小惑星探査機「はやぶさ2」が12月6日、6年50億キロの旅を経て、地球へと帰還する。
豪州上空に送り届けられる小惑星の砂には、生命誕生のヒントが詰まっているはずだ。
-
関西学院大学のページへ
-
大正製薬のページへ
-
東京理科大学のページへ
-
日本航空電子工業のページへ
-
森永乳業のページへ
-
スーパーレジン工業のページへ
-
関西学院大学のページへ
-
大正製薬のページへ
-
東京理科大学のページへ
-
日本航空電子工業のページへ
-
森永乳業のページへ
-
スーパーレジン工業のページへ
2010年6月13日。
小惑星探査機「はやぶさ」が、豪州の上空で燃え尽きた。地球に送り届けられたカプセルの中には、小惑星「イトカワ」の砂が入っていた。
それから4年。
後継となる小惑星探査機「はやぶさ2」が、鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げられた。
目指すのは、後に「リュウグウ」と名付けられる小惑星。地球から火星付近の軌道を回っていて、イトカワよりも窒素や炭素といった有機物が豊富にあるとされる。砂の採取に成功すれば、生命の材料が小惑星にもあることを確認できるかも知れない。
初代「はやぶさ」が培った経験と、新たに開発された技術を武器に、「はやぶさ2」の旅が幕を開けた。
JAXA提供のデータから作成
0000 00 00
総飛行時間: 0日
探査機と地球の距離: 0万km
探査機と「リュウグウ」の距離: 0万km
飛行距離: 0万km
2015/12/03
「リュウグウ」への軌道に乗せるため、
地球スイングバイを実施
2018/06/27 「リュウグウ」に到着
2019/02/22 1回目の着陸に成功。サンプルを採取
2019/04/05 衝突装置を使って「リュウグウ」に人工クレーターを作成
2019/07/11 2回目の着陸に成功。再度サンプル採取
2019/11/13 「リュウグウ」から離脱開始
2020/12/06 サンプル回収カプセルが地球に帰還
「はやぶさ2」が目指した「リュウグウ」は、太陽の周りを楕円(だえん)軌道で回る小惑星だ。火星の軌道付近まで遠ざかることもあれば、地球の軌道の内側まで太陽に近づくこともある。年に2回、「リュウグウ」と地球の軌道が交錯する。このタイミングで探査機を方向転換すれば、「リュウグウ」の軌道に乗せることができる。
打ち上げから1年後の2015年12月、そのタイミングがきた。地球に戻ってくる形で太平洋の上空3千キロまで近づいた「はやぶさ2」は、地球から重力のエネルギーを少しだけ分けてもらい、軌道を「リュウグウ」の方向へと変えた。
長野県にある東京大の望遠鏡で「はやぶさ2」の通過を確認した研究者は「時間も位置もどんぴしゃ。初めは暗くてゆっくりだったが、みるみる明るくなって速度も増し、頼もしい感じになった」と語った。
「はやぶさ2」のメインエンジンは、初代に続き、4基のイオンエンジンとなった。ガスを噴射する化学エンジンより力は弱いが、電気の力で効率よく加速でき、極めて燃費がいい。近年では商用衛星の姿勢制御にも採用される例も増えている。
初代のイオンエンジンは、打ち上げ後すぐに1基が故障し、その後も劣化や故障が相次いだ。最後は別々のエンジンの部品を組み合わせて動かし、かろうじて地球にたどり着いた。「はやぶさ2」では教訓を踏まえて設計を見直し、より低い電圧で力を出せるようにして高出力と耐久性を両立させた。
打ち上げから3年半。「はやぶさ2」はイオンエンジンを断続的に噴射して約30億キロを飛んだ。大きな故障もトラブルもなく、2018年6月、ついに「リュウグウ」へと到着した。ここまでは、順調すぎる往路だった。
近づいてみると、小惑星「リュウグウ」の地表は、大小の岩にびっしりと覆われていることがわかった。初代が着陸した「イトカワ」には広い砂地があり、着陸場所に困らなかったが、「リュウグウ」は直径10~20メートルほどの平らな場所が数カ所あるくらいだった。
チームが想定していた「はやぶさ2」の着陸誤差は半径約50メートル。とてもピンポイントの着陸はできない。チームは4カ月後に予定していた最初の着陸を延期し、時間をかけて必要なデータを集めることにした。
着陸では、自転する「リュウグウ」に上空20キロから接近し、着陸予定地点がこちらを向いた瞬間に高度ゼロになるよう制御しないといけない。地表の精密な測定だけでなく、重力分布の確認も必要だった。プロジェクトマネージャの津田雄一は言った。「『リュウグウ』が、ついに牙をむいてきた」
