厳しく、優しい街「青森」|文・大水洋介(ラバーガール)

書いた人:大水洋介

1982年生まれ。青森県東津軽郡平内町出身。プロダクション人力舎所属のお笑いコンビ「ラバーガール」のボケ担当。


(画像/PIXTA)

青森は厳しく、優しい街である。
高校を卒業するまでの18年間、青森県の平内町という場所で過ごした。冬は1メートル以上の雪が積もり、毎朝雪かきをしなければ家を出られない。大きな道は除雪車が雪を片付けてくれるが、歩道は除雪出来ないので雪がどんどん溜まっていき、車よりも高い場所を歩くこともある。

僕が通っていた青森南高校は校門まで50メートルほどの一本道があり、道の両サイドが田んぼだったので風を遮るものがなく、通称「南高ブリザード」と呼ばれる猛吹雪の中登校していた。無事校門を過ぎると生きている喜びを実感できたものだ。

民家の軒先には巨大なつららがいくつも出来る。気温が上がると屋根の雪が溶けるので、油断して屋根の下を歩いていると、半分溶けたつららが頭上に降ってくる。上からトゲトゲのものが落ちてくる事に対して危機管理が出来ているので、青森の子どもはスーパーマリオのクッパ城の攻略が上手いと思う。


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厳しい冬を乗り越えると、なんとも穏やかな優しい季節が続く。雪が溶けて数カ月ぶりにアスファルトを見た時の開放感たるや! 雪解け水で洗い流されて、街全体が掃除されたような清々しさは、中々他の場所では味わえないのではないか。

山へ行くと春はタラの芽や根曲がり竹、秋はアケビやキノコが山ほど取れる。家計にも優しい。それから青森はゴキブリがほとんど出ない。僕は生まれてから18年間、一度も見たことがなかった。虫が苦手な人にとってはとても優しい地域だ。そんな厳しくも優しい街、青森のおすすめスポットをいくつか紹介していこうと思う。

青森の楽しみは新幹線のホームから始まっている


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まずは新幹線で青森に行く際に降り立つ駅、新青森駅。「一発目のおすすめの場所が駅かい」と思うかもしれないが、この新青森駅、めちゃくちゃ楽しい。
まず、新幹線の発車音がねぶた囃子である。ホームに降りたら、少し待っていれば季節問わず少しだけねぶたの気分が味わえる。ホームのエスカレーターを降りると、少しサイズは小さいがねぶたが飾られていて、青森へ来た人々を出迎えてくれる。

そしてこの新青森駅、お土産売り場がとても充実している。中でも僕のおすすめは「小山せんべい」という、津軽せんべいのお店である。青森のせんべいはゴマがたっぷり入った南部せんべいが有名かもしれないが、津軽せんべいはほんのり甘いせんべいにピーナッツやアーモンド、ピスタチオなどのナッツが入っている。
そして新青森駅ではこの津軽せんべいを一枚一枚手焼きで作っているので、常に焼き立てを買うことができる。この焼き立てせんべいがまあ美味しい。由紀さおりさんの歌声のような優しく奥ゆかしい甘み。その後に来る吉田都さんのダンスのようなキレの良い香ばしさ。人間の体が全く拒否しない甘さなので、いくらでも食べられてしまう。今年の正月、新青森駅から東京に帰る時に8枚入りのピスタチオせんべいを買い、新幹線の中で奥さんと2人で完食してしまった。

他にもおすすめなのは、これも実演販売されている「海峡するめ」。出来立てなので香りが強く、温かくて柔らかい。ビールにも日本酒にも合う。もちろんねぶた漬け、いちご煮、ラグノオのりんごスティック、カスタードケーキいのち、長尾中華そば、にんにくせんべいなど、定番のお土産は全て揃っている。

売り場が充実し過ぎているので、つい僕も毎回時間を忘れて買い物してしまうが心配ご無用。駅構内にある時計は、新幹線に乗り遅れないように、わざと5分早められている。新青森駅は優しさとホスピタリティに溢れた素晴らしい駅である。

空気、水、お茶が美味い八甲田山


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八甲田山は子どもの頃、よく家族でドライブに出かけた思い出の山だ。
映画「八甲田山」は冬の厳しい八甲田の姿を残酷に映していたが、春〜秋にかけての八甲田はそれとは全く違う穏やかな表情を見せる。
まず、空気の澄み方が尋常ではない。東京から青森に帰ると「空気が美味しいな」と感じるが、八甲田はさらに一段階上の美味しさに感じる。日本酒で言えば青森市の市街地の空気は吟醸酒、八甲田の空気は大吟醸である。更に水が美味い。山道の途中に、「八甲田のわき水」を自由に汲める場所があり、いくらでも汲んでいいらしい。飲み水にしても美味いし、ご飯を炊く時に使うとまた美味い。

八甲田の萱野高原の中に「萱野茶屋」という、お土産などを売っている休憩所があり、そこでは「三杯茶」というお茶を飲むことができる。このお茶、なんと魔法のお茶で、1杯飲むと3年寿命が延びると言われている。そして2杯飲むと6年寿命が延びるらしい。更に3杯飲むと、死ぬまで生きることができるそうだ。飲むだけで寿命を延ばしてくれるとはなんと優しいお茶だろうか。八甲田に行った際は是非3杯飲んで死ぬまで生きてほしい。

