今どきの本屋のはなし

トーハン社員がシャトレーゼ店長!? 意外な「書店+α」運営、カギは客層

出版社から本を仕入れ、全国の書店に配送している「出版取次会社」のトーハンが、洋菓子店の経営に乗り出している。愛媛県四国中央市にある明屋(はるや)書店に隣接する「シャトレーゼ四国中央川之江店」がそれだ。事業を多角化しているとは言っても、書店業界と洋菓子ではジャンルが違いすぎるようにも思える。しかし、そこには深い理由があった。

左がトーハングループの明屋書店、右がトーハン運営のシャトレーゼ(愛媛県四国中央市で)

出版取次トーハンがFC契約、グループ書店に併設

トーハンが手がける書店と洋菓子店のコラボレーションの舞台は、瀬戸内海に面する愛媛県四国中央市。トーハングループの明屋書店川之江店は、三島川之江インターチェンジから車で約5分と交通の便がよく、郊外型の大規模な紳士服店や家電量販店、回転寿司店などが並ぶ絶好の立地にある。2024年6月、トーハンは駐車場10台分のスペースを割いてシャトレーゼ四国中央川之江店をオープンさせた。

同店は、シャトレーゼの直営店を誘致したのではなく、フランチャイズ(FC)契約にもとづき、トーハンが運営するFC店だ。オープンにあたっては、トーハン社員を店長として赴任させた。

トーハングループには書店系連結子会社が10社あり、全国各地で200店を運営している。ただ、2023年度の連結決算で、書店系10社の経常利益は赤字。前年度より拡大している。

そうした現状の打開策のひとつがシャトレーゼとの連携だ。トーハン書店事業本部部長代理の袴田昌彦さんは、「書店を経営していく上で重要な集客強化、そして収益基盤の多様化を目指して、幅広い業種とのコラボレーションに取り組んでいます。当然ながらお取引書店への導入提案も視野に、まずはグループ書店で先行導入しています」と話す。

アイスなどを買いに来たファミリー層を誘引

しかし、なぜシャトレーゼなのか。

袴田さんは「書店を活性化するには、まずお客さまに来てもらう必要があります。シャトレーゼはファミリー層を中心に幅広い世代から支持されていて、客層は書店と非常に近い。シャトレーゼなら『買い合わせ効果』が高いのではないかと思いました」と語る。アイスクリームやシュークリーム、プリンといった要冷凍、要冷蔵の商品は買い物の最後に買うことが多いのでは――と仮説を立て、シャトレーゼを目的に車を止めた客が、「その前に本屋をのぞいてみるか」と立ち寄ってくれることも期待したのだという。

シャトレーゼ四国中央川之江店では、ケーキ、焼き菓子、アイスクリーム、和菓子、樽出し生ワインなど約400の商品を販売している。アップルパイやカスタードパイは店内焼き立てを提供。

さらに重要だったのが、客の店内滞留時間が比較的短いことだ。「もしシャトレーゼでなく、例えば飲食店を併設していたら、お客さんの滞留時間が長く、駐車場が埋まったままになるかもしれません。本屋さんに行きたいのに駐車場が空いていない、というケースが起きる恐れがあります。だけど、イートインコーナーのないシャトレーゼであれば、購入後、すみやかにお店を出ていただける可能性が高い。駐車場を本屋さんとうまくシェアできると思ったのです」と袴田さん。

オープンして1年たっていない段階だが、今のところシャトレーゼでの売り上げは想定を超えており、袴田さんは「立ち上がりはうまくいったと評価できる」と言う。明屋書店の客数も増加傾向で、前年を超える売り上げがあるという。期待通りファミリー層の客が増えたのか、児童書、学習参考書、趣味などの実用書が好調のようだ。

「店舗をどんどん増やしているシャトレーゼと手を組み、一緒に成長していきたい」と語る袴田さん

都市部ではデジタルプリント店併設、収益源に

トーハンは2027年3月期までの3年間の中期経営計画に「事業領域の拡大」を掲げており、幅広いパートナー企業と多方面にビジネスを展開している。背景には、本業の取次事業で経常赤字が続いていることがあり、取次事業以外でも収益を上げて、経営基盤を安定化させたい考えだ。

