「その瞬間、時間は止まってしまったようでした。皆が一丸となって、利益と情熱と人生の目的が結合したビジネスを作り上げたのです。それは単なるビジネスではなく、我々はもちろんのこと、すべての人に幸せを配達するという独自のライフスタイル(生き方)を作り上げることでした。その日はその考え方が正しいと証明された日だったのです」
ザッポスは、『フォーチュン』誌が選ぶ「働きがいのある企業100」ランキング'09年度に初めて23位にランクイン。翌'10年度には、ITの巨人『グーグル』が前年の1位から転落するのとは対照的に、15位へとランクアップした。アマゾンに買収される前から注目の企業だった。
しかし一見、地味な業態にもかかわらず、そこまでザッポスが人気を呼ぶのには、どのような理由があるのだろうか。そのポイントをトニーは簡潔に答えた。
「大事なのは"企業文化"です。まずは、サービスをコアにした企業文化を築いて育むことから始める。そうすることによってはじめて成果が得られるのです。つまり私たちは『たまたま販売業をしている』、サービス・カンパニーなのです」
ザッポスが他の通販会社と大きく異なるのは、電話で顧客からのオーダーや質問、リクエストを積極的に受け付けていることだ。コンタクトセンターは24時間年中無休で受け付けている。ネットで通販をしている会社にとって、電話は極めて非効率的で対応にコストのかかる部門なのだ。
しかし、ザッポスはここに長期的成長のカギがあるという。コストではなく投資として考えているのだ。
アマゾンは、潤沢なキャッシュフローと株高に助けられて、独自展開ができない分野に関しては、外部企業をこれまでもどしどし買収してきた。これはアマゾンCEO、ジェフ・ベゾスが明言して実行している戦略でもある。DTPやキンドル関連事業などその企業数も多い。
しかし、ザッポスは、本やエレクトロニクスのような商品ではなく、IT化だけでは処理できず、人の介在が必要な靴などの"情緒型商品販売"のノウハウに独自性があった。そのサービスを核にしたマンパワーと経営力こそアマゾンに足りなくて、欲しかったものだ。