埼玉愛爆発の大ヒット映画から「そこらへんの草」を商品化!「面白さ」で差別化する春日部のローカルスーパー

埼玉県を“愛のある毒舌”でフューチャーし、大ヒットを記録した映画『翔んで埼玉』のセリフをヒントに、「そこらへんの草天丼」を開発し大ヒットした「みどりスーパー」(埼玉県春日部市)。
ほかにも「地下神殿パン」、「愛のトロタク」といった、独特すぎるネーミングやビジュアルのオリジナル惣菜を次々と展開し、数年前からSNSを中心に話題を集めています。ユニークな企画を打ち出すようになった背景について仕掛け人である惣菜部部長の河内みどりさんに話を聞きました。

近所の常連が持ってきた草で、「そこらへんの草天ぷら」を開発

――静かな住宅街の中に、とても活気のあるこちらのスーパーを見つけ、驚きました。みどりスーパーができたのは何年ですか?

創業は1972年です。もともと両親二人で経営をしていて、当時はいまのように、近くに競合する大型店もなく、食品を売る店といえば、うちか八百屋さんくらいしかありませんでした。子どもの頃はお客さんもたくさん来ていた記憶があります。

レトロな雰囲気が漂うみどりスーパー。看板は日焼けしてしまっている

――みどりさんが、お店に関わられるようになったのはいつ頃ですか?

20年くらい前ですね。先に弟がお店を継いで、その後に妹がマネージャーとして入社、最後に長女の私が入ったんです。その頃は周辺に大型スーパーやドラッグストア、ショッピングモールなどの競合が次々と出店し、客足が遠のいた時期でもありました。しばらくは変わらず営業を続けていましたが、このままでは厳しいだろうと考え、2013年に「惣菜部」を立ち上げたんです。

惣菜部部長を名乗る河内みどりさん

――なぜ、「惣菜」に目を付けたのでしょうか。

共働きの人やお年寄りの方が増えたことで、多くの人が料理をしなくなり、これからは惣菜需要が伸びるんじゃないかと考えたのが理由です。

――ただ、他の大型店も惣菜は扱っています。競合との差別化をどのように図られたのでしょうか。

同じ商品を売っても負けてしまうので、うちは面白さで勝負しようと思いました。最初の成功例は、2019年春に発売した「そこらへんの草天ぷら」です。当時、企業がエイプリルフールに面白いフェイクニュースを発表するというトレンドがあり、私も何か面白いことをしたいと考えていました。そんな時、3月31日に近所の常連さんが自分で育てたアシタバを持ってきてくれたんです。それを見たとき、当時はやっていた映画『翔んで埼玉』の「埼玉県人には、そこらへんの草でも食わせておけ!」というセリフが頭に浮かびました。「そうだ、このアシタバを天ぷらにして『そこらへんの草天ぷら』として売ろう!」とひらめいたんです。

正直、お客さんに受け入れられるか一抹の不安はあったのですが、これがSNSで反響を呼び、いつも来てくださる常連さんも「私も昔はそこらへんの草を食べていたわ」という感じで普通に受け止めてくれて(笑)。「そうか、こういうことをしてもいいんだ」と自信になって、次のヒット商品「そこらへんの草天丼」の開発につながりました。

大ヒット商品の「そこらへんの草天丼」

また、新型コロナウイルスがはやり出した時期には、「何か楽しい気持ちになる企画をやりたい」と思い、SNSでつながりのあった個人商店の方々に声をかけてスタンプラリーを開催しました。和菓子屋だったら「草餅」、中華料理屋だったら「草餃子」という感じで、「そこらへんの草」をテーマに商品を販売してもらって。うちでは「そこらへんの草天丼」を開発し、好評だったので定番商品にしました。スタンプラリー企画自体もSNSやメディアで話題にしていただき、大きな反響を呼びましたね。

みどりスーパーでは生花も「そこらへんの草」として販売されている

――惣菜で話題を集めてから、売り上げにどのような変化がありましたか?

惣菜部だけでも売り上げは2倍になり、スーパー全体の売り上げ増に貢献できました。また、高齢者中心の客層に加えて、若いファミリー層やカップル、観光のついでに立ち寄る人など、これまでにないお客さんも取り込むことができました。

ヒットすることを考える前に「とりあえずやってみる」

――新商品のアイデアは次々に生まれるものですか?