そのわかりやすい例が、シャトレーゼのFC店運営だ。書店への回遊効果はもちろん、FC店としての収益があることも見逃せない。袴田さんは「四国中央市と同じような書店併設型、あるいは単独でのフランチャイズ店展開を検討していきたい」と語っている。

シャトレーゼ以前では、印刷会社のアクセアとFC契約を結んでいる。2023年11月には、東京都文京区役所にほど近い「あおい書店春日店」を一部改装し、デジタルプリントショップ「アクセア春日店」をオープンさせた。

アクセア春日店が店内に併設された「あおい書店春日店」

「アクセアなら、面積の狭い都市部の書店内でも省スペースで併設させることができる。パンフレットや名刺などビジネスマンや学生のニーズも見込めます」と袴田さん。シャトレーゼは郊外の書店で、アクセアは都市部の書店で、というすみ分けだ。すでに前橋市の「ブックマンズアカデミー前橋店」、名古屋市の「らくだ書店」とあわせて3店舗に拡大している。

「アクセアのプリント事業の売上は順調で、利益も出はじめています。企業や個人のお客さまへの認知が進んで固定客が増え、書店への集客にもなっています」と袴田さんは言う。

一般的に書籍の売り上げのうち書店の取り分は22%ほど。この利益率は書店経営の厳しさを示す数字として知られるが、袴田さんによると、書籍に比べてアクセアの利益率は高く、トーハンが書籍を納入する取引先の書店からも問い合わせが寄せられるなど、関心が高いという。

ローソンや無印良品、「+書店」に乗り出す

一方、書店に熱い視線を送る業界もある。

コンビニ大手のローソンは2021年から、書店併設型の店舗「LAWSONマチの本屋さん」を相次いでオープンさせている。ローソン店内には書籍コーナーもあるが、マチの本屋さんでは、小さな書店と同規模の20~30坪を書籍スペースに割いている。

「『家の近くの書店で本を購入したい』というニーズは確実にある。書店単独では厳しくともコンビニと一体化した新しい形であれば需要の掘り起こしができると考えた。地域の書店機能という付加価値を提供し、選んで頂ける店舗を目指したい」(ローソン広報部)とし、2025年2月末現在で、書店空白地域を中心に全国で13店を展開している。

2025年1月、つくばエクスプレス守谷駅(茨城県守谷市)にオープンした「ローソンTXアベニュー守谷店」。駅周辺に書店がなかったという

生活雑貨「無印良品」内にも書店が入る。2025年3月1日にオープンした「無印良品イオンモール橿原店」(奈良県橿原市)には、書店と飲食店を融合したブックカフェ「本と喫茶 橿原書店」を併設した。書店自体は出版取次大手の「日本出版販売(日販)」が運営していて、10万冊と豊富なラインアップを誇る。

無印良品を展開する「良品計画」の清水智社長は、「人々の知的好奇心を満たしてくれる書籍は日常生活に欠かせない重要な商品だと考えています。だから、化粧品や衣類に並べて書籍を売る。実売に結びつかない点が難しいところですが、本との偶然の出会いを演出する書店は集客装置としての意義は大きく、にぎわいをもたらしてくれます」と話す。

さらに、無印良品イオンモール橿原店の下田裕店長は「地域文化を伝えてくれるものとしては書籍の形をとっているものが多い。この店舗では、奈良ゆかりの人が選ぶ『未来に贈りたい本100冊』をラインアップしてもらいました。今回は日販の直営店ですが、地域書店と無印良品の融合という形は他店舗であってもいいのかなと思います」という。

ローソン、無印良品ともに共通するのは、多くの人が書籍を求めており、書店には人を集める力があると考えていることだ。ただ、書店だけでは経営が難しいのが実情で、「書店+α」なのか「他業種+書店」なのかはそれぞれだが、書店と他業種の融合はますます盛んになりそうだ。

「無印良品イオンモール橿原」内にオープンした「橿原書店」