中国の1月末前後に、山西省や広東省などの銀行が定期預金の金利を調整し、短期金利が長期金利の水準を上回る状態「逆イールド(長短金利の逆転現象)」が発生しました。これにより、銀行の資金不足に対する懸念が広がっています。専門家は、この金利の逆イールドが地方銀行の資金流動性の不足を反映していると指摘しています。
多くの銀行で定期預金に「逆イールド」が発生
中国最大の経済情報メディア「第一財経」の統計によると、懐仁農商銀行、朔州農商銀行、みずほ銀行など複数の中小銀行が最近、新規定期預金金利を発表しました。その中で、1年・2年の定期預金金利が同水準、または逆イールド現象が見られました。
1月22日から、朔州農商銀行は一部の定期預金金利を調整し、1年物の金利が2年物を上回り、3年物の金利が5年物を上回るという金利の逆転が発生しました。
また、2月1日には、広東南澳農商銀行が定期預金の金利を調整し、1年物と2年物の金利が同水準となりました。
「2年預金より1年預金の方が有利」といった見出しが、すぐに微博(ウェイボー)のトレンド入りしました。
「これは経済衰退の兆候だ。アメリカの事例を参考にすると、利率の逆イールドが発生した後、1~2年以内に経済が衰退する確率は80%を超える。今のうちに食料などを備蓄しておかないと、厳しい冬がやってくる」
「銀行の担当者も私的な場では正直に話している。『来年も経済がこのまま低迷し続けたら、1.75%の金利すら提供できなくなる』と」
「お金をどこに置くべきか?銀行に預ければ価値が目減りするかもしれないし、金融商品を買えば破綻のリスクがある。かといって、布団の下に隠してもインフレで価値が下がる恐れがある」
金利の逆イールドは地方銀行の資金不足を反映
ラジオ・フリー・アジアの報道によると、台湾の中華経済研究院の王国臣研究員は、今回の現象について「一般的に、金利の逆転現象は国債市場で見られるものだが、定期預金の金利が逆転するのは極めて珍しい。これは、中国の一部の地方銀行が短期資金の確保を急いでいることと関係がある可能性が高い」と分析しています。
王国臣氏は「定期預金金利の逆イールドは中国特有の現象だ」と指摘し、その理由について次のように説明しています。「なぜか?それは銀行が長期の定期預金を集めたくないからだ。長期の預金を受け入れると、支払う利息の負担が増えてしまうためである。一方で、銀行には大量の流動資金が必要であり、手元に現金がなければ取り付け騒ぎが起こる可能性がある。そのため、銀行は短期の預金を多く集めようとしている」
王氏はまた、次のように分析しています。「中国当局が昨年、地方政府の隠れ債務問題を解決するための措置を講じたことで、地方銀行の一部の負担が軽減された。しかし、金利の逆イールドを利用して資金を集めている銀行が山西省や広東省に集中している。これらの地域では、過去に不動産企業の経営破綻や銀行の取り付け騒ぎが発生している。こうした銀行の動きは、不動産関連の債務問題と関係していると考えられる。金利の逆イールドは、間違いなく中央政府の意向によるものだ。銀行が自力で生き残ろうとしているのがはっきりと分かる。しかし、その一方で、中央政府が次々と新たな課題を銀行に課している。例えば、不動産市場の救済が求められているほか、2020年から続く新型コロナ対策の融資についても、いまだに国民に返済を求めていない。また、今後は地方債の借り換え資金も必要になる。これらすべての負担が地方銀行に押し付けられているのだ。彼ら(銀行)の資金が足りなくなるのは当然であり、流動性が逼迫すれば取り付け騒ぎも起こる。結果として、銀行は業績と中央からの指示の間で揺れ動いている」
米サウスカロライナ大学エイキン商学院の謝田教授は、地方銀行が金利の逆イールドという手法を取る背景には、単なる資金不足だけでなく、中国経済全体の低迷に伴うさまざまな問題を浮き彫りにしていると指摘しています。
謝田氏は「まず、中国経済は現在、明らかに衰退している。このような状況では、企業の収益が悪化し、倒産が相次ぐことで、銀行の不良債権が増加し、資金繰りに問題が生じる。もしこうした動きが大規模に広がれば、不良債権や貸し倒れがさらに増加し、業界全体が危機に陥る可能性がある。その場合、事態は極めて深刻になる」と述べています。
上海金融・発展実験室主任の曾剛氏は、今回の逆イールドについて「業界全体の一般的な現象ではなく、特定の銀行がそれぞれの負債構造に基づいて採用した短期的な戦略だ。すべての銀行には金利差を管理し、負債コストを抑える必要がある。しかし、各銀行の負債構造は異なり、それに応じて調整の戦略も変わってくる」と指摘しています。
巨大な危機が迫る
個人メディアの文昭氏は、2月14日に自身のYouTubeチャンネル「談古論今」で、中国でひそかに進行している重大な動きについて指摘しました。それは、多くの小規模銀行が大手銀行に吸収合併されているという事実です。
文昭氏は「中国政府がこのような措置を取る目的は、銀行の規模を拡大することで市場の変動を抑え、小規模銀行の不良債権リスクを軽減することにある。しかし、この動きの重要性は過小評価されている」と述べています。
同氏によれば、中国の小規模銀行の総資産規模は約8兆ドル(約1200兆円)に達し、これは米国の銀行業界全体の3分の1に相当します。そのため、金融業界全体のバランスにおいて依然として極めて重要な要素となっています。
「深刻な話をすれば、これは間違いなく迫り来る巨大な危機だ」と文昭氏は警鐘を鳴らしています。
ロイター通信が中国の公式データを分析した結果、中国は2024年に史上最大の農村銀行合併の波を経験したことが明らかになりました。
アナリストらは、この動きについて「中国当局が小規模銀行のリスクに対応しようとする試みは、将来的にさらなる問題を引き起こす可能性がある」と指摘しています。
中国には約4000の小規模銀行があり、その多くは債務を抱えた省級政府の支援を受けており、主に短期のマネーマーケットや銀行間融資に依存して資金を調達しています。こうした銀行の一部が破綻すれば、金融の安定が脅かされる可能性があります。
ロイターが過去12カ月間の規制当局の資料や企業の報告書を分析した結果、中国では2024年に少なくとも290の農村銀行がより大規模な金融機関に統合されたことが判明しました。この合併の規模はこれまで報道されておらず、中国の金融業界が抱える問題の深刻さを浮き彫りにしています。
公式データによると、昨年の第3四半期における農村商業銀行の不良債権比率は3.04%に達しており、これは中国全体の銀行業界の不良債権比率1.56%のほぼ2倍に相当します。
元ブリッジウォーター・アソシエイツ(Bridgewater)およびUBSアジアのアナリストであるジェイソン・ベッドフォード氏は、小規模銀行の合併について「破綻した機関を統合することで、結果的に『より大きな問題を抱えた銀行』を生み出しているに過ぎない」と指摘しています。
また、中国を専門とする調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの副ディレクターであるクリストファー・ベドー氏も、「この戦略では不良資産などの根本的な問題を解決することはできず、多くの課題が今後も残り続ける」と述べています。
(翻訳・藍彧)