2025-03-25

転職したら話し相手がいなかったんだけど

20代アラサー男。

この度客先を回る営業から、一歩たりとも社外に出ない事務職転職した。

俺は幼少期に母が「言葉のない国に行きたい」と神に祈ったレベルのおしゃべりだ。そしてそのまま成長した。

先に書いておくけど、この話はマジで長い。なぜなら俺がおしゃべりだから


転職してみたら、新しい職場で話せる相手がぜんぜんいなくて辛い。本当にいない。

下手したら

おはようございます

お疲れ様です」

「お先に失礼します」

の3センテンスで就労時間が終わる。

当たり前なんだけど、営業と比べて「しゃべり無用」の業務が多すぎる。

激烈繁忙期のせいか、皆俺なんかに興味がないのか、仕事の合間にちょっと雑談、みたいなのも発生しない。俺の歓迎会はなぜか2ヶ月先に設定されている。

苦しい~~ッ!

人と話したい、そして人の話を聞きたい。

転職4日目くらいで窒息しそうになり、なんとか昼休憩の間だけでも話し相手を確保しようと思い立った。

とにかくちょっと打ち解けた会話をしてガス抜きさせてくれれば誰でもいいと思って、俺は目をギラギラさせて休憩室に向かった。

「どしたん?話聞こか?」がまったく言葉通りの意味を持つしゃべモクだった。


俺より1年くらい先に入社した、3つ年下のMという男性社員がいる。

いつも黙々とコーディングプログラミング?とにかく俺には全然からない作業をしていて、業務上の関わりは一切ない。

長身かつ目鼻立ちのはっきりした端正な顔立ちで、チビガリ・平面顔と最悪のルーレットが揃う俺の嫉妬と羨望を一身に集めている奴だ。

俺はこのMに狙いを定めることにした。毎日ひとりで飯を食っていたからだ。

しゃべモクとしてはおあつらえ向きだった。

俺はコンビニで買ってきた弁当を携え、満を持してMのそばに忍び寄った。

Mはちらりとこちらに視線を向けて、すぐまたスマホに目を落とした。

すかさずお疲れ様でーす!こないだ入った増田です、と適当自己紹介をして会話を試みたのだが、俺はこのファーストコンタクトを鮮明に覚えている。すごく印象的だったから。

俺「すみません急に絡んじゃって……ここで一緒に食べていいですか?」

M「はい

俺「このへんご飯屋さんあんま無いですよね、俺もそこのラーメン屋コンビニです。皆さんどこで食べられてるんですかね?」

M「はい

俺「Mさんのそれ(昼飯のカップ麺最近出たやつすね!俺も気になってたんすよ、美味いですか?」

M「はい

なんだ、なんか難しいぞ

感じは悪くないけど、会話のボールを静かに足元に置かれているような感覚がある。

見ると、整った顔の表情筋はぜんぜん動いていない。すごい真顔である

声も覇気というか、抑揚みたいなものがない。

これはもしかしなくても、俺と話したくないんだろうなと思った。

心静かに休憩時間を過ごしていたのに、いきなり知らん奴が隣に座ってやかましくしてきたらまあ普通に嫌だよな。申し訳ないことをした。

翌日の昼休み、俺は再びMに隣いいすか~と声をかけた。

俺には営業職で身につけた変な根性と図々しさがあった。

悪いが俺と喋ってもらうぞ、俺のために。


Mはスマホから顔を上げてひとこと「はい」と言ったが、嫌そうにも迷惑そうにも見えなかったと思う。

内心どうだったのか分からないけど、やっぱり真顔。声も表情もマジで「無」だった。

許可下りたのでMの隣に陣取り、またしてもいろいろ話しかけてみるのだが、昨日と同じく会話がぜんぜん広がらない。

マジでレスポンスが「はい」「いえ」のみで、たまに「○○です(俺が質問したことへの回答)」が発生する。

俺「こないだの連休どっか行かれました?」

M「いえ」

俺「俺も家の近所しか行けなかったです、人多いですしね~。友達と出かけたりは?」

M「いえ」

俺「へえ~…………」

ああ、無言になっちゃった

ちょっと気まずいなあ、次はなんて話しかけようと思った次の瞬間だった。

Mが突然

友達いないので。0人です」

と言い放ったのだ。もちろん顔と声は「無」のままだった。

