フロスを面倒に感じる人もいるかもしれません。しかし、新しい研究により、フロスは努力する価値があるという証拠がまたひとつ加わりました。血栓や不整脈に起因する脳卒中のリスクを軽減する可能性があるからです。予備研究では、口内に存在する一般的な細菌が脳卒中のリスクを高める可能性があることが判明し、研究を裏付ける結果となりました。
口腔衛生から得られるあらゆる恩恵を享受するためには、フロス使用のミスを避ける方法を知っておく必要があります。
フロスと脳卒中のリスク
ロサンゼルスで開催された米国脳卒中協会の国際脳卒中会議2025で発表された新しい研究結果は、1月30日付の『Stroke』誌に掲載されました。研究者は、歯の衛生管理としてデンタルフロス、歯磨き、または定期的な歯科医の受診のうち、脳卒中予防に最も効果的なものは何かを特定することを目的としました。
研究者は、脳卒中の既往歴のない6千人以上と心房細動の既往歴のない6千人以上を対象に、構造化されたアンケート調査を実施し、デンタルフロスの家庭での使用状況を評価しました。少なくとも週に1回はフロスを使用していると回答した人々の中で、4092人は脳卒中の診断を受けておらず、4050人は心房細動(AFib)と呼ばれる深刻な不整脈を経験していませんでした。心房細動もまた、脳卒中につながる血栓のリスクを高めます。
参加者は、定期的な歯磨きや歯科検診など、その他の歯科習慣に関する質問にも答え、また、体格指数、喫煙、コレステロール、糖尿病、血圧に関する情報も提供しました。研究者は、結果を分析する際にこれらの情報を考慮しました。
参加者は25年間追跡調査されました。この間に434人が脳卒中を発症しました。これらの脳卒中の中で、147件は脳の太い動脈の血栓(血栓性)が原因で、97件は心臓から動いた血栓(心臓塞栓性)が原因で、95件は細い動脈の硬化(ラクナ梗塞)が原因でした。さらに、1300人近くの参加者が心房細動を経験しました。
研究者らは、フロッシングと虚血性脳卒中(脳動脈の血栓)のリスク22%低下、心臓から移動した血栓による脳卒中のリスク44%低下との関連性を指摘しました。また、フロッシングは心房細動のリスク12%低下とも関連しており、虫歯や歯周病の可能性も低減させることが分かりました。しかし、フロッシングの頻度と血栓性脳卒中や「ラクナ梗塞による脳卒中」のリスク低下との間に関連性は認められませんでした。
フロスをより頻繁に行うと、より大きなリスクの低減につながり、そのリスクの低減は、通常の歯磨きや歯科検診とは関係なく起こりました。
「口腔衛生習慣は炎症や動脈硬化と関連しています。フロスは口腔感染や炎症を抑え、その他の健康的な習慣を促すことで、脳卒中のリスクを低減する可能性があります」と、主執筆者である、サウスカロライナ州コロンビアのプリズマ・ヘルス・リッチランド病院神経科部長およびサウスカロライナ医科大学のソビック・セン(Souvik Sen)博士は声明文で述べています。
「多くの人々が歯科治療には費用がかかる、と述べています。フロスは、手軽に始められ、手頃な価格でどこでも入手できる健康的な習慣です」と彼は言います。
もしこの結果が後に検証された場合、歯科衛生習慣は、一般の公衆衛生に影響を与える主な要因のひとつとして考慮されるかもしれません。
「さらなる研究により、歯科衛生習慣は、食事、運動、ニコチンへの曝露、睡眠、肥満指数、血圧、血糖値、血中脂質といった『生活習慣病の8つの危険因子』に組み込まれる可能性もあります」と、サウスカロライナ医科大学の疫学教授で、循環器疫学の博士号を持つダニエル・T・ラックランド(Daniel T. Lackland)氏は声明で述べています。
口腔内の細菌と脳卒中リスク
国際脳卒中会議でも発表された予備研究により、フロッシングが脳卒中の予防に役立つ可能性があるという考えがさらに強まりました。
著者らは、口腔内や腸内に広く存在する「Streptococcus anginosus(ストレプトコッカス・アンギノサス)」という細菌が、脳卒中を患ったことのある人の腸内に大量に存在していることを発見しました。また、この細菌はより深刻な予後と高い死亡率にも関連しています。
この発見は、同じ研究チームが以前に行った研究を基にしています。その研究では、虫歯の原因となる細菌である「Streptococcus mutans(ストレプトコッカス・ミュータンス)」が、脳内出血のリスクを高めることが判明しています。
「私たちの研究結果は、口腔内の細菌と脳卒中のリスクの関連性について新たな洞察をもたらすとともに、脳卒中予防の潜在的な戦略も提供しています。ストレプトコッカス・ミュータンスとストレプトコッカス・アンギノサスは、どちらも歯のエナメル質を破壊する酸を生成することで虫歯の原因となる細菌です」と、主執筆者である国立循環器病研究センター(大阪府)神経内科の医師、外村修一氏は声明で述べています。
