AWSジャパン、金融戦略「Vision 2030」を発表--日本社会の安定した基盤を提供

寺島菜央 (編集部)

2025-02-26 08:02

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は2月25日、金融戦略に関する説明会を開催した。今回新たに「Vision 2030」を展開し、日本社会・経済の安定した基盤を提供していくという。

 AWSジャパンは2021年に「Vision 2025」を掲げ、金融機関の戦略パートナーとして「Amazon Web Services」(AWS)を活用したサイバーリスク保険の開発や顧客体験(CX)の強化、勘定系システムのクラウド移行、デジタル人材の育成など、金融機関のさまざまな取り組みをサポートしてきた。

AWSジャパン 常務執行役員 金融事業統括本部 統括本部長 鶴田規久氏
AWSジャパン 常務執行役員 金融事業統括本部 統括本部長 鶴田規久氏

 AWSジャパン 常務執行役員 金融事業統括本部 統括本部長の鶴田規久氏は「4年間の取り組みの中で、AWSは日本の社会基盤であるということで、お客さまから社会基盤としての責任を持ってほしいという言葉をいただいている。そういう意味で、新しいVision 2030では日本社会・経済の安定した基盤をこれから私どもが提供していくという方針を打ち出した」と説明する。

 Vision 2030では(1)戦略領域への投資拡大、(2)新規ビジネスの迅速な立ち上げ、(3)イノベーション人材の育成、(4)レジリエンシー(回復力)のさらなる強化――の4点に注力していくという。

Vision 2030で注力する領域
Vision 2030で注力する領域

 (1)戦略領域への投資拡大では、生成AIなどの開発ツールの活用により、IT資産のモダナイゼーションを加速させていく。金融情報システムセンター「令和6年金融機関アンケート調査結果」によると、日本の金融産業における戦略投資の「新規開発(前向き)」の比率は平均10.6%。鶴田氏は「それ以外の投資はレガシーシステムの保守・メンテナンス、それらに関わる作業に費やされている。この投資比率を、AWSサービスを使って変えていきたい。そしてより戦略的なエリアに投資を振り分ける環境を作っていきたい」と説明する。

 AWSは、生成AIに関するサービスとして「インフラ」「ツール」「アプリケーション」の3層から提供しているが、特にソフトウェア開発を促進する生成AIアシスタント「Amazon Q Developer」が金融機関のゲームチェンジャーになるという。同サービスは、コーディングやテスト、デプロイ、トラブルシューティング、アプリケーションのモダナイゼーションなど、開発者のタスクの生産性とスピードを向上できる。

AWSが提供する生成AIサービス
AWSが提供する生成AIサービス

 「COBOL」で開発した勘定系システムのコードをAmazon Q Developerに入れると自動的に解析し、変換のための計画や仕様を出力して「Java」のコードに自動で変換する。日本総合研究所(日本総研)ではAmazon Q Developerを活用し、Java8のモダナイゼーションの基礎検証を行い、試行を開始している。また、大規模メインフレーム上で稼働中のCOBOLプログラム資産について将来的なJavaへの移行とマイクロサービス化への展開を計画している。

 (2)新規ビジネスの迅速な立ち上げでは、AWSが持つ240以上のクラウドサービスを活用して開発の速度を向上させることができるとしている。また、AIアシスタントの「Amazon Q Business」では、ユーザーが意識をせずに大規模言語モデル(LLM)を使い、自社のコンテンツやデータから適切な回答やコンテンツの作成ができる。

 2025年2月20日から大阪リージョンでも生成AIアプリケーション構築サービス「Amazon Bedrock」を利用できるようになり、本格的な業務アプリケーションの展開が可能になった。さまざまな金融機関がAWSの生成AIサービスをカスタマーサポートや営業支援、社内の業務効率化などに適用し、ビジネス変革に取り組んでいるという。

Amazon Bedrockで利用できる基盤モデル
Amazon Bedrockで利用できる基盤モデル

 (3)イノベーション人材の育成では、AWSの技術者が伴走して人材の育成やシステムの開発を支援する。りそなホールディングスでは、新任役員の必須研修としてAamzonが掲げる「Working Backwards」(顧客視点で必要なサービスを考える手法)を活用したトレーニングプログラムを実施し、顧客起点への組織変革を推進した。

イノベーション人材の育成
イノベーション人材の育成

 (4)レジリエンシーのさらなる強化では、AWSのインフラとサポートによるレジリエンシーの向上とサイバーセキュリティ対策の強化を行う。鶴田氏は「障害が起きる前提でいかにエンドユーザーに迷惑をかけないシステムを構築するかが重要」と強調する。

 AWSジャパンが一般公開している「金融リファレンスアーキテクチャ 日本版」は毎年改善を重ねている。2025年は金融情報システムセンター(FISC)13版に対応し、現行のワークロードと実装ガイドのさらなる拡充を図る。また、サイバーレジリエンスではベストプラクティスと実装リファレンスを提供するほか、ミッションクリティカルの部分では設計・開発・テスト・運用の全体をカバーするリファレンスの提供をしていくという。

金融リファレンスアーキテクチャ 日本版2025年の取り組み
金融リファレンスアーキテクチャ 日本版2025年の取り組み

 AWSジャパンは、いかにレジリエントなインフラを構築するかをレクチャーする「AWSオペレーショナルレジリエンス・ワークショップ」を開催し、AWSにおけるレジリエントなインフラの仕組みやレジリエンシーを実現するAWSの設計思想、開発・デプロイの手法を説明する。

 サービス面では、インシデント解決を加速するプロアクティブな監視と5分以内に初期応答を実現する「AWS Incident Detection and Response」を提供している。2024年10月1日から日本語によるサポートを開始しており、AWSの大規模障害を含むインシデント対応支援によってレジリエンシーを向上できるとしている。

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