俺はMが2センテンス喋ってくれたことに感動しつつ、底知れぬ「凄み」を感じていた。

癖が強いけど、愛想ないとかそういうレベルじゃないけど、この人めっちゃ面白いんじゃないか

でも「友達いません」発言別に笑うとこじゃないし、ベストな返しも思いつかなくて、俺はなんか喉からフウンみたいな音を出したあとソウナンスネエ~とか言ったと思う。

そのときMのスマホが目に入った。

Mはいつも休憩室でスマホを見ている。見た感じゲームのようだった。

「そういえばいつもこれ何やられてるんですか?」と尋ねると、Mは淀みなく「原神です」と答えた。

げんしん。YouTube広告でたまに流れてくるやつだ。

いたことあります、よく知らないけど面白そうですよねと返したら、Mはなんと「見ますか」と言ってきたのだ。

原神に興味があるわけじゃなかったけど、Mの方から何かを持ちかけてきたのが妙に嬉しくて、即座にはい!と言って隣でプレイ画面を見せてもらった。

モンストと雀魂くらいしかやったことのない俺にとって、スマホで遊べるオープンワールドは衝撃だった。

そもそもオープンワールド自体ゲーム経験の少ない俺が通ったことのないジャンルだ。

Mは黙々とプレイしてたけど、俺がいちいち

「あのへんにも行けるの?!」とか「あのでかいの何?!倒せるの?!」とか騒ぐたびに

はい」と海を渡ってみせたり、「はい」と敵をぶっ飛ばしたりしてくれた。

凄いゲームだ。アクションはかっこいいし、キャラ可愛いし。見渡す限り、好きなとこに自由に行けるってどういうこと?凄いなあ。

俺はその日の夜、さっそく原神をインストールした。データ量でかすぎてビビった。


週明け月曜日の昼休み、俺は意気揚々とMに原神を始めた旨を報告した。

Mはスマホから目を上げて、例の真顔で「そうなんですね」と言った。

その日から、昼休みが来るとMの隣で原神をプレイするようになった。

俺は他の追随を許さなレベルで原神のセンスが無かった。

チュートリアルをこなした後も操作はおぼつかないし、簡単ギミックも解けず序盤で詰み、毎日のようにMに泣きついた。Mはそんな俺を淡々介護してくれた。

そのうち俺のランクが上がってマルチプレイ解放され、Mを俺のワールドに呼んで二人で遊ぶようになった。

Mはビビるくらい強くて、俺は馬鹿みたいに弱い。

最序盤から出てくる盾持ちの敵に、あっという間に命を刈り取られるくらい弱い。たぶん俺に原神は早すぎたんだと思う。

ある時いつものように敵に囲まれボコボコにされていたら、

俺が死ぬ一歩手前、絶妙タイミングでMが崖の上から降ってきて敵に立ちはだかり、華麗な動きであっという間に一掃してくれた。

テンション上がって、すげー、かっこいい!ヒーローじゃん!

とか言いながらMの方を見たら、やっぱり寸分違わぬ真顔で笑った。

こういう無表情ゆえの面白さとか、ふとした時のMの淡々とした返しが不思議とツボで、俺はよくバカウケした。

M本人は、どうして俺が笑っているのか分からない様子だった。

(ほぼ俺が一方的にだが)世間話をしながら原神する時間が楽しくて、俺は毎日せっせと休憩室の端に通った。




半年経った。俺は変わらずMと原神をしていた。

俺はしっかりと原神にドハマりし、下手くそながら順調に冒険ランクを上げていた。

少し課金もするようになり、キャラ武器も増えた。ちなみに俺の最推しエウルア。可愛すぎるよな、絶対幸せになってほしい。凸重ねたいから早く復刻してくれ。

最初の頃は「年下とはいっても会社的には先輩だしな」と思ってMに敬語で話しかけていたが、俺は本当に馴れ馴れしいのでしばらくするとタメ口こいて接するようになった。

でもMは絶対敬語を崩さなかった。返答のバリエーションは「はい」「いえ」からちょっと増えた。

「いいですよ、やりますか」「まだ行けますよ」「(ギミック)解けましたよ」

誘うのはいつも俺からで、Mから声をかけてくることはなかったから、

毎日絡んでくるから仕方なしに付き合ってくれてるんだろうなと考えてた。

ある日、社内全体の大きな飲み会があった。

(お調子気質が幸いしたのか、この頃には社内で話せる人も増え、息苦しさも感じなくなっていた)

