なぜ日本は停滞からなかなか抜け出せないのか? その背景には、日本社会を支配する「暗黙のルール」があったーー。
社会学者・小熊英二さんが、硬直化した日本社会の原因を鋭く分析します。
※本記事は小熊英二『日本社会のしくみ』(講談社現代新書、2019年)から抜粋・編集したものです。
伸びない大学院進学
団塊世代の青年期には高校進学率が伸び、団塊ジュニア世代の青年期には大学進学率が伸びた。それでは、その後は大学院進学率が伸びたろうか。
大学院修士卒の就職者も増えてはいる。しかし国際的にみると、日本は大学院とくに博士課程の進学が伸びず、博士号取得者数も伸びなやんでいる。国際比較でいえば、「日本の低学歴化」が起きているともいえる。
じつは日本は、高校・大学の進学率が伸びたところまでは、西欧諸国とくらべても早かった。しかしそれ以上の高学歴化、つまり大学院レベルの高学歴化はおきていない。そのため日本は、1980年代までは相対的に高学歴な国だったが、現在では相対的に低学歴な国になりつつある。
その最大の理由は、日本では「どの大学の入試に通過したか」は重視されても、「大学で何を学んだか」が評価されにくいことである。専門の学位が評価されるのではなく、入試に通過したという「能力」が評価されるのだ。
海老原嗣生によれば、企業は新卒採用者の選抜にあたり、卒業大学のランクを重視している。企業がそれによって評価しているのは、「地頭のよさ」「要領のよさ」「地道に継続して学習する力」といった「ポテンシャル(潜在能力)」だという。この3つの能力があれば、どの部署に配置してもまじめに努力し、早く仕事を覚え、適応することが期待できるからだ。