「そこらへんの草」シリーズだけでも、思い出せないくらい開発してきました。草焼きそばとか、草おでんとか(笑)。売れないとすぐやめちゃうので、商品の移り変わりは激しいと思います。いまだにヒットする法則性はわからないし、何がヒットするか読めない時代なので、とりあえずやってみて、駄目だったらやめればいいという気持ちで楽しく取り組んでいます。

内容量がもりもりの「そこらへんの草こえて森スギポテト」と「草こえて森ッシュドポテト」。右は春日部の首都圏外郭放水路をモチーフにした「地下神殿クリームパン」

ただ、面白いだけでは売れないのは確かです。草天丼のように売れ続けている商品を見ても、やっぱりお客さんは、ちゃんと「おいしい」と言って買ってくださっています。「面白いだけではなく、おいしい」が商品開発のこだわりです。

――商品だけにとどまらず、店内装飾もユニークですね。

店内のいろいろなところに小ネタを仕込んでいるので、宝物探しみたいにお客さんには楽しんでもらえたらなと思います。

誰もが見知った商品でも、ネーミングなどに小ネタが仕込まれていて油断できない
その日仕入れた魚で作ったあら汁のテイスティング。「謎汁」として、使われている魚を当てるクイズ形式にして海のない埼玉県民の魚力アップを図っているそう。答えはキューピー人形のエプロンの下に書かれている

――ツッコミが追いつきません(笑)。アイデアの源泉はどこにありますか?

大好きなお笑いや漫画からインスピレーションを受けることが多いですね。気に入ったフレーズがあったら、商品名やポップの言葉の参考にしたり。あと、お客さんとの会話もヒントになり、赤ちゃんからお年寄りまで、いいなと思った言葉は貪欲に取り入れています(笑)

店内に所狭しと貼られた「書」。映画『翔んで埼玉』のワンシーンをモチーフにしている

楽しさや面白さは、人を動かすための大きな原動力となる

――店内に貼られた子どもの自由研究が印象的です。

地元の小中学校とコラボさせていただいて、「そこらへんの草」を育てた様子を自由研究として発表してもらったり、草メニューの考案と開発・販売をしてもらったり、自分たちで育てた草で料理をしてみんなで食べたり、とにかくいろんな企画を行っています。

天井に貼り出された小学校の自由研究

――子どもたちとのコラボはどんな目的で行っているのですか?

私の中で二つの目的があって、一つは、野菜に親しみを持ってもらうこと。「そこらへんの草天丼」って名前にすると、ちょっと食べたくなりませんか? 「面白い」をきっかけにして、いまの子どもたちに野菜をもっと食べてもらいたいなと思います。

もう一つが、子どもたちに自信を持ってもらうこと。自分の子どももそうですが、周りと少し違うだけで仲間はずれにされるのではないかと、極端に恐れている子が多いように思います。そんな子どもたちが私の姿を見て、ちょっとくらい変わったことをしても大丈夫なんだと感じてもらえたらうれしい。そう思って率先して変なことに取り組んでいます(笑)

青果コーナーの壁には「草ットモンスター」と題して、子どもたちが描いた野菜モチーフのモンスターが貼られている。これも野菜に親しみを持ってもらいたいという思いからはじめた試み

――やはり地元に貢献したいという思いは強いですか。

もちろん地元が大好きですし、埼玉最高!と思っていますが、真面目に地元を盛り上げたいと考えてしまうと、逆につまらないことになってしまうような気もします。だから、何をするにしても、まずは自分が楽しいか、楽しくないかという気持ちを優先するようにしています。楽しんだ結果、地元が盛り上がってくれればうれしいですし、やっぱり楽しいことに人はついてきますから。商売をするうえで、楽しさや面白さはとても大事な要素だと思います。

これからは、自分が「翔んで」いきたい

――今後、お店の展望や願望はありますか?

もっと人に来てもらえるお店にしたい気持ちはあるのですが、逆に私の方から行くのも面白いかなと思っています。先日はお誘いを受けて日本橋三越本店の催事に出店させていただきました。

いつものように緑の衣装を着て、まわりにも書をたくさん貼りましたよ。初日は「三越でこんなことしていいの?」と周囲の人たちは驚いていて、正直アウェーでしたが、次の日から他の出店者もみんなかぶり物などをし始めました(笑)。結果的に、多くのお客さんに喜んでいただけて手応えも感じたので、『翔んで埼玉』じゃないですけど、今後はいろいろな場所に自分が翔んでいって、お店のことを知ってもらう取り組みもしていきたいです。

取材先紹介

みどりスーパー

取材・文小野和哉

1985年、千葉県生まれ。フリーランスのライター/編集者。盆踊りやお祭りなどの郷土芸能が大好きで、全国各地をフィールドワークして飛び回っている。有名観光スポットよりも、地域の味わい深いお店や銭湯にひかれて入ってしまうタイプ。

写真新谷敏司
企画編集株式会社都恋堂