重慶市には20の高速鉄道の駅があります。果たして、1つの都市に10以上の駅を建設する必要性はあるのでしょうか。それとも、地方政府の官僚が自分の業績のために建設しているのでしょうか。都市部の高速鉄道の駅は増える一方です。しかし、さまざまな理由により、多くの駅舎が使用されないまま放置されています。
報道によると、現在、中国では少なくとも26の高速鉄道の駅が放置されており、その原因は千差万別です。ある駅は、所在地域の経済発展が遅く、集客性がネックとなりました。また別の駅は、駅周辺の道路交通に難があり、アクセスが不便でした。さらに、中には地方政府の官僚の「ご意向」だけによって建設された駅もあるとのことです。
このような現象は、特定の駅に限られたものではありません。実際、中国の高速鉄道は急ピッチで建設され、鉄道網は全国に広がっています。総延長は4万キロを超え、合計2500以上の駅が新設されました。しかし、大規模な建設ラッシュのなか、地方政府は周辺のインフラ整備をしばしば無視してきました。その結果、多くの駅が建設後すぐに廃棄され、「幽霊駅」と化したのです。
幽霊駅の周辺に住む地元住民は、この状況に慣れてしまっているようです。「幽霊駅」が日常生活に与える影響について尋ねられると、「全く影響を受けていない」という答えが返ってきました。なぜなら、彼らはすでに他の交通手段、例えば地下鉄に乗ることに慣れているからです。
中国の地方政府は高速鉄道を建設する際、新しい駅を建設すれば不動産市場を活性化させ、都市のイメージを向上できると期待していました。しかし、その幻想ははかないものでした。期待していた繁栄は実現せず、計画と実態の大きなギャップが残されただけでした。中国の高速鉄道は国家経済の急成長を象徴していると言われていますが、人々に忘れ去られた「幽霊駅」、その背後に潜む巨額の負債の象徴となっています。
(翻訳・唐木 衛)