何が変わった、五代目PCX。気になる疑問をズバリ直撃、新型PCX開発インタビュー

変わったのは外装と灯火類だけ。2025年型PCXに対して、そんな印象を抱いている人は少なくないだろう。
そしてその印象は間違いではないのだけれど……。実際に2025年型と対面したら、四代目以前とは一線を画する、高級感やスポーティさに誰もが感心するはずだ。

REPORT:中村友彦

◀︎掲載号はこちら モトチャンプ2025年3月号

50ccの名車を語ろう!

答えてくれたのはこの方々!

【左】デザイナー立石 康さん(本田技術研究所)2000年代のNプロジェクトの主要人物。近年はクラシックウイングマークシリーズに関与。【中央】LPL石田慎一郎さん(本田技研工業)専門分野は車体設計/開発で、排気量や分野を問わず、これまでに数多くの車両を担当。【右】広報内山史朗さん(ホンダモーターサイクルジャパン)価格や上級仕様に関する疑問に答えてくれた内山さん。広報・モータースポーツ課のチーフ。

全面新設計ではないもの小変更とは言い難い

エンジンやフレーム、足周り、ディメンション、ライポジなどは四代目を継承しているので、フルモデルチェンジではないけれど、外装や灯火類は新設計だから、マイナーチェンジとは言い難い。2025年2月から国内発売が始まった五代目PCXは、分類がなかなか難しいモデルだ。

もっとも五代目の実情を知るべく、開発責任者の石田さん、デザイン担当の立石さん、ホンダモーターサイクルジャパンの内山さんに話を聞いた本誌取材班は、フルかマイナーかを分類することに、あまり意味はないと感じることとなった。以下のインタビューを読めば、その理由が理解していただけるだろう。

エンジンやフレーム、足周り、ディメンション、ライポジなどは四代目を継承しているので、フルモデルチェンジではないけれど、外装や灯火類は新設計だから、マイナーチェンジとは言い難い。2025年2月から国内発売が始まった五代目PCXは、分類がなかなか難しいモデルだ。

もっとも五代目の実情を知るべく、開発責任者の石田さん、デザイン担当の立石さん、ホンダモーターサイクルジャパンの内山さんに話を聞いた本誌取材班は、フルかマイナーかを分類することに、あまり意味はないと感じることとなった。以下のインタビューを読めば、その理由が理解していただけるだろう。

125も160も共通の4色!

【PCX125】37万9500円 【PCX160】46万2000円

2010年の発売来、PCXシリーズは世界中で大人気を獲得している。2014年以降の二代目、2018年以降の三代目、2021年以降の四代目を経て、2025年からは五代目に進化。なお近年のPCXの生産拠点は、ベトナム、インドネシア、タイなどで、日本仕様はベトナムで生産。

マットスターリーブルーメタリック
パールジュピターグレー

パールスノーフレークホワイト
パールマゼラニックブラック
【X】がモチーフ!

ボディ後半の“抜け感”を意識して、ストップ・テールランプはかなり薄型化。従来型のように常時ではないけれど、ハザードランプ使用時はX型に点灯する。

フレームやエンジンはそのままに高級感とスポーティさをプラス

フロントフェンダーとグラブレールカバーを除く外装と灯火類は新作だが、eSP+エンジンやダブルクレードル構造のフレーム、足周り、ディメンションなどは、四代目の構造を踏襲。

SPECIFICATIONS ※()内は160

■ 全長×全幅×全高1935×740×1125mm
■ ホイールベース1315mm
■ シート高764mm
■車種133kg(134kg)
■エンジン水冷4スト単気筒124㏄(156cc)
■最高出力12.5ps/8750rpm(15.8ps/8500rpm)
■最大トルク1.2kgm/6500rpm(1.5kgm/6500rpm)
■燃費(WMTC※1名乗車)47.7km/ℓ(44.9km/ℓ)
■燃料タンク容量8.1ℓ
■ブレーキ(前後)ディスク
■タイヤ(前・後)110/70-14・130/70-13
ポジションランプが存在感を引き立てる

