今回は、久々に南部メリーランド州で開催された共和党の米保守政治行動会議(CPAC シーパック)の年次大会(2月19日~22日)に出席した。その目的は、ドナルド・トランプ米大統領(以下、初出以外敬称および官職名等略)を支持するMAGA(マガ Make America Great Again:米国を再び偉大にする)運動を支持している有権者(以下、MAGAと呼ぶ)を対象に、トランプ大統領の国内外の政策に関してヒアリング調査を実施することであった。加えて、2016年と2025年のMAGAたちに変化があるか、自分の目で観察することも目的の1つであった。
ただし、CPACの年次大会に参加できるMAGAたちは、筆者がトランプ集会で出会った白人労働者とは違い、中間所得層から富裕層に属する人たちである。というのは、一般参加のチケットでも95ドル(約1万4000円)、中央ステージに近いプレミアムチケットは1万5000ドル(約220万円)、中でもより近いプレミアムプラスチケットは3万ドル(約440万円)の値がつけられていたからである。会場となったホテルは1泊5~6万円であった。
物価高に苦しむ米国の人々にとって、全日程をこのホテルに宿泊するのはかなり厳しいだろう。しかし、富裕層の共和党支持の米国人なら至極妥当だろう。
ちなみに、筆者は一般チケットを購入し、他のホテルに宿泊せざるを得なかった。
そのような訳で、筆者は早朝から列に並ぶ人々に交じって、会話を交わした。その調査結果の一部を人と政策の両面に焦点を当てて紹介する。
MAGAたちの生の声――極右+普通の人々
2021年1月6日、20年米大統領選挙で不正があったと主張するトランプ支持者が、選挙人の確定作業を行っていた米連邦議会議事堂を襲撃した。多数のMAGAたちが、米連邦議会議事堂の外壁を登り、玄関のガラスを破り、侵入して、議会を守ろうとした警察官を襲った。その結果、1人の警察官が死亡し、140人以上の警察官が負傷した。さらに事件後、4人の警察官が自殺した。
MAGAの側でも、当日女性1人が射殺された。この襲撃事件は、日本の視聴者にも生々しく記憶に残っているだろう。
この米連邦議会議事堂襲撃事件に参加した支持者は、「J6er(1月6日の襲撃事件に参加した人)」と呼ばれている。
CPACの年次大会参加者の中にはJ6erがいたが、最も注目されたのは米極右団体「プラウド・ボーイズ」の元リーダー、エンリケ・タリオ元受刑者であった。プラウド・ボーイズは、カナダとニュージーランドの両政府によって、テロ組織に指定されている。
タリオは、米連邦議会議事堂襲撃事件の扇動共謀罪などで禁固刑22年を言い渡され服役していたが、トランプが大統領就任初日にホワイトハウスの執務室で服役していた約1600人のJ6erに恩赦を与える大統領令に署名し、釈放された。それは、トランプの執務室での最初の大統領令であった。
米メディアは、CPACがタリオらをこの大会に参加させるのか注目をしたが、CPACはトランプのJ6erに対する恩赦を支持するという声明を発表した。タリオらの参加を許可したのだ。しかも、CPACは「J6でっちあげ」というセッションまで設けて、J6erを全面的に擁護した。
筆者は2月23日、CPACの年次大会に姿を現したタリオに質問を投げかけた。
「日本から来ましたモトオ・ウンノと申します」
筆者がタリオに自己紹介をすると、彼は「日本から来たのですか」と語り、笑みを浮かべながら、胸のところで両手を合わせる合唱のポーズで軽くお辞儀をした。
「次のステップは何ですか」
筆者が質問をすると、タリオはこう答えた。
「同じです。プラウド・ボーイズがしてきたことをこれからもやっていきます」
タリオは意外と感じが良かった。
プラウド・ボーイズは2016年9月に、カナダの作家で極右評論家のギャヴィン・マキニスによって設立されたネオファシストの白人による極右団体である。ブラック・ライブズ・マター(BLM:黒人の命も大切なんだ)運動の旗を焼くなど、反BLMの運動を展開してきた。
トランプが与えた恩赦は、今後、プラウド・ボーイズや、同じぐらい有名なオース・キーパーズなどが、非白人の“支配”に脅威と懸念を抱く白人をリクルートし、米国の分断を深刻にする活動を再活発化させる可能性を開いた。
何よりも、恩赦は政治暴力を容認するものであり、選挙人の確定という民主主義のプロセスを阻止しようとしたトランプ支持者の行動は、民主主義に対する脅威であることは明らであり、これを容認することは民主主義の後退に直結する。
しかし、CPACの年次大会に参加したトランプ支持者たちは、これとは異なった見方をしていた。登壇したパネリストの1人が、最も印象に残ったトランプの大統領令の一つとして、J6erの恩赦を上げると、会場から拍手が起こったのだ。さらに、「トランプ1.0」で主席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏が、J6erを「愛国者」と称賛すると、今度は「USA!」「USA!」の声が鳴り響いた。