首都圏に出荷した農産物なのに…海外に転送され高値取引されていた 「それなら」…一念発起した農家ら立ち上がる ターゲットは香港

2025/03/11 20:27
香港で開いた販売会で薩摩川内市産のキンカンをPRする農家=2月16日、香港のYATA百貨店(薩摩川内市提供)
香港で開いた販売会で薩摩川内市産のキンカンをPRする農家=2月16日、香港のYATA百貨店(薩摩川内市提供)
 鹿児島県薩摩川内市産のハウスキンカンの輸出が好調だ。高級感が売りの海外専用銘柄「きんかんぼうや」の出荷量は年々増加し、2024年度は過去最多の9770キロ、売上高1342万円となった。市とJA北さつま(本所・さつま町)が連携し、現地で生食をPRする販売会を開くなど地道な取り組みでファンを増やしている。

 きんかんぼうやの輸出は11年度に市とJAが始めた。現在は輸出志向の8農家でつくる「オーバーシーズグループ(OSG)」が栽培する。

 市によると、海外に目を向けたのは、新規参入などで規模拡大を目指す農家が増えたのがきっかけ。国内の単価が大幅に落ち込んだことも背景にあった。

 市畜産営農課の三島大介専門員(48)は当時、可能性を探ろうと台湾での取引状況調査に参加。首都圏に出荷した同市産が転送され、高値で取引されている実態を知った。市とJAは貿易会社と協議する一方、地元農家に説明してOSGを立ち上げた。ターゲットを日本産が出回っていなかった香港に定め、現地でなじみのない生食用として売り出した。

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 きんかんぼうやの特徴は、独自の基準を設けて国内向けと差別化を図っていることだ。糖度は16度以上と高く、2L、3Lの大玉を海外専用のパックや化粧箱で販売する。栽培過程で甑島の海洋深層水を散布し、同市ならではのストーリー性を持たせる。

 市とJA、農家がしっかり連携しているのも特徴。市は各農家が事前に提出する出荷計画表を基に、貿易会社と数量や価格を交渉。JAは出荷のほか、資材発注や代金精算を担う。

 春節前後には毎年、現地で農家自らがPRする販売会を開く。今年は3人が15、16日に大型量販店3店で実施した。

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 順調に業績を伸ばす一方で課題もある。同市の取り組みを見て、宮崎や佐賀など周辺の産地が相次いで輸出に乗り出した。さらに首都圏に出された薩摩川内産の品が転送され、同じ産地同士の競合も起きつつある。

 安定した数量確保のため、OSGの増員も急務だ。輸出分は国内分と規格などが異なるため手間がかかり、対応できる生産者は限られる。全国的な出荷量の減少に伴い、国内市場の方が高値となるケースも出ている。そんな状況でも取引先と約束した輸出量を守るには、会員の理解が欠かせない。

 来年は輸出から15周年の節目を迎える。今後を見据えて「きんかんぼうや」の商号とイラストの特許を香港で出願中。三島さんは「同市産の評価が高いのは、農家の皆さんが現地に足を運んでPRしてきた成果。15周年を機にさらに出荷量を増やしていきたい」と話した。

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