岩だらけの「リュウグウ」に着陸するには、上空20キロから甲子園球場のマウンドに降りられる精度がいる。チームは、一つひとつの岩の高さと形を10センチ単位で再現した三次元地図を作り、姿勢を制御する12基の化学エンジンの癖も調べて誘導プログラムに教え込んだ。
2019年2月21日。「はやぶさ2」は当初予定から4カ月遅れで降下を始めた。目印となる重りを落とし、その位置をカメラで捉えながら高度を下げていく。高度500メートルからは完全に自動制御だ。管制室にいた約50人は立ち上がり、食い入るように画面を見つめた。
22日午前7時半ごろ、「はやぶさ2」は着陸。初代「はやぶさ」ができなかった、砂を巻き上げるための弾丸の発射も確認された。拍手が湧き、抱き合って喜ぶスタッフら。ライブ中継のカメラに掲げられた紙にはこうあった。「初号機とは違うのだよ、初号機とは!」
「はやぶさ2」の最大の目標は、小惑星の地下に眠る砂を持ち帰ることだ。地下の砂は宇宙を飛び交う放射線や熱にさらされておらず、太陽系が生まれた約46億年前の姿を保っているとされる。名古屋大教授の渡辺誠一郎は「内部を調べれば、地球がどうやって生命を育む環境になったのか、ヒントが得られる」と語る。
そのため、「はやぶさ2」は2019年4月5日、史上初となる小惑星への人工クレーター作製に挑んだ。火薬が仕込まれた衝突装置を分離。自身は小惑星の反対側に退避してから、重さ2キロの銅の塊を「リュウグウ」へ撃ち込んだ。地表には直径約14.5メートル、深さ1.7メートルの大穴が開いた。大成功。あとは着陸するだけだ。
ところが、宇宙科学研究所長の国中均が思わぬことを告げた。「試料はもう採れている。リスクを冒してまで2度目の着陸をする必要はない。帰還させよう」
国中はイオンエンジンを開発し、傷だらけの初代「はやぶさ」を帰還させた立役者。宇宙探査の厳しさを痛いほど知る所長が、再着陸に反対した。だが、このまま帰還したら、「はやぶさ2」は地表の砂を採っただけの科学的に大きな飛躍と言えない成果で終わってしまう。
絶対に探査機を失わない着陸方法はないか。チームは悪条件が重なったシミュレーションを100万回繰り返した。着陸寸前に高度計が壊れたら? 真下の岩が予想より大きかったら? そして、どんな状況でも探査機を失わないと確信できる手順が組み上がった。
着陸のゴーサインが出たのは6月24日。「はやぶさ2」は7月11日、「リュウグウ」に2度目の着陸を果たした。目標地点からのずれはわずか60センチ。研究総主幹の久保田孝は思わずうなった。「リハーサルじゃないかと思うほど、完璧すぎるぐらい完璧に動いてくれた」
小惑星に2度着陸し、そのうち1度は人工クレーター内部の砂を採取した。史上初をいくつもひっさげ、「はやぶさ2」は19年11月13日、地球に向けて出発した。行きと違い、帰路は1年。トラブルも故障もなく、イオンエンジンが地球までの距離をみるみる近づけた。
だが、順調すぎる帰還の前に、新型コロナウイルスの感染拡大が立ちふさがった。緊急事態が宣言され、海外への渡航は厳しく制限されると、回収班が豪州入りできるめどが立たなくなった。チームは、「はやぶさ2」の軌道を変えて帰還を延期させる案も検討した。
そんななか、後押ししてくれたのはむしろ、豪州側だったという。特例での入国が認められ、最小限の回収班が編成された。回収主任を務める中沢暁は20年11月初め、渡豪直前に意気込みを語った。「感染拡大で回収は難しさを増しているが、確実に持って帰りたい」
「はやぶさ2」は地球にカプセルを送り届けた後、新たに地球と火星の間を回る小惑星「1998KY26」を目指す。到着は2031年夏の見通しという。9月15日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発表した。
この小惑星は大きさが約30メートル。小惑星「リュウグウ」のように水や炭素が豊富とみられ、双方を比較する研究も検討されている。到着までには地球の重力を使って軌道を変えたり、別の小惑星の近くを通り過ぎたりもする予定だ。
地球を出て天体を調べ、戻ってきた探査機が、さらに別の天体に向かった例は過去にない。
「はやぶさ2」の旅はここから先、すべて未踏のものとなる。(敬称略)