マツダは、クロスオーバーSUVの「CX-60」の商品改良を実施。足回りに手が入れられたほか、新たなグレードが追加された。今回は、改良モデルの試乗会が開催されたので、変更点を中心にレポートしたい。
今回は、2025年2月21日に商品改良モデルが発売されたマツダのクロスオーバーSUV「CX-60」に試乗した
「CX-60」は、マツダの新世代ラージ商品群の第一弾として、スポーティーな走りを目指した2列シートのミッドサイズSUVである。エンジンは縦置きで、後輪駆動ベースのプラットフォームを採用し、トランスミッションにはトルクコンバーターレスの8速ATを搭載。エンジンは、直列4気筒ガソリンとPHEV、直列6気筒ディーゼル、マイルドハイブリッドの3種類がラインアップされている。
2022年に発売された「CX-60」は、新たな技術群を一気に投入したこともあり、特に乗り心地においてはまだまだ熟成が足りないという結果であった。
マツダは当初、新東名のような路面状態のよい直線道路を速いスピードで走ることを想定していたようだが、そのためか荒れた一般道や踏切を越える際には硬く、しなやかさに欠ける印象であった。
マツダはその点に気づき、2024年にはリアのショックアブソーバーの減衰力を変更するなどの対応を実施したが、トータルバランスとしてはまだまだの仕上がりであった。
そこで、今回は乗り心地を中心とした大幅な改良が施されたのである。
今回の商品改良では、「XD-HYBRID Trekker(トレッカー)」と呼ばれる新たな特別仕様車と、「SP」と呼ばれる新グレードが追加された。「XD-HYBRID Trekker」は、「XD-HYBRID Exclusive Sports」をベースにジルコンサンドメタリックのボディカラーを纏わせ、パノラマサンルーフを標準化。ラゲッジルームにはパーティションネットを設定し、荷物の移動を防げるようになっている。
アクティブなライフスタイルにさまざまな彩りを加えるアイテムが装着されている特別仕様車「XD-HYBRID Trekker」
さらに、「XD-HYBRID Trekker」は燃費性能を向上させているのも大きな特徴のひとつだ。具体的には、エンジン始動をシーンによってはセルモーターを利用するようにした。通常のマイルドハイブリッド車は、搭載されているP2モーターでエンジンを始動させているのだが、「XD-HYBRID Trekker」はセルモーターを利用することで、P2モーターのトルクを走行に活用できるようになる。これによって、燃費が向上しているのだ。
柴田浩平開発責任者は、「高価格SUVで燃費をアップさせるというのはめずらしいと思うでしょうが、どんどん乗って楽しんでほしいという思いがあります。スポーティーで高級なSUVというだけでなく、燃費のよさもアピールしたいのです」と語る。
もうひとつは、「SP」と呼ばれる新グレードなのだが、こちらについては実際に試乗したので後述したい。
今回試乗したのは、ディーゼルハイブリッド四駆(XD-HYBRID Premium Modern)、ディーゼル四駆(XD SP)、ディーゼル二駆(XD L Package)の3グレードだ。
まずは、ディーゼルハイブリッド四駆に乗り込んで走り出してみると、乗り心地が大きく改善されていることに気づいた。以前は、サスペンションが突っ張る方向の動きだったものが、縮むときはしっかりと縮んで、伸びるときはしっかりと伸びるようになった。つまり、高いボディ剛性を生かしてサスペンションが素直に動くようになっている。大きなうねりを乗り越えても、体が揺さぶられることが少なくなり、フワッと乗り越えられるようになったのは好ましい。
ディーゼルハイブリッド四駆の「XD-HYBRID Premium Modern」は、商品改良によって乗り心地が大きく改善されていると感じられた
