フジテレビの港浩一前社長が、かつてバラエティ番組で起きた事故の隠蔽に関わっていたことがわかった。ジャーナリストの中川一徳氏が『文藝春秋』(2025年3月号)に寄稿した「日枝久フジサンケイグループ代表への引退勧告」で、入手した内部文書をもとに詳しく記している。

火渡りをした男性が重篤な火傷で多臓器不全

 問題の番組は2004年1月19日深夜に放送された「退屈貴族」だ。退屈な表情を装うタレントに刺激的な映像を見せ、表情を変えたものは画面から消えるという内容。この日は、74歳の男性が多摩川の河川敷で、灯油をまいて火をつけた段ボールの上を歩く映像が放送された。

ガバナンス問題に揺れるフジテレビ ©文藝春秋

 ロケは2003年12月4日夕方に行われた。スタッフが見守るなか、男性は10歩ほどで激痛に我慢できず、燃え盛る段ボールから離れたが、大火傷を負った。ところが、スタッフは病院に連れていくことなく、タクシーに乗せて自宅に送っていっただけだった。その後、男性の容体は悪化し、隣に住む兄が発見して、救急車で病院に搬送した。足裏から太ももにかけて重篤な火傷を負っており、12月20日には呼吸が一時停止、多臓器不全に陥った。

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 だがフジテレビは男性が深刻な状況に陥っていることに気づかぬまま番組を放送。 放送翌日、視聴者から「老人の火渡り」はやり過ぎだという声が寄せられたことで、ロケの存在に気が付いたという。その後、当時制作2部長だった港氏と「退屈貴族」の社員プロデューサーらが謝罪のため、男性の兄夫婦を訪問している。

記者会見に応じるフジテレビの港社長(左) ©時事通信社

謝罪はしたものの、事故を公表しなかった

 港氏らは訪問が遅れたこと、収録後の措置に落ち度があったことなどを謝罪した。だが、社内調査で番組担当者へのヒアリングを行ったのは、彼らが所属している編成制作局の幹部。事実認定を、本人と管理責任を負う立場の者だけで済ませていた。

 最大の問題は事故を公表しなかったことだ。港氏ら管理責任者、制作担当者の懲戒処分は一切なされず、それどころか港氏は半年後、バラエティ制作センター室長というポストに出世している。