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 DX(デジタル変革)に取り組む企業の間で一時、従来のIT部門とは別に新たなIT組織を創ることが流行したのを覚えているだろうか。

 組織の名称も「IT」や「システム」ではなく「デジタル」や「DX」を冠し、統括する役員も新たにCDO(最高デジタル責任者)を置くケースが多かった。その結果、CIO(最高情報責任者)の下で基幹システムなどを預かる従来のIT部門と、CDOの下でDXの推進役を担う新たなデジタル部門が併存する形となって、今に至っている企業は数多い。

 だが、こうしたITの2元体制を明確に否定する企業も出てきている。例えば武田薬品工業は2022年に「データ・デジタル&テクノロジー(DD&T)」と呼ぶ組織を新設し、従来のIT部門も一体化させている。

 これまで多くの企業が、IT部門やCIOとは別にデジタル部門やCDOを置いたのには、それなりの理由がある。DXには、IT/デジタル技術を活用して新しいビジネスを創るといった「攻め」の側面と、既存の業務を変革するという「守り」の側面がある。このうち攻めのDXを担う組織として、新たに設置されたのがデジタル部門である。

 では、なぜ攻めのDXを担う組織を新設したのかというと、とびっきりの技術者を中途採用するためだ。一流のプログラマーであり新ビジネスの創出も担えるような人材は、従来の給与体系では雇えない。なので、既存の部門とは切り離す形で新組織を創り、高給で処遇できるようにしたわけだ。CDOの新設にしても、社外の人材を役員として招くためとの意味合いがあった。

 「まぜるな危険」でもあった。従来のIT部門の多くは、基幹システムなどの保守運用が主たる業務になって久しい。その保守運用業務も外部のITベンダーに委託するのが一般的となり、IT部門の「素人集団化」が進んでいる。そこに中途採用した一線級の技術者を「まぜる」わけにはいかないとの判断も働いたはずだ。