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河神

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
サラスヴァティー川の神、サラスヴァティー弁財天としても知られる。

河神(かしん)は、河川河の神(かわのかみ)、川の神などともいう。ガンジス川の神ガンガー黄河の神河伯ナイル川の神ハピネイロスなど、世界各地の信仰に登場する。

概観

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は人間にとって、水源航路として恩恵をもたらすと同時に、洪水水難事故など災害をもたらす存在でもある。川にまつわる信仰は、人間がいかに自然と共存してきたかを反映している[1]

川の神は、川の神格化(例: ガンガー[2]の場合もあれば、川の支配者(例: 河伯[3]などの場合もある。女神の場合もあれば、男神の場合もある[4]ドラゴンとされる場合も多い[1][4][5]海神泉神など、他の水の神英語版と結びついている場合も多い。

類例に、川の妖精や精霊ニンフローレライ)、川の擬人化利根川の坂東太郎[4]母なる川英語版[4])がある。

ギリシア

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ギリシア神話では、各地の川が神格化された。その多くは海神オケアノスの息子とされる[4][6]

エジプト

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ハピ

エジプト神話では、ナイル川自体が神格化されることは無かったが[2]、ナイル川と関わる神は多くいる。例として、ハピ讃歌にうたわれるハピのほか[2]アヌケトオシリス[7]クヌムサテトセベクソプデトがいる。

ギリシア神話では、ナイル川の神はネイロスとされる。

インド

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インドでは、多くの川が聖河英語版として神聖視されている[2]。なかでも、ガンジス川(ガンガー川)、その支流ヤムナー川、幻のサラスヴァティー川は三大聖河とされ、それぞれ女神として神格化されている[2]ガンガーヤムナー英語版サラスヴァティー)。特にガンジス川は、ヴァラナシィ(ベナレス)などヒンドゥー教聖地があることで知られる[8]ガンジス崇拝)。

中国

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河伯

中国神話天地開闢では、盤古が川になったとされる。

黄河の大洪水を治めた名君禹王は、後世では治水の神とされる[9]共工は、その大洪水を起こした悪神とされるが、本来は水の神だったとする説もある[10]。関連する神に(禹王の父)や相柳(共工の臣下)がいる[11]

河伯黄河の神、洛伯[3]洛嬪(洛神、宓妃[6]とも)は洛水の神とされる。黄河と洛水には河図洛書の伝説もある。

その他、湘水の神湘君と湘夫人中国語版[6]、治水の神二郎神などがいる[12]

日本

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和語の「カワ」は、古くは「川」だけでなく「湧水」や「井戸」も意味した[13][14]水神は川に祀られる場合もあったが、湧水や井戸に祀られる方が多かった[13][15]。水神は水分神と重なり[16]、竜や蛇[17][5]田の神[15]と結びつけられる場合も多い。

妖怪河童は、一説には「落ちぶれた水神」が起源とされる[1][18][19]。河童を神として祀る地域もある[18]水虎様)。

記紀神話では、ミツハノメノカミ[20]ミツチ[20]クラミツハノカミ[21]ヒカワヒメ[22]などが川と関連がある。スサノオに退治されたヤマタノオロチは、一説には出雲暴れ川である斐伊川簸川)を象徴しているとされる[23]

弁財天は、インドのサラスヴァティーが変遷した神であり、日本各地の川や水辺に祀られている[24]

禹王は日本でも治水神として信仰されている[9]。日本各地の川辺に禹王遺跡(禹王の跡や石碑)がある[9]

アイヌの伝承では、川(アイヌ語: ペッ、ナイ)自体がカムイであり、またミントゥチカムイなどが暮らす場でもある[25]サケ漁の時期には、川で儀式(アシリチェップノミ)が行われる[25]

以上のほか、九頭竜川九頭竜伝承[4]越前和紙川上御前[4]金刀比羅宮金毘羅神[1][13]信玄堤三社神社[1]木曽川治水神社[1]貴船川の貴船神社[4][26]廣瀬大社[4]香取神宮[27]思古淵神[4]氷川信仰大杉信仰[28]三頭獅子舞[28]、『万葉集』1巻38の柿本人麻呂の歌[29]などが川と関連がある

川の神にまつわる習俗として、堤防人柱[4]、川で立ち小便することのタブー[4][30][31]、川の難所を航行するときに御神酒などを捧げる安全祈願[1][31]がある。

宮崎駿監督のアニメ映画千と千尋の神隠し』(2001年)には、川の神が主要キャラクターとして登場する[32]。日本の研究者の間では、宮崎駿の描く神々は、日本に古くからあるアニミズムを反映しているとされる[32]

ヨーロッパ

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セクアナ

セーヌ川の語源であるセクアナは、ケルト神話の癒しの女神である[33]ガロ・ローマ時代にはセーヌ川の源流英語版に神殿があった[33]

その他、ドナウ川の神ダヌビウス英語版(ダーヌビウス)[34] ライン川の神レヌス英語版(レーヌス[35])などがいる。ライン川は「ローレライ伝説」「ジークフリート竜退治」の舞台でもある[36][37]

