前回では、保守政治活動会議(CPAC シーパック)で極右リーダーやMAGA(マガ:Make America Great Again 米国を再び偉大にする)運動を支持するトランプ支持者たちと交わした会話を紹介した。今回は、ウクライナ問題に焦点を絞って、ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名等略)とウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領の会談決裂と重ね合わせて、MAGAの声を紹介する。
続いて、その会談の目玉であった鉱物資源の権益協定は、米国にではなく、トランプにいかなる利益をもたらすはずだったのか、そのあたりを探ってみたい。
金の回収
2月24日、ホワイトハウスからペンシルベニア通りを西に数分歩いたところにあるカフェで朝食をとっていると、米CBSニュースのホワイトハウス首席担当記者のナンシー・コーデス氏が店に入ってきた。彼女の帰り際に、コーデスに声をかけた。
「モトオ・ウンノと申します。日本の大学で異文化コミュニケーションを教えています。私はあなたのコメントや質問にいつも注目しています」
こう語りかけると、彼女と一緒にいたCBSのホワイトハウス担当のプロデューサーを紹介してくれた。
「彼女は、日本に留学していたの」
「どちらの大学に留学していたのですか?」
筆者がこのプロディーサーに尋ねた。
「上智大学です。四谷です」
早速、こう返事をした。
「私は明治大学で異文化コミュニケーションを教えています。御茶ノ水です」
「(中央線快速で)お隣の駅ですね」
たったその一言、二言で、心理的距離が縮まったのは確かだが、ワシントンの朝は皆多忙だ。肝心のウクライナ問題について質問をする前に、コーデスは立ち去ってしまった。
ホワイトハウスで、トランプとゼレンスキーの会談が行われる数時間前の2月28日の朝、このカフェで筆者が簡単な朝食をとりながら、米紙ワシントン・ポストを読んでいると、ホワイトハウス担当記者と思われる白人男性が入ってきた。
青色のスーツに星条旗のバッジをつけたこの男性は、かなり急いでいる様子で、マフィンらしきものを口に詰め込んでいた。
彼が食べ終わった瞬間、筆者はすかず声をかけ、いつもの自己紹介を済ませると、早速、ウクライナの鉱物資源の権益について触れた。コーデスにウクライナ問題について質問する機会を失った反省からである。
「ゼレンスキー大統領は今日、ホワイトハウスでウクライナの鉱物資源の権益協定について署名しますよね」
トランプは、米国がこれまでにウクライナに支払った支援額を回収する理由で、同国の鉱物資源の権益に関する協定に署名をさせようと、ゼレンスキーに圧力をかけていた。
この問いかけに、彼は筆者の目を直視しながら、強い口調で、しかも少々乱暴な返事をした。
「ウクライナから金を取り戻すんだ」
こう一言語ると、即座に連れの報道関係者と一緒に店を出て行った。彼はスーツに星条旗のバッジをつけている点もトランプと共通しているが、加害者ロシアの一方的な侵攻による被害者ウクライナから、米国民の税金を回収するという主張もトランプと一致していた。
彼の名は、ブライアン・グレン――2020年に設立された極右の新興メディア「リアル・アメリカズ・ボイス(本当のアメリカの声)」のホワイトハウス担当記者であった。リアル・アメリカズ・ボイスは、「トランプ1.0」で首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏と近い関係にある。
周知の通り、2月28日、トランプとゼレンスキーの会談は激しい口論の末、決裂した。その会談で、何人かのホワイトハウス担当記者が、トランプとゼレンスキーに質問をしたが、そのうちの1人であったグレンは、トランプを援護射撃するかのような、しかも挑発的な質問をゼレンスキーに投げかけた。それが例の「あなたはどうしてスーツを着ないのですか」という質問であった。米国ないし米国民に対して敬意を払っていないと言いたかったのだ。
ホワイトハウスはトランプに批判的な米ABC、CBS、NBCなどのオールドメディアないしレガシーメディアの影響力を削ぐために、トランプ寄りの新興メディアにホワイトハウスでの取材の「許可証」を出し、記者会見に入れている。グレンのような記者は、トランプに有利に働く質問をして、トランプの政策やメッセージを肯定する情報を視聴者に発信するからである。ホワイトハウスは、メディア対策に苦しんだ「トランプ1.0」の経験を生かした戦略をとっているのだ。