沖縄県の公立病院で主に感染症診療に従事する内科医の高山義浩さんは、認定NPO法人ロシナンテスの理事として、世界の国・地域で保健医療協力にも取り組んでいます。活動地域のひとつ、ザンビアで最近目立つのが、中国の台頭です。その支援の考え方や取り組みは日本と大きく異なります。日本が今後、アフリカの国々とともに成長を目指すならば、「貧困の連鎖を断ち切ろるための支援」に加え、「貧困から抜け出す投資と交流」が必要ではないか、と指摘します。

ルサカ市内の商業地区の賑わい(上山敦司さん撮影)

旧正月の夜、ザンビアの首都ルサカ市内では、あちこちから爆竹の音が鳴り響きます。ザンビアの人口は約2千万人ですが、中国人のコミュニティーは8万人以上にのぼります。ザンビアだけではありません。アフリカの国々を訪れると、年々、中国の物的・人的プレゼンスを強烈に感じるようになっています。

急激に存在感を増す中国

中国のアフリカへの直接投資は、2019年には491億ドルに達し、アフリカの経済成長の20%以上を支えていると言われます。とくに、道路、鉄道、港湾などのインフラ建設は目覚ましく、たとえば、アフリカの送電網とエネルギーインフラの3分の1は、中国国営企業によって資金提供されています。

保健医療も例外ではなく、病院建設などの支援において実績を重ねています。たとえば、ルサカ郊外には、800床の大学病院が中国の支援により建てられました。広大な敷地に病棟が並び、重厚な正面玄関は少しだけ中華風となっています。

中国のインフラ整備は品質面での進歩もみられており、過去の「粗悪品」という印象を払拭(ふっしょく)しています。ザンビアでは、日本が援助した道路や橋の劣化が激しく、むしろ中国製の道路が評価されています。それは、日本が、地元にお金(途上国開発援助=ODA)が落ちるよう、現地の企業や労働者を使って作ろうとするのに対し、中国は、自国の企業と労働者を動員して作ってしまうからかもしれません。

アフリカへの国際支援において、中国は決して新興勢力ではありません。スエズ危機など1950年代からの歴史を有しており、反帝国主義の立場から、貧しい国同士が支えあう「南南協力」を提唱してきました。

意外と古い国際協力の歴史

1960年代の中国は、対外援助を行う唯一の貧しい国でした。1人あたりGDP(国内総生産)が自国より高い国に対しても、貧困層が苦しんでいるならと支援を積み重ねていました。そして、こうした支援によるつながりをベースにして、近年、国家戦略としての直接投資を急速に発展させているのです。

現在、中国の直接投資がアフリカで増大している背景には、中国が急速に高齢化していることがあります。現在のアフリカ大陸の人口は13億人であり、中国の人口14億人とほぼ同等です。しかし、中国の60歳以上人口は全体の18.7%を占めており、急速に高齢化が進行しています。一方で、アフリカの60歳以上はわずか5.6%に過ぎず、その若くて安い労働力を中国の労働集約型産業が求めているのです。

ルサカ市郊外の露天商(上山敦司さん撮影)

また、アフリカには中流階級が3億5千万人いるとされ、すでに中国の4億人に匹敵しています。この台頭する中間層により、アフリカは急速に成長する消費市場となりつつあるのです。数十年前、欧米や日本が中国市場に魅了されていたように、いま中国は、アフリカの果実を取り込むことをもくろんでいるということです。

中国による大規模なインフラ整備や開発プロジェクトのほとんどは、その資金を相手国へのローンで賄ってきました。多くの場合、実利を重視した共栄をもたらそうとしているのですが、この関係性は中国の利益が最優先されるという側面を持ち合わせています。

中国による巨額債務が足かせにも

こうして、中国からの借金によりインフラを整備してきた国々のなかには、巨額の債務に苦しむ国が出てきました。ザンビアはその最たる例で、多額の借金を負いながらインフラ整備を進めてしまった結果、174億9千万ドルにも及ぶ債務を抱えこみ、2020年11月、ついに債務不履行(デフォルト)に陥ったのです。中国が、ザンビアの銅やコバルトなど鉱物資源を目当てにしていることは周知の事実でした。

中国のアフリカへの直接投資は、アフリカの国々に重要な経済発展の機会を提供していますが、こうした投資関係が、その国の債務依存を深め、国の自立性や政策の自由度を損なうリスクを内包しています。そして、中国の経済的な利益だけでなく、政治的な影響力を拡大する手段としても使用されていることも見逃すべきではありません。

中国は、意図的に膨大な貸し付けを途上国に提供し、支払い不能に追い込み、経済的または政治的な譲歩を得ようとしている可能性があります。すなわち「債務のわな」ですが、こうした戦略について、アフリカの一般市民が気づくのは難しく、ゆっくりと水面下で進行しているかのようです。

ルサカ市内の富裕層向けスーパー(上山敦司さん撮影)

ザンビアでタクシーに乗ると、だいたいにおいて「チャイニーズか?」と運転手から聞かれます。「いや、ジャパニーズだよ」と答えると、珍しそうに助手席の私を眺めます。「ほ~ これが日本人か」という顔で……。そこには特段の肯定も、否定もありません。

あるとき、運転手に「どうして、日本人は怠け者ばかりと友達なんだ?」と聞かれたことがありました。

「は? どーゆこと?」

「日本人は貧乏人ばかり相手に仕事してるだろ。田舎の村とか、スラムとか、怠け者ばかりと友達になりたがる」

なるほど、国際支援ばかりでビジネスで入ってこない日本人を揶揄(やゆ)しているのでしょう。運転手は40歳前後といったところ。うっすらと白髪が交じり始めていました。子どもを抱えて、一生懸命働きながら未来を夢見る彼からは、貧しい階層は「怠け者」と映るのかもしれません。

相互に成長を目指す姿勢を

「いや、生活に困窮したり、病気に苦しむ人たちを支えたりすることで、貧困の連鎖を断ち切ろうとしているんだ。その子どもたちが未来に踏み出せるように」

「ふーん。でも、あいつらは怠け者だ。助けても無駄だよ。それより中国人をみろよ。あいつらは働き者と友達になる。そしてお互いハッピーさ。日本人と逆だね」

そう、タクシー運転手の率直な市民感覚は、中国人と日本人のプレゼンスの違いを端的に表していました。

私たちNGOやJICA(国際協力機構)による国際支援だけでは、ザンビア人の夢には近づけません。貧困の連鎖を断ち切ろうとする支援だけでなく、貧困から抜け出すための投資と交流が必要なのです。相互に成長をめざす日本ならではのスタンスで進めていくことができれば、アフリカの国々からの高い信頼を得て、強固な関係を築いてゆけるはずです。

ザンビア農村部での乳児健診。右端は筆者(上山敦司さん撮影)