忖度無しのイルカショーが魅力の浅虫水族館

「東北の熱海」と呼ばれる浅虫温泉。浅虫温泉駅から徒歩10分ほどの場所にある「浅虫水族館」にも是非足を運んでほしい。
まず、ここは料金が安い。この物価高の時代に大人1名1030円である。今年の正月に娘を連れて行ったのだが、こんな安い値段で入ってすいませんと、妙にペコペコしながら中に入ってしまった。

水族館の中には、陸奥湾の海を再現した水中トンネルや、アシカやペンギンがいる海獣館、ホタテ貝などを直に触ることができるふれあい広場などがある。

そしてやはり1番の見どころはイルカプールで行われるイルカショーである。僕が見に行った時は正月用の特別プログラムになっていた。ショーのクライマックス、スロットのようにくるくる回るおみくじの映像が映し出され、イルカがジャンプして空中にあるストップボタンを押して止め、お客さんの今年の運勢を占ってくれるという内容だった。
軽快な音楽に乗ってイルカが高々とジャンプし、見事ストップボタンを押す。歓声と共に止まるスロット。出たおみくじは、まさかの凶だった。なるほど、一度凶を出しておいてもう一度おみくじを引き、次は大吉になる演出か。そう思った次の瞬間、司会のお姉さんが意外すぎる一言を放った。

「あちゃー! 今年の皆さんの運勢は凶でした。以上でイルカショー終了となります!」

あまりにも意表を突かれて、しばらく呆然としてしまった。正月に家族で観るショーだからといって、機械で操作して大吉を出すなんて生ぬるいことはしないという、水族館の強い意志を感じた。そして、ちゃんとガチでおみくじを引けば凶が出る可能性はあるんだという、厳しい現実を味わうことができた。

水族館を後にする時思った。「次は大吉が見たい。また来よう」お客さんにこう思わせるところまでが作戦だとしたら、水族館の職員さんたちは中々のやり手である。

おじさんも子どもも楽しい十和田市現代美術館

「十和田市現代美術館に行きたい」3年前に帰省した時、美術館巡りが好きな奥さんに言われた。なんでも十和田市現代美術館には『スタンディング・ウーマン』というでかいおばさんのオブジェの作品があるらしい。なんだそれ。ネットで調べてみた。確かにでかい。これは是非とも生で見てみたい。
次の日、実家の車を運転して1時間、十和田に向かった。休館日だった。なぜちゃんと調べてから行かなかったのか。悔しさを紛らわすかのように「道の駅とわだ」で爆買いした。それから何度も実家には帰ったが中々十和田まで行くタイミングがなく、毎回美術館に行くのを断念していた。

今年の正月、1日何の予定もない日があった。「よし、みんなででかいおばさん見に行こう」しかし奇しくも今年の青森は30年に一度の大雪が降った年だった。十和田まで2時間かかった。2歳の娘はぐずりにぐずった。大人もだんだんイライラしてくる。こんな大変な思いをしてまで、でかいおばさんを見る必要があるのか。車内で何度も後悔しながら、ようやく美術館に着いた。

チケットを買い、中へ。ひとつ目の部屋に、いた。でかい。ただ、でかいといっても何十メートルもあるわけではない。大体4メートルほどだろうか。ただ、この大きさが妙にリアルなのだ。世界のどこかに実在していてもギリギリおかしくなさそうな大きさ。娘はしばらく怖がっていた。
先へ進むと、「光の橋」という作品が。無機質な六角形のトンネルになっていて、娘はこのトンネルがえらく気に入ったらしく、中を何往復もしていた。他にも、暗闇の中よく目を凝らすと森が広がっている部屋や、無数の人形が肩車をしてできている巨大なシャンデリアのような作品など、アートにそれほど詳しくない僕でも楽しめる作品がたくさんあった。

美術館の外壁には奈良美智の作品が描かれている。そして広場には草間彌生のオブジェが。半分雪に埋もれた草間彌生の作品が見られるのはここぐらいではないだろうか。

最後にもう一度でかいおばさんを見に行った。娘もようやく慣れて「おばさんかわいい」と言っていた。僕は最後までかわいいとは思えなかった。余談だが、美術館の中にあるカフェで売っているソフトジェラートがめちゃくちゃ美味いので、訪れた際はぜひ食べてほしい。大満足で美術館を後にし、また「道の駅とわだ」で爆買いして帰った。

今年の冬の青森はいつになく厳しい街だった。雪の影響でどこも大渋滞がおこり、新青森駅から国道に出るまでの数百メートルの道を進むのに1時間かかった。毎朝30分かけて雪かきしなければ、車庫から車を出すことができなかった。家の廊下が寒すぎて、夜トイレに行くのも億劫だった。家の窓が半分雪で覆われてしまい、窓を開けることができなかった。ただ、今まで何度も娘を青森に連れて帰ったが、今年の冬が最も楽しそうに過ごしていた。

そうか、大人にとって雪は厳しい存在でしかないが、子どもからすれば最高に優しい遊び相手なのだ。雪玉を作って投げる。雪だるまを作る。走り回って転んだとしても、ふわふわの雪が体を守ってくれる。東京に戻った後、「また青森行こうね」と何度も言っていた。
少し大変だけれど、来年も雪が積もる時期に合わせて帰ろうか、そう思った。


(画像/PIXTA)


著: 大水洋介(ラバーガール)

編集:小沢あや(ピース株式会社