ウクライナ戦争をめぐって、暴論とも思える発言を繰り返すトランプ米大統領に対して、同大統領の最大の支持者と思われていた新聞が反旗をひるがえした。

ニューヨークの大衆紙「ニューヨーク・ポスト」電子版は21日(現地時間)、「トランプ大統領:これが独裁者です」という大見出しとロシアのプーチン大統領の写真を並べて一面全紙に掲げた。

米国のマスコミではこうした大見出しを「ザ・ウッズ(木製)」と呼ぶ。新聞の揺らん期、大きい文字は金属製の活字がなく特製の木造のものを使ったことに由来する業界用語だが、今回の見出しも木製ではないとしても、読者の目を奪うのに十分大きかった。

ウクライナ戦争「訂正すべき10の真実」

記事は同紙コラムニストのダグラス・マリー氏で、トランプ大統領がウクライナでの流血を終わらせようとするのは全く正しいとしながらも、その過程で少なくとも10の訂正すべき真実が見えてきたとする。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領を「選挙のない独裁者」と批判
ウクライナ・ゼレンスキー大統領を「選挙のない独裁者」と批判
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その10の真実とは次の通りだ。

①ウクライナ戦争を始めたのはプーチンである。大統領はゼレンスキーが始めたと言ったが違う。

②ウクライナは主権国家であり、ロシアは領土征服のために戦っている。

③ウクライナ人は、ロシアに併合されないよう独立のために戦っている。

④ウクライナ人は民族的にもロシア人ではない。

⑤プーチンこそ独裁者だ。1999年に権力を掌握して以来マスコミを蹂躙し、自由な選挙を終わらせ、社会運動を抑圧し、政治ライバルを殺害してきた。

ウクライナのゼレンスキー大統領
ウクライナのゼレンスキー大統領

⑥ゼレンスキーは独裁者ではない。2019年の大統領選挙で選ばれ、57%の支持率がある。

⑦ロシアは米国の友好国ではない。核武装をした敵対国である。

⑧ウクライナは米国の友好国である。彼らは自由主義国家のためにも戦っている。

⑨プーチンは信用できない。

⑩米国のウクライナへの支援は無駄ではない。この戦いは独裁国家の戦力を減退させ、中国や北朝鮮への警告にもなるからだ。

そして記事はこう締めくくる。

「トランプはこの戦争を終結させ、殺りくに終止符を打つことができるかもしれない。ノーベル平和賞を受賞できるかもしれない。しかし、もしその平和が融和策に過ぎず、明らかな真実を否定しながら悪にひざまずくものであれば、彼は称賛されることはない。(中略)強固な平和がなければ、苦しむのはウクライナだけでなく、私たち全員だ。これが究極の真実である」

“トランプ応援団”メディアに変化

ニューヨーク・ポスト紙の発行部数は、2024年の週間日平均で51万8000部(Statista.com調べ)に上る。タブロイド版の大衆紙で興味本位の記事が売り物だが、妥協しない果断な論評でも知られる。1976年に新聞王と称されるルパード・マードック氏がオーナーになって以来、保守色が強まり共和党を支持し、特にトランプ氏の大統領選挙は積極的に支援して今回のカムバックにも大いに貢献したとされていた。

その“トランプ応援団”の急変に、米国のメディア界も驚いた。

「トランプが大好きな新聞が彼のプーチン観に火をつけた:“彼こそが独裁者だ”と」
(ニュースサイト「デイリービースト」22日)

 「NYポスト紙がトランプのウクライナへの姿勢を『これが独裁者だ』の一面記事で嘲笑」
(マスコミ関係情報サイト「メディエイト」21日)

実は、この変化には予兆があったのだ。同じマードック氏傘下の有力な経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」は、やはり保守派でトランプ支持だったのが、トランプ大統領がカナダとメキシコに25%の輸入関税を課すと発表した時は、その社説で「最も馬鹿げた貿易戦争が始まった」と批判し、最近もインフレ加速の予兆を受けて12日に「トランプ大統領はマネーについて理解しているのだろうか?」という皮肉を込めた社説を掲載していた。

さらに、放送界の“トランプ応援団”とも言われるFOXニュースのキャスターのマーク・レビン氏は19日のラジオ番組で、トランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領を「選挙をしない独裁者」と呼んだことを厳しく批判し、「それなら公正で自由な選挙をしないプーチンを責めるべきだろう。ゼレンスキーに反対するだけでなく、プーチンの肩を持つのは理解できない」と言ったのが注目されている。

これで、米国のトランプ派のメディアがそろってトランプ大統領に批判的になるかはまだ分からないが、大統領の好き勝手な発言をただ追従することにはブレーキがかかるようになりそうだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】 

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。