最近、中国の主要都市で家賃の大幅な下落が続いています。北京、上海、深圳の家賃は2015年〜2017年の水準にまで下落し、広州は2014年の水準になっています。中国政府は数々の救済措置を打ち出してきましたが、市場の反応は薄く、不動産市場の先行きに対する悲観的な見方が広がっています。
最近、中国の経済メディア『智谷トレンド』が発表した報告によると、2024年の中国の主要都市の家賃は数年前の水準にまで下落しました。北京・上海・深圳の家賃は2015年〜2017年の水準に、広州は2014年、成都は2018年、天津に至っては2010年の水準にまで後退したとのことです。
今年1月、中国の40の都市における家賃の平均値は前年同月比で1.2%下落しました。また、賃貸物件の募集情報掲載期間は平均して51.9日となり、前月より6.9日も延びました。これは、家賃を引き下げて入居者を増やそうとする手法が、もはや効果を発揮していないことを示しています。
中国のシンクタンク「中国指数研究院」によると、2024年1月から11月の間に、中国の主要50都市の賃料水準は累計で2.72%下落しました。家賃の下落は、借りる側の若者にとってはプラスに見えますが、調査では60%の賃貸利用者が、さらに安い物件へ引っ越す意向を示しているとのことです。
なぜ中国の家賃は下がり続けるのか?
「智谷トレンド」の報告書では、家賃の下落には主に二つの要因があると分析されています。一つ目は、政府が推進する低価格賃貸住宅の大量供給による影響です。市場の需要が分散されたことで、家賃相場が下落しました。二つ目は、居住者の所得の伸び悩みです。2024年には、北京や江蘇省などの5つの都市と省で収入がマイナス成長となりました。
中国の週刊誌「三聯生活週刊」は、若者の就職難が賃貸需要低下の主な要因の一つだと指摘しています。2024年8月、中国の16〜24歳の若者の失業率は19%近くに達し、多くの若者が実家に戻ることを余儀なくされました。また、一人暮らしを維持するためのコストを抑えるためにルームシェアを選択する人も増えています。
さらに、不動産市場全体の低迷も家賃の下落に影響しています。多くの物件オーナーは低価格での売却を拒み、やむを得ず物件を賃貸に回しているため、供給が増えています。
アメリカのシンクタンク「情報戦略研究所」の経済学者、李恒青(り・こうせい)氏は、中国の不動産市場の「賃貸収益比率」は他国と比べても異常に高く、「多くの大都市では、投下資本を回収するために50年以上家賃収入を得なければならない」状況だと述べました。
さらに、「収入が減少し、就職機会が減ると、人々は都市に長く住まず、短期間の賃貸で済ませようとする。そのため、家賃水準は経済の状況を映す指標の一つだ」と指摘しました。さらに、中国の主要都市では就職が難しく、生活コストも上昇し続けているため、多くの若者が地元に戻って仕事を探すようになったことも、家賃を押し下げる要因の一つとなっています。
今年は更なる下落か
ロイター通信の調査によると、市場では中国政府の市場救済策が来年には効果が現れてくるとの期待があるものの、不動産市場の先行きについては依然として悲観的な見方が支配的となっています。
調査では10名のアナリストに意見を求めたところ、「住宅在庫の過剰」、「需要の低迷」、そして「人口の長期的な減少」が重なり、不動産市場の回復には長い時間を要するとの結論に至りました。2024年には地方政府がディベロッパーの住宅在庫を買い取るなどの対策を講じましたが、顕著な効果はありませんでした。
アナリストの予測では、2025年の中国の住宅価格は2.5%下落するとされており、前回の調査で出された2.0%の下落幅を上回るものとなっています。2026年には1.2%の上昇が見込まれていますが、これは2024年11月時点の予測である1.6%の上昇よりも低い値となっています。そして、2027年までに価格が2.0%上昇すると予想されています。
香港中文大学未来都市研究所の副主席・許楨(きょ・てい)氏は、土地経済の観点から、住宅価格と家賃の関係は必ずしも密接ではないと考えています。
許楨氏は、「過去のデータを見ると、住宅価格が下落しても、必ずしも家賃相場に大きな影響を与えるわけではない。しかし、家賃が下落すると物件の資産価値が下がり、それが売却時の評価額に影響を及ぼし、最終的に住宅価格のさらなる下落を招く可能性がある」と指摘しました。
許楨氏はまた、中国の大規模都市での家賃の下落は、都市労働者の所得減少を反映していると分析しています。しかし、中国では都市部・農村部を問わず持ち家率が他国に比べて高いため、賃貸市場の変動が経済全体に与える影響は比較的限定的だと述べました。
それよりも深刻な問題は空き家(あきや)です。市場が膨大な「空き家」を吸収できないことにより、住宅価格や家賃のさらなる下落を招く要因となる可能性があるのです。
強まる市場の不信感
中国政府は2024年以降、不動産市場の回復を目指し、さまざまな救済策を打ち出してきました。 さらに、今年の全国人民代表大会(全人代)では、新たな景気刺激策が発表されると見られています。しかし、多くの専門家は、こうした政策の効果について懐疑的な見方を示しています。
許楨氏は、中国政府の不動産市場対策について、「方向性の誤り」が最大の問題だと指摘しています。
「中国の人口構造は大きく変化し、労働力人口の減少が不可逆的なトレンドとなっています。そのため、政府は経済全体の規模を拡大しようとするのではなく、国民の可処分所得の中央値を引き上げるべきです。」
現在、中国の国民の可処分所得の中央値は、経済総量の30〜40%とされています。これは、アメリカやイギリスの水準である60〜70%と比べて大きく下回っています。
「国民の手元にお金がなければ、いくら経済成長率を追求しても、消費は活性化しない」と許楨氏は語ります。
さらに、許楨氏は中国経済がすでに悪循環に陥っており、今後も低迷が続く可能性が高いと分析しています。
「海外投資家は中国の成長モデルに見切りをつけ、資本が流出している。中国経済は出血が続き、もはや正常に機能しなくなるだろう。その影響で賃金の下落が進み、現在すでにデフレの兆候が現れている」と許楨氏は語りました。
ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対し、台湾のシンクタンク「中華経済研究院」の王国臣(おう・こくしん)研究員は、中国政府の救済策がほとんど効果を発揮していないことを指摘しました。
ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に対し、台湾のシンクタンク「中華経済研究院」の王国臣(おう・こくしん)研究員は、「2024年末、中国当局は住宅ローンの金利を引き下げたが、人々の反応は冷ややかで、依然として住宅購入を渋っていた」と語りました。そして、中国経済は長年にわたって空回りしており、人々には住宅を購入する貯蓄がないと指摘しました。
中国の経済学者・司令(し・れい)氏も、中国の不動産市場の指標を見る限り、政府の救済策の効果はほとんど出ていないと指摘しました。そして、「ビジネス界も一般市民も、経済の先行き、特に不動産市場の行く末について全く希望を見出すことができない状況だ」と述べました。
(翻訳・唐木 衛)