フロントカウルの灯火類は、従来型とは似て非なるデザイン。V字型のシグネチャーライトに、DRL(デイタイムランニングライト)の機能は備わっていない。

五代目のキーワードはプレミアム&パワフル

──最初の質問は、モデルチェンジを行った経緯。四代目の完成度の高さを考えると、変更の必要はなかったような……気がしなくもない。

石田:確かに、四代目は非常に完成度が高いのですが、市場の動向の変化やお客様へのアピールを考えると、このクラスのスクーターは、3〜4年ごとの仕様変更が必要です。また、欧州では排出ガスに関する規制が変わるので、そのタイミングで他の部分も刷新しようという意識もありました。ただし、乗り味や使い勝手は四代目で十分以上のレベルに到達していたので、五代目はデザインに的を絞った仕様を変更を行うことにしたんです。

立石:初代から継承してきた「パーソナルコンフォートサルーン」というコンセプトは不変ですが、五代目では新たに、「プレミアム&パワフルPCX」というキーワードを設定しました。具体的には、PCXらしさを維持しながら、高級感とアクティブさ、スポーティさを今まで以上に高次元で表現しようと。なお五代目のスタイリングは、私がすべてを構築したわけではなく、世界各国大勢のホンダのデザイナーが提案してくれた、膨大な枚数のアイディアスケッチから、様々な要素を取り入れています。

──五代目のデザインアイコンとなるのがフロントマスク。灯火類のV型配置に変わりはないが、ヘッドライトは左右独立式となり、その上部にはどんな角度でも主張を感じるシグネチャーライトを配置。また、左右端上部のウインカーは、白/橙のバイファンクションタイプとなる。

立石:フロント周りについては、シリーズ初の逆スラントノーズを導入したことも新しい要素です。ヘッドライト下部にタメを作ることで、見た目の重心を少し上げ、スポーティさを演出しました。また、正面から見た際のヘッドライト下部の左右幅をわずかに広げ、そこから前輪に向かう逆三角形のラインを強調していること、スクリーンを15mmほど高くしたことも、五代目の特徴ですね。

──リヤ周りで目を引くのは、ハザード使用時には三/四代目と同様のX型になるものの、上下寸法が薄くなったテールライトだろう。

立石:テールライトは、後半部を黒い樹脂製として軽快感を高めたアンダーパネル、シンプルでプレーンな面を採用することでアウトラインを強調したサイドパネルとセットで、後方への「抜け感」を意識してデザインしました。こちらもフロントカウルと同様に、四代目以前と比較すると、スポーティで軽快なイメージが構築できたと思います。

石田:外装に関しては、四代目から内部部品の配置を見直したことにより、フロントサイドカバーの左右幅を狭めることができ、足元の防風性能を損なうことなく開放感も両立させました。具体的には、フロアに足を乗せた際にスネのあたりとつま先のスペースが広くなっているのを感じて頂けると思います。

立石:フロントボディ周りのデザイン変更を行った結果として、負圧を原因とする足元への走行風の巻き込みが発生したのですが、前部から導入した走行風をセンターパネル左右のスリットから適度に排出することで、問題は解決できました。

初代の試作車のハンドルはカバー付きだった?

メーターは従来品をブラッシュアップ】メーターの表示内容と配置に変更はないものの、シルバーの外枠のデザインを変更。新規採用のハンドルカバーは高級感とスポーティさを意識して設計されている。

──続いては、ムキ出し&メッキ仕上げという特徴的な構造を廃止し、カバー付きとなったハンドルの話。

石田:ここはかなりの議論がありました。既存のハンドルはPCXのアイデンティティのひとつでしたが、高級車としての資質をグローバルな視点で考えると、ケーブルやハーネス類は外部に露出したくない。そのあたりを熟考した末に、現状の構成を採用しました。ちなみに、四代目以前の構造にカバーを装着するという方式も検討しましたが、その手法だとデザインの調和が取れないため、専用設計にしました。

立石:五代目のカバーでは、高級感とスポーティさを意識してデザインしました。私は初代PCXのデザインにも携わっていて、実は初代のハンドルバーは試作途中までカバー付きだったんです。それがムキ出し&メッキ仕上げになった理由は、当時のトレンドを取り入れたからで「カバー付きが本来の姿」と言えなくはありません。なおデザインに関しては、メーターパネルの外周部やエンブレムなども新規開発です。