その他

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メソポタミア神話エンキペルシア神話アナーヒター[6]朝鮮神話河伯アフリカ南部ニャミニャミ[38]などがいる。

脚注

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  1. ^ a b c d e f g 土木学会関西支部 1998, p. 325-329.
  2. ^ a b c d e 宮崎 2011, p. 87.
  3. ^ a b 吉川 2011, p. 151.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l 芳賀徹渡辺利雄ほか. “第十回歴史・風土に根ざした郷土の川懇談会 -日本文学に見る河川-”. www.mlit.go.jp. 国土交通省. 2024年9月18日閲覧。
  5. ^ a b 「ヘビ,ミサキ,スイジン,ヌシ,ハクジャ」国際日本文化研究センター | 怪異・妖怪伝承データベース”. www.nichibun.ac.jp. 2024年10月3日閲覧。
  6. ^ a b c d 平凡社 改訂新版 世界大百科事典『』 - コトバンク
  7. ^ オシリス』 - コトバンク
  8. ^ 宮崎 2011.
  9. ^ a b c 大脇;植村 編 2013.
  10. ^ 蜂屋 2013, p. 13.
  11. ^ 蜂屋 2013, p. 14f.
  12. ^ 愛甲直宏「中国の水神について 二郎神の成立」『奈良大学大学院研究年報』第9号、奈良大学大学院、2004年。 NAID 120003462739https://nara-u.repo.nii.ac.jp/records/2003293 
  13. ^ a b c 神崎 2009, p. 97.
  14. ^ 鈴木 2003, p. 80.
  15. ^ a b 水や川の神様といわれる水神様について”. www.cgr.mlit.go.jp. 国土交通省 中国地方整備局 太田川河川事務所. 2024年10月3日閲覧。
  16. ^ 佐藤 2001, p. 96.
  17. ^ 佐藤 2001, p. 91.
  18. ^ a b 神崎 2009, p. 101f.
  19. ^ 飯倉義之. “異界との境目「水辺」に現れる妖怪│53号 ぼくらには妖怪が必要だ:機関誌『水の文化』│ミツカン 水の文化センター”. www.mizu.gr.jp. 2024年10月3日閲覧。
  20. ^ a b 弥都波能売神 – 國學院大學 古典文化学事業”. kojiki.kokugakuin.ac.jp. 2024年10月3日閲覧。
  21. ^ 闇御津羽神 – 國學院大學 古典文化学事業”. kojiki.kokugakuin.ac.jp. 2024年10月3日閲覧。
  22. ^ 日河比売 – 國學院大學 古典文化学事業”. kojiki.kokugakuin.ac.jp. 2024年10月3日閲覧。
  23. ^ 瀧音能之・内田律雄・藤岡大拙. “出雲学通信第8号 第5回出雲学フォーラム「対決!オロチは鉄か、斐伊川か」”. NPO法人出雲学研究所. 2024年10月5日閲覧。
  24. ^ 弁財天”. さがの歴史・文化お宝帳. 佐賀市 地域振興部 文化財課. 2024年10月4日閲覧。
  25. ^ a b 「カムイ」としての川”. 北海道開発局. 2024年10月4日閲覧。
  26. ^ 佐藤 2001, p. 92.
  27. ^ 川島 1993, p. 23.
  28. ^ a b 飯塚 1993, p. 258f.
  29. ^ [ID:31923] かわのかみ : 資料情報 | 研究資料・収蔵品データベース | 國學院大學デジタル・ミュージアム”. 國學院大學デジタル・ミュージアム - 研究資料・収蔵品データベース. 2024年10月19日閲覧。
  30. ^ 「スイジンサマ、ガラッパ」国際日本文化研究センター | 怪異・妖怪伝承データベース”. www.nichibun.ac.jp. 2024年10月3日閲覧。
  31. ^ a b 奈良好き24年の私が新たに恋した下北山村 〜歴史紀行 水編〜”. 下北山村の暮らしと関わりを届ける きなりと. 下北山村役場 地域振興課 (2022年1月27日). 2024年10月4日閲覧。
  32. ^ a b 田中美保子「宮崎駿『千と千尋の神隠し』のアメリカにおける受容 : 日本の神々・妖怪たち」『東京女子大学比較文化研究所紀要』第79号、東京女子大学比較文化研究所、2018年。 NAID 40021475561https://twcu.repo.nii.ac.jp/records/26493 52頁。
  33. ^ a b 「セーヌ川」の由来 ガロ・ローマ時代に舞い降りた女神セクアナ”. natgeo.nikkeibp.co.jp. 2024年10月3日閲覧。
  34. ^ ヨナ・レンダリング. “Danubius (Danube) - Livius”. www.livius.org. 2024年10月3日閲覧。
  35. ^ 小塩 1991, p. 55.
  36. ^ 小塩 1991, p. 57-59.
  37. ^ 寶 2009, p. 105.
  38. ^ GNV管理者 (2018年7月21日). “世界最大級のカリバダム その歴史的背景に…”. GNV. ヴァージル・ホーキンス. 2024年10月3日閲覧。

参考文献

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関連項目

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