1日の基調講演の後で、米アドビ システムズ(Adobe Systems)社のモバイル・デバイスビジネスユニット モバイル&デバイス部門担当ディレクターのアヌープ・ムラーカ(Anup Murarka)氏に、グループインタビューする機会を得た。ここでは、Adobe MAX 2007の初日に正式リリースされた携帯電話機&組み込み向けFlash実行環境「Flash Lite 3」の詳細をレポートする。
米アドビ システムズのモバイル&デバイス部門担当ディレクターのアヌープ・ムラーカ氏
Flash Lite 3はFlash Player 8ベース
Flash Lite 3は、今年2月にスペインで開催された携帯電話関連の国際的なイベント「3GSM World Congress」で開発が発表されていた(関連記事1)。その時点で動画再生機能を強化することが明らかになっていたが、今回ムラーカ氏は改めて、「Flash Lite 3は(パソコン向けの)Flash Player 8ベース」であると説明した。
初期のFlash Lite 1.0/1.1はFlash Player 4相当であったが、Flash Lite 2.0/2.1はFlash Player 7相当となり、初めてFlashコンテンツの複雑な動きを制御するスクリプト言語「Action Script 1」を取り入れた。今回のFlash Lite 3ではFlash Player 8ベースになり、より複雑な動き(条件分岐など)をくわえたパソコン向けFlashコンテンツも携帯電話機などで再生可能になるわけだ。これはFLV(FlashVideo)再生機能の強化よりも大きなニュースである。
日本では携帯電話キャリアーとして(株)エヌ・ティ・ティ・ドコモ(NTTドコモ)が採用を表明し、フィンランドのノキア(Nokia)社の携帯電話機「N95」などが搭載端末として発表されている。しかし、KDDI(株)(au)とソフトバンクモバイル(株)は今のところ静観の構えだ(両社ともFlash Lite 2.0対応端末は発売中)。
Flash LiteとFlash Playerの大きな違い
ここで、パソコンユーザーは違和感を覚えるかもしれない。例えば、パソコンのウェブブラウザーでFlashを用いたウェブサイトにアクセスすると、そのパソコンにFlash Playerが組み込まれていない(もしくはバージョンが古い)場合には、自動的にFlash Player最新版のダウンロードを促される。つまり、Flash Playerはパソコンユーザーの任意によって自由に組み込めるわけだ。
しかし、携帯電話機向けのFlash PlayerというべきFlash Liteは、そういうワケにはいかない(米国でVerizon Wireless社がBREW環境でFlash LiteとFlashコンテンツのダウンロード配信を2006年秋に開始したが、これは例外的な存在。関連記事2)。
ムラーカ氏の発言を借りれば、「アドビ システムズにとってFlash Liteの顧客は携帯電話キャリアーであり、端末メーカーである」のだ。携帯キャリアーが自社の新しいサービス(=ビジネス)にFlash Liteを必要とし、端末メーカーがそれに対応できるスペックの機器を開発して初めて、Flash Liteが搭載されるというわけだ。
言い換えれば、Flash Lite 3をいち早く採用表明したNTTドコモは、何らかの新たなサービスを予定しているとも読み取れる。
もうひとつ、パソコンのFlash Playerと携帯電話機のFlash Liteには大きな違いがある。携帯電話機の場合、OSから利用してメニュー画面や配信されるFlashコンテンツ(ニュースや天気情報など)の再生表示にされるケースと、いわゆる「フルブラウザー」のプラグインとしてのみ提供されているケースの2つがある。前者の場合は、フルブラウザーからはFlashのランタイムが参照できないため(実装方法にもよる)、例えばFlashを利用したウェブサイトが表示できないケースがある。逆に後者の場合は、フルブラウザーを使ってFlashを使ったウェブサイトを閲覧しない限り「Flash Liteが載っていることに気づかない」ユーザーもいるだろう。
Flash Player 9のAS3が、Flash Lite 3に載らなかった理由
ムラーカ氏に、「Flash LiteとFlash Playerは、いずれ1つのFlash Playerとして統合されないのか?」と聞いてみた。ムラーカ氏の答えは「パソコンと携帯電話機では、CPUもメモリーもディスプレーも、さらにユーザーの使われ方も違っている」。当面の間は目的の異なるFlashランタイムとして、個別に開発・提供されるだろうと述べた。
実は、この質問をぶつけたのには理由がある。パソコン向けの最新版「Flash Player 9」は、かつて「Flash Player 8.5」として開発されており、大きな違いはFLVの再生パフォーマンスの強化とAction Script 3(AS3)への対応とされている。つまり、Flash Lite 3にAction Script 3が組み込まれれば、Flashコンテンツの開発者は(前述のようなハードウェアスペックの違いを別にすれば)パソコンと携帯電話機でほぼ共通のFlashコンテンツが開発できることになる。事実、これに期待しているという開発者の声もあった(関連記事3)。
にもかかわらず、Flash Lite 3がFlash Player 8(パソコン版での1つ前)をベースにしたのは、前述のように携帯キャリアーと端末メーカーが「まだAS3の再生環境を求めなかった」ことが一番の理由なのだろう。
さらに、ムラーカ氏は「エンタープライズでAS3を求める声があるのも分かるが、(Flash Liteを組み込んだ)現在の携帯電話はコンシューマーユーザーに支えられている」として、まずはFlashを用いたパソコン向けウェブサイトの閲覧や、FLV動画の再生を実現することが重要だとまとめた。とはいえ、「AS3サポートもキーチャレンジ(重要な挑戦)である」と発言していたので、将来的には期待してもよさそうだ。