BUCK-TICK、“生”で届けた『スブロサ SUBROSA』の深み 往年のファンを驚かせた自由で斬新なステージに
BUCK-TICKがシングル「雷神 風神 - レゾナンス」、アルバム『スブロサ SUBROSA』の発売を記念した応募企画として、完全招待制のライブを3月23日、Zepp Shinjuku(TOKYO)で開催した。この日の今井寿の言葉を引用すれば、“生『スブロサ SUBROSA』”。アルバム全17曲を曲順通りに披露するという、フルボリュームのライブ内容だった。初披露となる楽曲も多くあり、来月12日の仙台公演よりスタートする『BUCK-TICK TOUR 2025 スブロサ SUBROSA』に先駆けて、第2期BUCK-TICK、いや、ロゴ表記に従えば“BUCK∞TICK”の全曲をコンプリートした、特別な夜になった。
ほぼ定刻通り、アンビエントなSEとステージバックのビジョンに映し出された光の粒子が描く美しい模様とともに、4人がステージの持ち場につく。「ハロー」ーー今井はそう小さく呟くと、手にしたギターをゆっくりとストロークしながら歌い始める。「百万那由多ノ塵SCUM」でライブは始まった。今井のおおらかな歌声に星野英彦がアルペジオを重ね、樋口豊が低音を支え、ヤガミ・トールがビートを重ねていく。ビジョンに映し出された宇宙がオーディエンスを幽玄な世界へと誘う。
「サンキュー。〈狐 狼 蛇 梟 黒山羊 山猫 鴉 鷹〉……」今井の言葉で始まった「スブロサ SUBROSA」。無機的なシーケンスに合わせて、ギターを持たずにハンドマイク片手に吐き捨てるように歌う今井。ステージ中央にはスチームパンク調のスタンドがハの字に鎮座し、ギター2人の前にキーボードとMacが置かれている。今井の対に構える星野もギターを持たず、手にしたスティックでメタルパーカッションを打ち鳴らす。ギタリスト2人がギターを持たずにライブをするという、斬新すぎるBUCK-TICKのシルエット。メジャーデビューから37年を超えたロックバンドがたどり着いた形だ。4人はダークなヒップホップをかき鳴らし、オーディエンスを圧倒する。
今井の「ニャオス!」でスタートした「夢遊猫 SLEEP WALK」。浮遊感のある2本のギターの絡み、それを支える図太い樋口のベースが心地いい。サビラストのキメ「グッ」に合わせてポージングする樋口の姿には多くのオーディエンスが思わずニヤリとしたはず。そんなルーズなグルーヴで揺らしたかと思えば、「From Now On」では硬質なサウンドで攻める。ゴリッとしたベースの上をソリッドなギターが掛け合っていく。その合間を衝くような星野のニヒルなボーカルがスリリングだ。初披露となった「Rezisto」では、無機質感たっぷりの空気感の中で、蠢く重低音を轟かせる樋口とブルージーなフレーズを挟みこむ星野の生のグルーヴが心地よく、ハンドマイクで中指を立てながら歌う今井も無表情に見えて自由気まま、どこか楽しそうに見えた。
ジャズエイジとシュルレアリスムがコラージュしていく、ビジョンに映し出された不可思議な映像とともに披露された「神経質な階段」の美しさに目も耳も奪われる。『スブロサ SUBROSA』を構成する楽曲の中で大きな比重を占めるのがインストゥルメンタルだ。昨年12月29日、日本武道館で開催された『ナイショの薔薇の下』でも感じたが、インストがライブのインターバルではなく、生演奏の妙味を生み出している。細部にまで行き届いた音響の素晴らしさを実感。今井が「『海月』とかもやるけど、トイレ休憩じゃないからな」と笑いを誘っていたが、それは冗談ではなく、楽曲とサウンドに対する自信でもあるだろう。
「サーフロックなやつ」と今井が語った「雷神 風神 - レゾナンス #rising」でのクラップ、「冥王星で死ね」の奇祭リズムに合わせて湧き上がる〈ガ ガ ガ ガ〉の掛け声と、会場が一体となる流れでボルテージが上がっていく。ヤガミが陽気にビートを刻めば、樋口がステージ前方に躍り出てフロアを煽っていく、この光景も新しいBUCK-TICKのライブだ。今井&星野のツインボーカルで魅了する2曲から、ハネたリフがワイルドに鳴らされる「遊星通信」へなだれ込む。初めてライブで演奏された同曲は実にダイナミックで、バンドのグルーヴを大きく感じられた。この3曲の流れはアルバム曲順通りのコンセプチュアルな中に、大きな盛り上がりを見せた場面だった。