本報告では,長期的なデータに基づきケンサキイカ釣り漁業のCPUEと来遊量指数及び種々の環境要因との関係をモデル化することを目的とした。一般化加法モデルを用い,情報量規準(AIC及びBIC)と交差検証によりモデル選択を行った。それらの結果,海洋環境の各指標が水深100 mであるフルモデルが選択された。最良モデルを基に将来予測を行った結果,観測値と予測値との自由度調整済み決定係数は0.63となり,来月時点の島根県沿岸におけるケンサキイカ釣り漁業のCPUEを精度良く予測できる可能性が示唆された。
和歌山県潮岬周辺のキビナゴの生活史を調べた。耳石日輪解析から,ふ化後約1か月で変態(体長21 mm)を終え,約3か月で成熟体長(60 mm)に,5-11か月後に最大体長(90-100 mm)に達し,寿命は1年未満と推測された。4-11月の産卵期のうち前半(4-8月)には前年生まれの大型個体(70-90 mm)が,後半(9-11月)には同年の産卵期前半生まれの小型個体(60-70 mm)が産卵し,8月を境に前年ふ化群から当年ふ化群へと親魚群が入れ代わることがわかった。
眼柄処理による人工催熟を施した養成クルマエビを 20-26℃ の 4 段階で飼育したところ,採卵には水温 24℃ が効率的であった。この時の卵径は水温が低いほど大きい傾向が認められた。脱皮周期を考慮して眼柄処理を施した結果,脱皮後期は産卵率及び産卵までの生残が良好であった。以上の結果から脱皮後期とみられる個体を選別し眼柄処理後,24℃ で活ゴカイと配合飼料の 2 つの給餌区に分けて飼育したところ,配合飼料給餌でも産卵することが明らかになった。また,どちらの給餌でも 10 日目にもっとも多くの個体が産卵した。
赤身魚肉の褐変の原因は,ミオグロビン(Mb)のメト化である。オキシMbにおいて,メト化は遠位ヘムポケット内の水分子が鉄原子と反応することにより進行する。オキシMbと1分子の酸素を含む系の分子動力学シミュレーションを実施したところ,酸素分圧は約1.6 atmとなった。酸素分子の約4割がMbと相互作用し,遠位ヘムポケット内の水分子の数は,約2/3に減少した。1 atmの酸素存在下では,真空包装時よりもオキシMbのメト化速度を3/4程度に遅延させることが示唆された。
主に天然トラフグ肝臓を用い,食品衛生検査指針のフグ毒検査法に記載の抽出法(公定法)とそれを簡素化した抽出法(簡便法)でテトロドトキシン(TTX)を抽出した場合の毒量算定値を比較したところ,両者の間には強い正の相関がみられ,簡便法の算定値は従来法より1-2割高くなることがわかった。抽出比2の算定値は抽出比3以上より有意に低かった。一方,養殖トラフグの無毒肝臓にTTXを添加後,簡便法で抽出して毒量を算定したところ,回収率は82.7-119%となり,食品衛生検査に求められる基準を満たすことが示された。
寿司店で提供されている13-31日間長期熟成したカンパチ,アオリイカ,マカジキおよびシマアジの熟成前後における呈味成分とテクスチャーの変化を検討した。その結果,イノシン酸(IMP)含量,硬さ,水分含量および圧搾ドリップ率が低下し,遊離アミノ酸含量は増加していた。またK値は46.7-76.5%を示し,SDS-PAGEによるタンパク質分解が観察された。本研究結果は,熟成魚介類が鮮度を重視する既存の生食用魚介類の知見とは大きく異なる特徴を有し,新たな水産食品として利用できる可能性を示唆した。
乾のりに含まれる栄養成分および機能性成分を等級で比較した結果,等級が高い方がたんぱく質含量が多く,抗酸化作用が強い結果となった。一方,等級が低い方が水溶性食物繊維粗抽出画分割合が高く,脂肪分解抑制作用も強かった。これらの作用や成分は食事の糖質吸収を穏やかにしたり,体内で血糖降下作用に寄与する。したがって,いずれの等級でも乾のりは糖尿病の予防に役立つ食品であることが示唆された。さらに,等級とたんぱく質含有量が強い相関関係を示したことから,たんぱく質含有量は等級の客観的指標の一つに活用できる。
本研究では,宮崎県の全ての漁業経営体を対象としたアンケート調査を実施して,宮崎県の漁業者が知りたい海況要素とその要因を分析した。その結果,宮崎県の漁業者は,多くが海況情報を必要としており,知りたい海況情報は,多い順番に,水温,流れの方向と速さ,潮目と黒潮の位置,水色,海底地形であった。知りたい海況情報は,漁業種類で異なっており,操業形態,漁獲対象種,操業海域の違いによるものであった。また,漁業者ニーズに対応する上での既往の海況情報の課題をあげた。