去る2024年6月1日に、拙作宙に参る4巻発売を記念してサイン会を開催していただきました。先に結論を述べますとサイン会は無事に終わり、大変楽しく有意義なものでした。本記事では、その経緯とか準備とか当日の様子を書こうと思います。というのも普段アナログ絵を描かない私が「サイン会ってどうやるの?」と思ったもののあんまりサイン会について書いてる記事が見つからなかったので、己の覚書含めこれからサイン会をやる人の参考になればと思う次第です。
・事の起こり
4巻発売の2ヶ月ほど前、リイド社担当編集氏より「サイン会しませんか?」という連絡がありました。今回のサイン会は青山ブックセンター本店という書店さんが主催されており、それを取り次いでいただいた形です(担当氏が打診してくれたのか書店さんが企画してくださったのかは不明)。
この話を頂いた時、4巻の販促について「ガンガンやりましょうぜ!!」というテンションだった一方で懸案が一つありました。というのも日頃デジタルでしか絵を描かない私はアナログ絵に大分苦手意識があったのです。まして人前で一発書きのサイン会などは最もおっかない。とはいえ4巻を売らねばモードの私は以前「なんかあるなら東京でも呼んでくださいよ!(ガハハ)」くらいの事をいってた気がするので「やりましょう」と返事をしました。
・準備期間
サイン会の開催が決定してまずサインの練習に取り掛かりました。デジタルで絵を描く事の特徴に「いくらでもやり直しが出来る」という点があります。ボタン二つ(ctrl + Z)で直前に描いた線を綺麗さっぱり消すことができ何度でもトライ出来るため自嘲気味に「線ガチャ」などと言ったりもします。このデジタル環境で絵を描いていると、やはりアナログ一発勝負のブシドーブレードマン達に比べると線の精度は落ちると思います。精度の低い線に精度の低い線を繋げざるを得ないのでズレがズレを呼び「思ってたんと違う〜」という声が頭の中で漸化式的に増加しこだまし続けるハメになります。要はアナログで線を引くのはデジタルと全然違うのでその練習をせにゃならん、という事です。

依頼のメールを見ながら最初に描いたソラたち
これでサイン会を引き受けたのを勇気と言ってはいけない気がする
練習は日々数をこなしていくとして、次にどういう図柄にするか、という問題があります。要件としては「満足度があり」「描きやすく」「時間内に描ける」図柄である必要があります。
「満足度があり」…サイン会は態々足を運んで頂くのは勿論のこと、書籍発売の二週間後に開催が決まっており、本の受け渡しはサイン会当日となるためそれまで読者の方を待たせており、そのコストに見合う絵で返す必要がありました。余所様のサインイラストを調べてみるとキャラ単体の絵が多いのですが、私は割合淡白な絵柄のためソラと宙二郎の2人を描くことで許してもらう事にしました。
「描きやすく」…先述の通りアナログに不安があるためなるべく描きやすい図柄が必要でした。例えば正面顔というのは目を二つ書く必要があります。二つ描くという事はミスするリスクが2倍、むしろ二つの目の位置関係も考慮する必要がありますから2倍以上危険な図柄です。そういう訳で自ずとソラは横顔になりました。一方で宙二郎は目を二つ描くと言っても元のリスクが限りなく低い単純な造形なので倍になっても知れており、むしろコンセントを二重四角で囲うだけで済むため正面顔となりました。よくできた子やで。
「時間内に描ける」…サイン会は書店さんのスペースをお借りするので当然時間が決まっており、その間にお越し頂いた方にサインを描き切る必要があります。今回は大体ひとり頭2分くらいで、入れ替わりや購入者の方の名前を書く時間といった諸々を含めると1分30秒前後で絵を仕上げる必要があるかな、と見積りました。
これらを加味して最終的にこういう図になりました。

最終的な図柄、名前は楷書(下手)
この図を毎朝6回描いて、時間を測ります。6回×1分30秒/回=9分以内にかければまぁまぁなスピードです。最終的には7分半~8分半くらいとやや早めに落ち着きましたが、本番では多少手間取っていたのか大体時間ピッタリくらいになりました。
画材については無印良品の水性サインペンを使いました。サインペンについては溶剤が水性か油性か、着色料が顔料か染料かの組み合わせでザックリ4種あるようなのですがコレは水性顔料インクです。溶剤・着色料で色々特性があるようですが、顔料は退色し辛く丈夫であるとのことと、書き味がよく裏写りもないのでコレにしました。またサインペンのフェルト芯は描いてると徐々に潰れて線が太くなってきます。この商品は最初期が細くてある程度描くと一定の太さに落ち着くのでサイン会の3日前くらいの練習から新品のペンに新調してベストな状態で本番に臨めるように調整しました。
もう一点準備したものがあります。普通書籍のサインは表2(カバーを外した本の本体の一番最初の面が表1、表1の紙の裏面が表2)に描くようなのですが、宙に参るは表2にも絵が入っており、また他の部分も諸々の理由で書籍本体にサインに適した所が無かったのです。と言う訳でカバー裏にサインをすることになったのですがカバーの折り返しの部分が手に当たって結構ジャマです。
そこでクリアファイルと鉄板と板マグネットを用意します。

左からクリアファイル、鉄板、板マグネット
これでカバーをこうやって押さえると描きやすいです。

1巻の献本に試し書きした物
板マグネットを使うと厚みがないので手の邪魔になりません。鉄板はクリアファイルで挟むようにしているのですが、本に鉄板が直で触れて痛むのを防ぐのと、鉄板の段差を少しなだらかにできます。
こういった諸々の準備を2か月程進めていきました。
・当日
準備した諸々を持って会場へ向かいます。会場での布陣は下図のような感じです。

サイン会布陣、会場や出版社により異なる場合があります
端的に言うとファンの方がどんどん来て出版社の担当・営業交えて褒めまくられながら絵を描き続ける、という状態です。サインには購入していただいた方の名前を書くので私は「〇〇さんですね、よろしくおねがいします」と一言挨拶した後は基本的に言葉を切り出す事は無く担当氏と営業氏にトークは任せていました。脳のリソースが絵に持ってかれているので頭上で飛び交う三者の会話に言えそうなことがあったら言うくらいがギリでした。
練習通りできたか?というと先述の通り時間は結果的にぴったりでしたが、序盤は緊張してしまい少し絵が荒れてしまっていたかもしれません。練習ではコピー用紙に書いていましたが、本番はカバー裏のややツルツルした紙に描くのも勝手が違った部分があるかもしれません。今回50名分のサインを描かせて頂きましたが、意外と体力的には疲れた感じはそこまでしなかったものの、前述の通り情報を色々入れながら絵を描いているので脳はグルグルしている状態でした。
とはいえ最初に書いた通り、このサイン会は非常に楽しかったです。以前はコミティアなどで読者の方と会う事もありましたが、連載が始まってからは参加できていなかったので、少し懐かしい気持ちになりました。開催頂いた青山ブックセンター様、リイド社様、お越しいただいた皆様、本当にありがとうございました。
・総評
アナログが苦手でも準備すればなんとかなるぜ。