俺は飲み会が大好きで、人数が多いほど楽しいタイプだ。

大はしゃぎでハイボールを流し込みながら、ふと「Mって酒の場で誰と何を話すんだろう」とか思ってた。

その飲み会にはMも参加していたけど、テーブルがかなり離れていて話すことはできなかった。

次の日が早かったので二次会を断って外に出ると、Mもちょうど帰るところだった。

一緒に帰ろうぜ~と声をかけて並んで歩き、ぶらぶら駅に向かう途中、

Mが急にゆっくり歩き出したかと思うと、「帰るんですか」と言った。

俺がポカンとしていたら、Mはいもの淡々とした調子で「もう少し飲みませんか」と続けた。

なんでか分からないけどそれがすごく嬉しくて、即座にでかい声で「行こう!!」と言った。




一年経った。俺は変わらずMと原神をしていた。

俺の冒険ランクはMと同じくらいになったが、プレイセンスは死んだままだった。Mの後ろに隠れてコソコソ敵をぶん殴り、素材のおこぼれを頂戴していた。

金曜になると、ときどきMと一緒に飲みに行った。

俺の方が圧倒的に口数が多いけど、社外のMはけっこう饒舌で、俺の話に控えめだが声を上げて笑ったり、ぽつぽつと自分の話をしたり、軽く俺をイジったりするようになった。

ふたりで飲みに行きはじめてしばらく経ったある日、Mをカジュアルバーに連れて行ってみた。

Mは物珍しそうに薄暗い店内を見渡したり、メニューをじっと見てはカクテル名前を呟いたりしている。

こういう場所にはあんまり来ないの?と尋ねると、Mははい、と答え、

少し間が空いて、照れたようにちょっとだけ笑った。

増田さんだけなので、友達

飲み会帰りに初めて二軒目に誘われたときと同じくらいか、それより嬉しかったと思う。

俺は普段からすぐ、一緒にいて楽しいとか面白いとか、相手に言ってしまタイプだ。でもMはほとんどいつも真顔だし口数も少ないから、こういう時の重み?強さ?がすごい。

俺は即座に、今度どっかの休みに遊びに行かない?と誘った。




二年経った。俺もMもあんまり原神をやらなくなった。

Mとダラダラ話していると、いつの間にか休憩時間が終わるからだ。

Mの敬語はぜんぜん抜けなかったけど、相槌が「はいから「うん」になり、言葉の端にときどきタメ語が混じるようになり、いつからか「あのさ、」と話しかけてくるようになった。

俺がよく爆笑しているせいか、Mが案外面白い奴だということに周りが気づき始めたらしい。

つの間にか周囲に人が増えていった。今じゃ休憩室で、Mも含めた数人で喋るのが日課になってる。

Mの口数は相変わらず少ないけど、社内でもけっこう打ち解けて笑うようになった。こないだなんて

仕事別にきじゃないけど、会社メンバーのことは好き」みたいなことを言うもんだから、周囲に甚大な照れをもたらした。

俺たち皆、無言で互いの肘あたりを叩きまくってたな。

今週はMの誕生日から金曜日は皆で一緒にご飯に行く。サプライズででっかいバースデープレートを出してやろうぜと、同僚と画策している。

驚いてくれれば面白いけど、Mのことだから真顔で「わあ」とひとこと言って淡々と食いそう。それはそれで面白いから、見たい。


思えばけっこうゆっくり仲良くなったよなと、ふと思い出したから書いた。

俺はおしゃべりだけど、実家の都合で会社を辞めて地元に帰らなきゃいけなくなったこと、再来月から出社しなくなること、まだMに言えてない。

伝えたら真顔で「そうなんだ」とか言いそうだ。

仕事辞めたくない。

  • ChatGPTと喋ればよくね?

  • 出来すぎていると思うようになってしまった

  • で、いつ結婚するんですか?オチがない

  • 世の中がこうだったら嬉しいな、という状態

  • はいはらがみの宣伝 「そういえばいつもこれ何やられてるんですか?」と尋ねると、Mは淀みなく「原神です」と答えた。 げんしん。YouTubeの広告でたまに流れてくるやつだ。

  • Grokと話すといいぞ

  • きっと名のある作家に違いない (泣かせるエンドは中高年に効くのだ)

  • 泣いちゃった。いい話すぎて。いやあいいもん読んだよあんた最高だ。

  • いい話だね。そして長いけどさらっと読めた。話し上手に書き上手なんだね!

  • 女が書いた文章だなー キャラが典型的過ぎる 腐の方々ってこういう少年漫画みたいな組み合わせ(ウェイ系三枚目と寡黙イケメン)好きよね 理想のシチュで出力させたら思いのほか良...

    • 20代べしゃり営業職のくせに性欲を微塵も感じさせない思考回路・行動原理で、男からしたらリアリティゼロなんよね マジで少年漫画までならギリ許せるリアリティライン

  • この文章は創作であると判断できます。以下にその根拠を示します。 1. 誇張的な表現やユーモア ・幼少期に母が『言葉のない国に行きたい』と神に祈った」などの表現は、現実の事...

  • おっさんずラブ作り話

  • M(プリンセス・プリンセス)、M(浜崎あゆみ)に続く第三のM

  • 増田はMのことをただの攻略する相手としか思ってないのに、Mの方は友達だと思っていてMが可哀想すぎる

  • 実家の都合で仕事辞めて地元に戻るなんて現代であり得るか? 親の介護は行政に任せてフル無視かますのも現実的に可能なのにわざわざ仕事辞めさせる親も何考えてんだろう 地元が栄え...

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