これらの脳卒中関連細菌を口の中から取り除くためにフロスがどれほど重要かという質問に対して、外村氏は本紙の取材に対し、フロスは一般的に細菌が引き起こす虫歯や歯周炎を減らし、口腔衛生を改善すると述べました。
口腔衛生と脳卒中との関連の少なくとも一部は腸に関係しています。
「口腔内の細菌を減らすことは、腸への移動を防ぎ、脳卒中を予防する合理的な戦略であると私たちは考えています」と外村氏は述べました。
メカニズムの説明
『米国心臓学会誌プラス:心臓病研究と実践』に掲載された総説では、疫学的証拠から歯周病と心血管疾患(CVD)の関連性が示唆されていると指摘しています。 CVDには、心臓発作、脳卒中、冠動脈性心臓病、末梢動脈疾患などが含まれます。
研究者らは、心血管疾患と脳卒中との関連性の根底にある可能性について仮説を立てています。 歯周病の歯垢に含まれる細菌が血流に入り込み、血小板を活性化させます。血小板が活性化すると凝集して血栓を形成し、心血管系の疾患を引き起こす可能性があります。
また、血小板の活性化は炎症性物質の分泌を促し、動脈の脂肪性プラーク(粥状硬化)の形成や血栓(血栓症)の原因となることもあります。これらの炎症性物質は全身性炎症を引き起こす可能性があり、これも一因であると考えられています。
アベンチュラ・カーディオバスキュラー・センターの創設者で医療ディレクターのレオナード・ピアンコ(Leonard Pianko)博士は、本紙の取材に対し、歯磨きと定期的な歯科医の受診に加え、フロスは歯周病予防に不可欠な要素であると電子メールで回答しました。フロスは歯垢や細菌を歯から取り除き、歯周病を予防することで、心臓病や脳卒中のリスクを軽減します。
「歯周病を患っている人すべてが心臓血管障害を発症するわけではありませんし、心臓血管障害を患っている人すべてが歯周病を患っているわけでもありません。しかし、研究結果は両者の間に強い関連性があることを示しています。だからこそ、口腔衛生を良好に保つことが不可欠なのです」とピアンコ氏は述べています。
フロス使用のヒント
フロスを使用することが難しいと感じる人もいますが、米国歯科・顎顔面研究所は、以下の役立つヒントを提供しています。
- フロスは目で見るのではなく、手触りで確認しながら行いましょう。
フロスをする際に鏡を見るのではなく、手触りで確認しながら行うと良いでしょう。鏡は画像を反転させるため、目と手の協調がうまくいかなくなります。 - 長いフロスを使用しましょう。少なくとも45cmのフロスを使用し、使用する部分を薬指と中指に巻き付けます。短いフロスはコントロールが難しくなります。
- 歯を鳴らすのではなく、ノコギリで切るようにする:歯と歯の間にフロスを通す際には、歯を鳴らすのではなくノコギリで切るような動きをします。歯を鳴らすと歯と歯の間のデリケートな組織を傷つける可能性があります。
- 代替品を試してみましょう:ウォーターフロス、歯間ブラシ、フロスホルダーも歯と歯の間の歯垢を取り除くことができます。
一部のデンタルフロスには有害な化学物質が含まれている可能性があることが研究で示されています。『Environmental Pollution』誌の研究では、フロスからマイクロプラスチックが発見され、『Environmental Science: Processes and Impacts』誌では、ペルフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)が特定されています。
リスクを最小限に抑えるためには、「PFASフリー」と表示されたフロスを選ぶか、プラスチックではなくシルクなどの天然繊維、また石油由来のワックスではなく、ミツロウなどの天然素材でコーティングされたものを選ぶと良いでしょう。フロスのパッケージに成分が記載されていない場合は、有害な化学物質が含まれている可能性があると考えてください。
HonorHealthのインターベンショナル心臓専門医であるデビッド・リジク(David Rizik)博士は、本紙に電子メールでフロスに関する考えを述べました。
「どんな人のバスルームにも、強力なツールがあります。それはデンタルフロスです。口臭予防や虫歯予防くらいにしか思わないかもしれませんが、それだけではありません」。
歯医者さんで歯茎の病気や細菌の形成について相談し、心臓や血管の疾患の原因となる可能性について話し合うことが重要です。私たちがデンタルフロスと呼ぶ、この小さな糸は、歯をきれいにするだけでなく、脳も守ってくれるのです。この製品は、健康をサポートするための手軽な投資と言えます。
(翻訳編集 呉安誠)
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