本の学校から  主人公の歩みに勇気

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今井書店 浜崎広江さん

 読書は人の心を成長させると私はいつも思っている。物語の中で主人公たちが体験する様々な出来事は、いつか私たちが現実に体験するかも知れないし、すでに体験し傷ついて、そこから逃れられない状態に陥っているかもしれない。

 そんな時、物語の主人公たちはいかにしてピンチを乗り越えたのか? 彼らの波瀾(はらん)万丈な物語を読むことで、生きてゆくヒントが得られるかもしれない。そして、登場人物たちがいつの間にか心の支えになっているかもしれない。

 高校時代、クラスで浮いていて友達がほとんどいなかった私は、本を読むようになった。たまたま図書室が教室のすぐ隣にあったため、ほぼ毎日図書室に通うようになった。そして高校生活3年間で海外文学や日本文学を読みあさった。

 その過程で、私の心に衝撃を与えた1冊の本と出会う。それは、シャーロット・ブロンテ著「ジェーン・エア」(大久保康雄訳、新潮文庫)だ。

 両親を失い孤独な少女だったジェーンは、おばの家に預けられた。頭の良い彼女はおばの目にはさかしらに映ったようだ。おばに疎まれ、ジェーンは孤児院に入れられる。しかし、その孤児院は日常的に児童虐待を行っていた。孤児院の教師に信念をもって立ち向かうジェーンだったが、誰も助けてはくれなかった。

 傷心の中、1人の少女と出会う。ジェーンにとって初めて出来た親友だったが、過酷な孤児院生活が原因で亡くなってしまう。その事件が元となり、孤児院の悪行が白日の下にさらされた。

 後にジェーンは孤児院で教師となり平穏な日々を送る。そして、優秀な女性教師の話を聞きつけた富豪から娘の家庭教師となって欲しいと請われ、ジェーンは住み込みで働くことに。知的で控えめ、さらに心優しいジェーンは富豪の当主に見初められ、恋に落ちるが……。

 幸せな時が、ある瞬間から人生最大の不幸に変わる! 絶望のどん底に突き落とされたジェーン。彼女を襲う悲劇に、当時の私は読んでいてとても苦しくなった。私ならば生きてゆけるだろうかと思っていた。

 ところが、ジェーンは不屈の精神でその悲劇を乗り越えてゆく。あまりの苦しみに心が壊れそうになっても、彼女は自分の信じる道へとまっすぐに向かってゆく。その生き様に魅了された。読み終わった時にはジェーンの虜(とりこ)になっていた。

 社会人になって仕事に疲れたり、人間関係に悩みつらい日々を送っていたりしたとき、ジェーンのことを思い出すと難題を乗り越える勇気をもらえる。高校時代に多くの読書体験したことが、本がないと生きてゆけなくなった今の自分につながっていると思う。

 ◆「本の学校から」は今回で終わります。長らくの間、愛読いただきありがとうございました。

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