仲卸は、前述の通り料理店などの注文を受け、市場でマグロの身質や相場を見極めながら競り落としていく。1番にこだわり高値のマグロを競り落とせば、その額を回収するのは容易ではない。豊洲で毎日、マグロと向き合って仕事をしている山口社長にしてみれば、極上のマグロを奪い合って超高値で仕入れてしまえば「消費者か(寿司店などの)客か、自分が損をすることになる」というわけだ。
一見、初競り1番のマグロには関心がないといった表情を見せながらも、山口社長は「年明けはお客さんからも注文がたくさん入るし、初荷というのは大事なもの。昔から縁起物として重宝された。松葉ガニだってメロンだって高値が付くように、明るいニュースにもなるしね」と、寿司店などのオファーがあれば、いつでも1番を確保する姿勢をのぞかせていた。
ただ、1億超えという金額に関しては慎重だ。「初荷といえども妥当なのは1本2000万~3000万円くらいかな」と山口社長。商売上、採算面での心配があるのは当然だが「加熱し過ぎれば漁師の事故につながる。命に係わるだけに、逆効果になってしまうから」と、一獲千金の夢を漁業者に与える危険性を指摘する。
初競りの高値は大間をはじめ、マグロ漁師にとっては大金をつかむチャンスとなる。初競り1番のマグロを釣り上げようと、漁師たちが荒れた海で危険を顧みず、大物上マグロをものにしようという競争意識が高まれば、「板子一枚下は地獄」という身の危険を忘れてしまうのではないかと山口社長は危惧する。