それ以前、10年以上前の2008年から11年までの初競りは、やま幸・山口社長の独壇場だった。「億」には遠く及ばなかったが、11年には1匹3249万円、それも大間ではなく「北海道・戸井産」のマグロを1番高い値で競り落としたことで、大間だけでない国産上物「戸井ブランド」を初めて世に知らしめた。
陽気なキャラクターと旺盛なサービス精神で、すしざんまい・木村社長のイメージが強い豊洲・初競りだが、火付け役となったのは山口社長だったと言っても過言ではない。特にすしざんまいが億超えのマグロを落札するのも、その直前まで張り合った相手がいたからだ。取材を進めるうち、初競りの1番マグロを巡る、山口社長や競りに出る同社課長の複雑で熱い思いを知ることになった。
初競り1番マグロ、仲卸の限界
すしざんまいとやま幸が異なるのは、市場外の業者と市場内業者という点。すしざんまいが全国で57店(2021年8月時点)のすし店を展開するのに対し、やま幸は市場内の仲卸業者。つまり豊洲の大卸からマグロを競り落とした後は、すし店などの料理店や鮮魚店などに魚を卸す中間業者である。初競りで億単位のマグロをゲットしても、最終消費は別業者だから、他社に相応の負担を求めなければならない。
それだけに山口社長は、初競りを間近に控えた昨年末、「数千万を超えるマグロを買うには(すし店など)お客さんからオファーがなければならないから、初競り1番マグロに私自身はまったく興味がない」とクールな表情で話した。
初競りでは近年、大間産をはじめ多くの国産天然「上マグロ」が豊洲で上場されている。そのため「2番、3番のマグロも(1番と)そう大きな差がないのに、何千万を超えるマグロをわざわざ買う意味はない」(山口社長)と付け加えた。