一方、製造業の多い広東省では、現地の日系企業において、中国人従業員とのトラブルが多くなってきているという。
香港に隣接した広東省深圳市で日系企業向けのビジネス会員誌を発行する加藤康夫氏が解説する。
「日系企業に勤める中国人社員からすれば、日系企業は薄給で残業が多い上に出世ができない。そのくせ中国語もできない定年前の日本人が、総経理(社長)としてふんぞり返っている。そうした不満が、今回の反日デモ以降、高まっていて、いわば『社内デモ』があちこちの企業で勃発しているのです」
深圳のある日系電気機器メーカーの日本人総経理が語る。
「わが社の中国人営業マンたちが、売り上げの1%ほどを、機器の売却先からキックバックして懐に入れているのは黙認していました。ところが9月のデモ以降、5%も取っていることが発覚したのです。私が叱りつけたら、中国人社員たちは逆ギレし、『このご時世に日系企業に勤めてやっているだけでありがたく思え!』と言うのです。顧問弁護士とも相談しましたが、営業マン全員に辞表を叩きつけられたら会社は潰れてしまうので、こちらが泣き寝入りするしかありませんでした」
広東省のある日本料理店の日本人店長も、やはり中国人従業員たちの「反逆」に遭ったという。
「9月のデモ以降、売り上げは3分の1以下に落ち込みました。そんな中、先日、夜の開店前に中国人の従業員たちが、何かコソコソやっているので問い詰めました。すると、偽醤油や偽ウイスキーなどを準備し、本物は自分たちが持ち帰っていたのです。私が『自分の目の黒いうちはそんなこと許さない』と怒鳴ったら、彼らはケロッとして言いました。『被害額100万元以下なら公安も見逃してくれるのに、なぜダメなんですか?』。結局、偽食品の提供は止めさせましたが、ショックは大きく、年内一杯で店を閉めようかとも思っています」
中国人の従業員問題で一番深刻なのは、日系企業に日本語の堪能な中国人従業員が就職しなくなるというリスクだろう。北京の大学で学生たちに日本語を教えるベテランの日本人教師が明かす。
「各大学の日本語学科で学ぶ学生の親たちが、『頼むから日系企業には就職しないでくれ』と自分の子供に頼むという現象が起こっています。このため学生たちは、『日本語に懸命に取り組んできた自分の4年間は何だったのか?』と悩み始めています。他の言語を専攻する学生たちからは、憐れみの眼差しで見られている。私自身、10年以上、北京で教えてきましたが、こんな逆境は初めてで、帰国しようかどうか迷っています」