しかし、それはあくまでも改良前と比較してのことであり、やはりまだ少々硬いのは否めない。たとえば、段差などを乗り越えるとその硬さがしっかりと体に伝わってくるので、さらにしなやかさがほしいと感じられた。
さらに気づいたのが、ダイレクトなフィーリングが特徴的なトランスミッションだ。以前は、加速時などにしっかりとギヤの変速が伝わってくるいっぽう、渋滞時などでゆっくりと走らせているときには、ショックや音が少し感じられることがあった。しかし、今回の改良では強い加速が必要なときにアクセルペダルを踏み込めばロスなくトルクがタイヤに伝わっていく印象は変わらないまま、きれいにショックが消え去り、微速で走らせていてもギクシャクした動きは見られない。非常に高い完成度に仕上げられていると感じた。
「XD-HYBRID Premium Modern」は、トランスミッションのフィーリングも良好だ
そのほか、エンジンとのマッチングも見直されており、ざらついた印象なく高回転域まで気持ちよく使えるようになったほか、静粛性も向上しているようで、ロードノイズやエンジンノイズがかなり抑えられている印象であった。
次に、ディーゼル四駆の新グレード「SP」に乗り換えてみよう。「素のディーゼルのよさを、新しいプラットフォームで味わってほしいグレード」と説明するのは、開発責任者の柴田浩平さん。
これまで、マイルドハイブリッドは上位グレードとして位置づけられている印象であったが、「SP」は新プラットフォームと6気筒ディーゼルエンジンを純粋に味わえる新グレードとして設定されている。
新グレード「SP」のフロントグリルはピアノブラックのハニカム形状で、シグネチャーウイングはブラッククローム仕上げ。さらに20インチアルミホイールが装着されているなど、「CX-60」らしいスポーティーな装いとなっている
走り出してみると、前述のハイブリッドよりも、硬さと突き上げ感が気になった。改良前よりははるかに改善されているのだが、マイルドハイブリッドの進化が大きかったため、より気になってしまった。また、ボディの動きも、こちらのほうが明らかに大きかった。
ディーゼル四駆の「SP」は、改善は感じられたものの、それでもまだ硬さが残る乗り心地だ
最後にディーゼル二駆に乗ったが、これまで試乗した2台と比較して、明らかに軽快でスポーティーな印象を受けた。アクセルペダルを踏み込んだ瞬間にグッとトルクが溢れる感覚で、ダイレクトな走りが楽しめる。ハンドリングもシャープできびきびとしており、後輪駆動ならではの後ろから押される感覚も味わえる。
ただし、足回りが最も固いのもディーゼル二駆だ。ボディの揺れも大きく、上下だけでなく直線路においても若干、左右方向の揺れが気になるほどだった。
ディーゼル二駆の「XD L Package」は、走りは軽快そのものだが乗り心地の硬さが最も感じられたグレードだ
乗り心地を考察すると、どうやら重量差が影響しているようだ。マイルドハイブリッドディーゼル四駆が1,950kg、ディーゼル四駆が1,870kg、ディーゼル二駆が1,820kgと、徐々に軽くなっている。セッティングは重量や装備、そして車高を合わせるためなどでそれぞれ変えているとのことだが、マイルドハイブリッドディーゼル四駆が最もうまく調整されていると感じられた。
今回の試乗を通じて、「CX-60」におけるマツダの取り組みは非常によい方向に進んでいることが確認できた。ATはほぼ完成域に達しており、乗り心地も以前よりも改善されている。しかし、これまで述べたとおり、まだ硬い印象は残る。
マツダは新しい車を出す際に、足回りが硬い状態から年次改良を経て、しなやかさを増していく。「CX-60」も同様で、さらなる熟成が進めば、よりしなやかな乗り心地が実現するだろうし、今回の伸びしろはそれを確信できる仕上がりであった。新型「CX-60」は、素材のよさが料理人の手によって交わり始め、ハーモニーを奏で始めた段階と言ってよいだろう。これから、じっくりと煮込んでそれぞれの素材を引き立てながら、さらなる味わい深さを期待したい。