“世界で最も知られている世界地図は「メルカトル図法」と呼ばれ、1569年に発表されました。当時、南極大陸の存在は知られておらず、ヨーロッパの国々が興味を持っていたのは、銀や香辛料などが採れる赤道付近の地域でした。メルカトル図法では、赤道付近の地理は比較的正確に表現されるため、当時としては「ほぼ完璧な世界地図」でした。 一方で、緯度が高くなるほど、大陸の面積が拡大され、形がゆがんでしまいます。極地に近づけば、近づくほど、大陸を引き延ばさないと、平面に描くことができないからです。このため、南極大陸やグリーンランドなどは、実際の面積よりもはるかに大きくなってしまいます。 さらに、地図上の2点間を結ぶ距離も正確ではありません。例えば日本からブラジルへ行く場合、実際はアメリカを経由するのが最短距離ですが、メルカトル図法の場合、遠回りしているように見えてしまう欠点があるのです。 こうした問題点を解決するために、さまざまな世界地図が考案されてきました。その中で、鳴川さんが最も優れていると考えているのが、1946年にアメリカ人のバックミンスター・フラーが考えた「ダイマキシオン・マップ」です。この世界地図では、6つの大陸の面積と形がほぼ正確に描かれています。 発表されたのはアメリカとソ連の冷戦が始まった時期ですが、この地図を見ると、冷戦が東西ではなく、北極海を挟んだ対立だということがわかります。 一方で、大陸の面積と形を正確に描くことを優先したため、地図がギザギザになっていまい、太平洋が3つの領域に分断されてしまうなどのデメリットがありました。 鳴川さんは、メルカトル図法のように地球1個分を長方形に収めつつ、ダイマキシオン・マップのように大陸の面積や形がほぼ正しい世界地図を描けないかと考えました。 当初、鳴川さんは面積が完璧な地図を目指していましたが、妻から「面積が正しいからと言って、形がいびつでは誰も見向きもしない」と厳しい指摘を受け、面積を極力正しく保ちながら、形のゆがみも少なくし、地球儀での陸や海の見え方と違和感がない姿で平面に描く方法を模索しました。 そこで鳴川さんが考え出したのは、地球の表面積を96等分して、その面積の比率を保ちながら正四面体の表面に書き写すという方法です。正四面体は、はさみで切り開くと展開図が長方形になるという特徴を利用したのです。 鳴川准教授は何回も地球の模型を作っては、はさみで切り開き、失敗を何度も繰り返して、オーサグラフの完成にこぎつけました。 球体の表面を長方形に完全に書き写すことは不可能だと数学的に証明されているということですが、オーサグラフでは、南極大陸をはじめ6つの大陸が面積がほぼ正しい状態で、形も均等にゆがみを分散することでほぼ正確に描かれています。 この結果、グリーンランドはオーストラリア大陸よりは小さいことが、正しく表現されています。 また、東京からブラジルへ行くのにアメリカを経由するのが最短距離であることを示すこともできました。”
—