石田:コクピットでは、バーエンドウェイトを小さくする一方で、ハンドルバー内部にダイナミックダンパーを設置したことも、従来型との相違点です。もちろん走行時の振動の抑制は、四代目以前と同等です。

──主要部品の多くを四代目から継承している五代目だが、外装や灯火類以外にも細かな変更点は多い。

石田:外装の刷新による空力特性の変化に対応するため、燃料噴射量の調整などセッティングは見直しています。そして160は新しい法規制に対応する必要がありました。その手法は、排気系交換防止用の特殊ネジを採用するか、キャタライザーの劣化検知機能を追加するなどですが、今回は構造のシンプルさを意識して、前者を選択しています。


160は改造防止ナットで法規をクリア!】日本の新しい法規制に対応するため、160はマフラーの取り付け部に、一般的な工具では外せない特殊ボルトを使用。なお125は、普通のボルトのまま。
ダイナミックダンパーをハンドル内に追加】バーエンドウェイトはコンパクト化。その代わりにハンドルバー内部にダイナミックダンパーを導入することで、四代目以前と同等の走行振動抑制を実現している。

125と160で価格上昇が異なる理由

──近年の日本の二輪市場では、メーカーや分野を問わず、仕様変更時の価格上昇が通例になっている。ただし2025年型PCXは、125が従来型+1万6500円、160は従来型+4万9500円。この差額には、どんな事情があるのだろうか。

内山:価格に関しては、材料費の高騰や為替相場の変動を考えると、本来なら125も160と同等の値上げとなります。しかし、125はエントリーユーザーから選ばれることも多いため、台数規模を踏まえ日本の原付二種市場における適正な価格帯を検討していくうえで、より抑えた価格設定とすることができました。

──価格と関連する話になりそうだが、海外で設定されている上級仕様(TFTメーターやリザーブタンク付きリヤショックを装備)を日本で販売する予定はないのだろうか。

内山:今のところはありません。仕様に関しては市場の状況や、お客様に受け入れられる価格設定など、様々な要素を検討して判断しています。ASEAN地域などでPCXは「手の届く高級車」と認識されていて、だからこそ上級仕様の需要があるのですが、日本では、普段使いにもちょうど良い、上質なパーソナルコミューターという位置づけです。そのため、さらに高価格帯の上級仕様を設定しても、お客様の支持は得られないと考えているからです。

従来ベースでステッチなどを工夫】シートベースとウレタンは四代目と共通。ただし、全面刷新を行った外装との調和を意識して、シートレザーは前後の分割ラインやステッチを刷新している。
風や雨の巻き込みを低減するスリット!】フットスペースを拡大するため、センターパネルは左右幅を縮小。その結果として負圧による走行風や雨の巻き込みが発生したが、スリットの追加で負圧を軽減し、問題を解消。

スマホなどの装着はカスタムで対応すべし!

【SP TAKEGAWA:マルチステーブラケットキット】5940円
SP武川の製品はステーもパイプもアルミ製で、アルマイトのカラーはブラックとシルバーの2種を設定。
【KITACO:マルチパーパスバー】3960円
キタコが販売しているマルチパーパスバーの素材はスチールで、カラーはブラックのみ。

──最後に、開発者の2人にお願いしたいのは、読者へのメッセージ。

石田:五代目ではPCXならではの魅力をさらに伸ばすことを目指しました。四代目以前のオーナーも、これまではPCXを体験したことがない人も、ぜひとも販売店に出かけて、実車を見て、触れて欲しいですね。

立石:実車を見て欲しいのは、私も同感です。各部の変更を「らしくない」と感じる人もいるようですが、実車と対面したら、従来型とは一線を画する、高級感やスポーティさが理解していただけると思いますよ。

ハンドルバーの構造変更によって、スマホやカメラなどの装着が難しくなった2025年型PCXだが……。アフターマーケットパーツを使用すれば、既存のPCXシリーズと同様にさまざまなガジェットの装着が可能になる。

インタビュアー:中村友彦

PCXシリーズ全車を体験し、各世代の進化に毎回驚きを感じている、業界29年目のフリーランス。

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